表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

272/685

あれもこれもまだまだこれからだ

 突然クロノスがいなくなった会議室には一瞬の静寂が訪れた。

 だがそれも本当に一瞬の間。すぐさま喧騒に包まれた。


「あの怪物(モンスター)が来る!? 冗談じゃないわ!」

「待って、ただの脅しかもしれないわ」

「それに我が国の迷宮(ダンジョン)を荒らす口実かもしれない」

「でも本当に倒せなければ、いつかはこの国だって」

「ラーセットに召喚者がいる内に、倒させても良いのではないかしら?」

「その場合、あの怪物(モンスター)以上の怪物(モンスター)がこの世界に残るという事になるのよ。召喚者というね」

「話が通じるだけマシだわ」


 侃々諤々(かんかんがくがく)。結論の出しようもない不毛な会議という名の大騒ぎが続いたが、内務庁渉外2部支部長、ウェーハス・エイノ・ソスは冷静に天井を眺めていた。


 ――確かに、いずれは倒さなければ滅びる事に変わりは無いわね。


 伝説級の凶悪な怪物(モンスター)。それが実際に幾つもの国を滅ぼし、そして隣国であるラーセットに現れた。

 小さすぎて、弱すぎて、経済も発達していない貧しい国。だからこそ、南北どちらも手を出す必要もなく、緩衝地帯としての価値だけで残されてきた国に。


 でもここが時代の節目。その何も持たない小国が召喚者という力を手にし、幾つもの国を滅ぼした怪物(モンスター)を撃退した。

 そしてそんな召喚者が、今も続けて召喚されているという。

 ここで対応を間違えたら時代の波に乗り遅れる。それどころか、国家存亡にも関わる重要事項だ。


「3庁の長官を集めなさい。大至急よ」


 内務庁渉外2部支部長、ウェーハス・エイノ・ソス……もとい、イェルクリオ代表顧問にして最終意思決定者。通称“宰相”は緊急会議を開く事を決断した。





 〇     ❖     〇





「ただ今帰ったよ」


 召喚庁執務室の扉を開けると、まだ残業をしていたケーシュとロフレはかなり驚いた。

 まさか本当に日帰りになるとは思っていなかったのだろう。

 同時に、書類と渋い顔でにらめっこしていたのが嘘のようにパアッと明るくなる。

 ああ、この子たちと出会えてよかった。

 ユンスの野郎は逆さ吊りにでもしてやろうかと思ったが、この二人を紹介してくれたことでチャラにしよう。


「ぶ、無事のご帰還に祝辞を述べさせていただくであります!」


「いやいらん」


「お帰りなさいませ、クロノス様」


「ロフレもいつもの感じで良いよ。俺はあまり偉い人間にはなりたくないんだ」


「ふふ、でも召喚庁のトップですよ」


「それも4長官の中では、実質一番だともっぱらの噂です」


「立場はまあ仕方がない。そうでなければ出来ない事が多すぎるからね、地位と権力は歓迎するさ。だけど祭り上げられるような人間にはなりたくはない」


「ボク達からすれば、クロノス様は地位と実績にあった尊敬を得られるべきだよ」


「自分もそう思います」


「それは勘弁してほしい。一つは普段存在を外している意味がない。いくつか事情があって、同じ召喚者にも俺が俺であることは秘密なんだよ。まあその点は前にも言ったかな。だから目立ちたくはない。もう一つは権力には義務が付きまとうからね。当然問題の全てを背負うつもりだが、会合だの式典だのパーティーなど、そう言った事には一切関わりたくないんだよ」


「クロノス様がそういうのであれば、この話はもうしません」


「ありがとう。それじゃあ、仕事を手伝おう」


「それではお願いするであります」


 召喚庁の仕事は意外と多い。各召喚者の状況確認。陳情の整理。成果の確認。迷宮(ダンジョン)の様子の報告。

 大変動で無駄になるとはいえ、地図の製作も大切だ。

 特に、今までのラーセットではそれほど遠くまで潜る事は出来なかった。

 だが召喚者は、その地点を軽々と超える。結果として使えるセーフゾーンが増え、中には地下街として使えるような場所もある。良いことづくめだ。


 そしてある意味最も大切な事。それがラーセットを襲った怪物(モンスター)の痕跡集めだ。

 歴代の(クロノス)がどれだけ上手く出来ていたかは分からないが、まあダメだった事は確定だ。

 可能なら、まず最初にその場所と対峙方法を教えるしな。うん、本当に最優先だよ。

 そんな訳で、まだ成功していない。


 ――本当に、状況は良い方向に動いているのだろうか?

 まあ考えても分からないものは仕方がない。

 どちらにしても手がまだ足りない。今動いている召喚者は実質8人だ。俺は長く迷宮(ダンジョン)に籠ってなどいられないしな。

 だけどここから一気に増やすかと言われたらダメだ。今いるメンバーがもう少し強くならないと、新人を押さえられない。


 それに死んだときに光に包まれて消えるシステム。あれをどうにか構築しないとだ。

 アイテムであれば助かるが、召喚者のスキルだとマジで困る。

 最悪、俺が召喚された時にまで出来ていないなんてことにもなりかねない。


 今の段階で無理に増やしても、(まと)まりがつかなくなるだけ。

 かつて、幾度も召喚者が不安などから反乱を起こしたと聞いている。現地人とのトラブルもあったという。

 それに今回は意図的に外したが、良いアイテムを手に入れたらスキルを入手して帰れるって話もどうするか悩む。

 今後ラーセットが復興するごとに、苦労して迷宮(ダンジョン)に潜る意味に疑問を感じるようになるだろうからな。





いつもお読みいただきありがとうございます。

ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けるとものすごく喜びます。

餌を与えてください(*´▽`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ただいまと言って誰かが笑いかけてくれる幸せ。 こんな些細なことでもクロノスにとっては大事なんですね…… 更新ありがとうございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ