大変動を忘れていたわけではないが
結論の出ない事をいくら考えても仕方がない。
ただ誰かと議論できるかといえば、結局は何も知らない者同士。最終的な問題に関して正しい答えを導き出せるかといえば謎だ。
だけどそれでも、それは今の話だ。
より召喚者として成長し、この世界を知って、出来れば好きになってもらって……その上で、選りすぐった人間には徐々に情報を伝えていこう。
どっちにしたって、俺一人では何が出来るって訳でもないしな。
今考えて見れば、それはあまりにも呑気な考えではなかったのだろうか?
だけど後悔したところで、もうどうしようもない。
結果だけが全てだ。
❖ ◆ ❖
事の起こりは、大変動だった。
「クロノス様、そろそろ大変動が近いと予想されているであります」
「ああ、そうだな。今回はかなり間が開いたな」
「長い時は本当に何年も起きませんからね」
「そういや気になっていたんだけど、大変動ってのは世界全ての迷宮で一斉に発生するのか? それともある程度の地域内に限定されるものか?」
「当然、迷宮全てで発生するであります」
「クロノス様の世界の地震っていうのとは違いますね」
「やっぱりそうなのか」
まあ予想はしていた。あれだけ地形が変わるのに、迷宮は何処も同じ構造だったからね。
「それにしても、もう少し正確に分かると良いんだけどな」
召喚庁の庁舎には大変動を計測するメトロノームのような装置が置かれている。
俺が初めてセポナに出会った時にあったような奴だが、見るからに旧式だ。
時期が正確には測れない点は同じだが、こっちは更に精度が落ちる。現在の予想だと、今この瞬間から4か月くらいの間に発生するって予測だ。
何というか、これが一番悪い。せめて2か月後から6か月以内とかなら退避の時間が取れるのだが。
他国にはそんな感じで更に高性能な品があるそうだし、作成は不可能ではないんだよな。
「召喚者達はまだ迷宮だったか」
「心配ですね」
「ああ」
とにかく、やはり召喚者を増やすしかないか。
より良いものを作るための材料も必要だし、何よりスキルの幅が欲しい。
もっと多くの人間が集まれば、それだけ選択肢が増えるわけだしね。
だが実際に大変動が発生したのは、そこから僅か3日後の事だった。
□ 〇 □
「俺は急ぎ迷宮へと向かう。10日ほどで一度戻るから、その間に誰かが戻っても地上で待機させておくように」
「了解であります」
これほど早く起こるとは予想していなかった。
誰か巻き込まれたりしていなければいいのだけど。
こうして、俺は久々に迷宮へと潜った。
今の迷宮床から壁、天井に至るまで縫い針のような細く鋭い針が無数に生えている。しかも長さがまちまちだ。揃っていれば剣山の様に案外何とかなるが、これでは触れようものなら確実に大怪我だ。
俺はスキルで見ているが、実際の光を当てればさぞかしキラキラと光っている事だろう。
尖端恐怖症の人間なら見ただけで気絶しそうだが、そうでなくてもこの迷宮はダメだ。
ちなみに距離を外して適当にポンと飛んだから、俺のブーツは完全に貫通して足に針が刺さっている。
金属板が入ったスパイク付きの迷宮探索用だが、甘かったようだ。
痛みを外していなかったら、今頃は痛みで転がって、最後は穴だらけになって死んでいるだろう。
もう不安しかない。
だが引き返している余裕はない。
いない可能性のあるルートは全て外す。だがまだまだ曖昧だ。距離が遠すぎるか?
だがそんな事を気にしてどうする。曖昧とはいえいる方向が分かる。確実に生きているんだ。
とにかく距離を外して飛ぶ。同時に、着地地点の針を全て外す。
だがこんな真似が出来るのは俺だけだ。頼むから、セーフゾーンに居てくれよ。
こうして何度目かの移動をして辿り着いたのは、セーフゾーンの中だった。
壁も床もレンガ作り……というより、無造作に積んである感じだ。結構な高低差がある。
中には見慣れた召喚者が集まっている。まずはほっと一息だ。
だけど……
「他の連中はどうしたんだ?」
「え、あ、ク、クロノス様?」
最初に反応したのは風見絵里奈。あの役にも立たない魔法使いの帽子を持っていた子だ。未だに何で持っていたのかは分からないが、まあ人の趣味なんてどうでもいい。
スキルはコピー。最初は白黒の複写くらいだが、今では少し成長してカラーコピーも可能になっている。
この状態では、何の役にも立たないけどな。
いつも読んで頂きありがとうございます。
告知を忘れていましたが、今回から新章です。
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