最初から個人の一存で決まるなんて思っていないよ
飛んだ場所は最初に彼らがいた会議室。
遺体は隅に動かされており、軍務庁長官の遺体の周辺には多くの高級将校っぽい人間が泣いていた。
そして室内はもちろん室外にも、多くの人間が集まって泣いている。
慕われていたのだろう、だがこいつの決定で死んだラーセット人は、この部屋に入り切れるような甘い数ではない。
「邪魔をするぞ。用の無い人間は出ていけ」
中央に置かれたテーブルの上に着地すると同時に、内務庁長官を放り投げる。
転移自体はアイテムで知っているのだろうけど、まさかこことは思わなかったのだろう。面食らっているようだ。
どうせラーセット人に囲まれているような状況を想定していたのだろう。
そんな余裕なかったんだけどね。
というか、部屋は完全にパニックに陥った。そりゃまあそうか。
全員が悲鳴を上げて逃げていく。なんかデジャブ。よっぽど召喚者が怖いんだろうな。
「おお、ガウゼンス殿、何と痛ましい姿に」
「悪いがラーセットの人間はもっと痛ましい姿だがな。五体満足な死に様なだけありがたいと思え」
内務庁長官は憎悪の目を俺に向けるが、何を言っても無駄な事を理解したのだろう。特に何も言わなかった。
実際、怪物の襲撃で疲弊したラーセットに攻め込んだ事は事実だ。
召喚者を理由にしたが、ラーセットが手に入れた召喚者の技術、国土、国民、そして地上にあるセーフゾーン。それらが欲しかった事は疑う余地がない。
その程度の事は、弁えているという事だ。
「だが安心しろ。お前には――というよりマージサウルの人間には交渉の余地が残されている。俺が寛大である事に感謝しろよ」
「何をふざけた事を」
「用件があるなら聞くんじゃなかったのか? それともお仲間に囲まれて気が大きくなったか? もしくはプライドの問題か?」
ここは実際にこいつのホーム。しかも今までいた人間は逃げて行ったが、時間をおけば完全武装の兵士たちが来ることは明白だ。
しかしそれが何の役にも立たない事は、既に見ているはずだが。
「よく考えて答える事だ。お前の返答次第では、ラーセットで死んだ人間の10倍の人間をここで始末してやろう」
「出来るものなら――」
間髪入れず、窓から見えていた高層ビル一棟の基部を外す。
まるで解体工事の様に、轟音と土煙を上げながら、消えるように倒壊した。
綺麗に壊してやったのは、周りに被害が出ない様にするための慈悲だ。だがあのビルだけで、万という数の人間が死んだだろう。
絶対にやらない予定だったが、何かやらなければいけないなら仕方がない。
内務庁長官はあまりの事に目を見開き、絞り出すように呟いた。
「げ、外道……」
「出来るものならやってみろ――そう言いたかったんだろう。少しだけ手間を省いてやっただけだ。そもそも、俺はお前たちの言う召喚者だぞ。それとも、攻め込んだ時の口上はただのいいがかりか」
あまり殺さない様にしようとは思っている。無血での和平が一番いい。そんな事は子供にだって分かる。
きっと高校生だった頃の俺ならここまで割り切っていなかっただろう。
まあセポナやひたちさんを助け、奈々を取り戻すために同じことをしたが、あの時とは覚悟も考えも違う。
当時は必死で、もうそれしかないからだった。だけど、地球人数十億の死を前にしたら、この程度の犠牲など問題にもならない。
より多くの人間を助けるために、少数を切り捨てる。そうだ、俺はもうそちら側の人間になったんだ。
いつか俺は……俺と戦う日が来るのだろうか。
まあ今はそんな話は置いておいて――、
「それでどうする。まだ犠牲は必要かな」
「要求を呑もう……」
聞こうではなく呑もうか。今のは相当に堪えた様だな。
「簡単な話だ。今後はラーセットに手を出すな」
「その様な事、出来ようはずがない」
「まだ何本もビルが見えるな」
「待て、待ってくれ! これは自分の一存だけでは決められない。三庁の長官だけでもダメだ。他国との話し合いも必要になる。ここで私が何を約束しても、そんなもの簡単に覆される程度のものでしかないのだ」
ふーむ、これは事実だろうな。
こいつが絶対権力者とは思わないし、そもそもそうだったとしても、ここでした約束が守られると思うほどお花畑では無い。
だけど力は十分に見せた。心は痛んだが、容赦のない点も見せた。ここで約束さえ取り付ければ、後は破る勇気があるかの話だと思ったが……甘かったか。
「ならじっくりと話し合って決める事だな。だがもし再び攻めて来るような事があれば、その国は更地になると思え」
今回はこの程度までが限界だろう。
だけどこれで、早々に攻めて来る事は無いと思われる。
首都が直接攻撃を受ける状況では戦争にもならないからな。
やるとしたら相打ち覚悟の特攻だろうが、ラーセットの様な小国と運命を共にするとは思えない。
結局、散々に暴れて俺は帰った。
この結果を待つには、まだまだかなりの時間が必要だろう。
次回より新章となります。
北が一次落ち付いて、次は…
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