こいつは良い物を手に入れた
ラーセットを攻める会議はまだ続いている。
最初はやるという意思の確認だったが、だんだんと詳細の話になった。
実際にはさらに細かく詰めるのだろうが、各国への連絡や今回は本軍である事。また前回不参加だった国にも檄を飛ばす事なども決められた。
それに――、
「ラーセットも一枚岩ではありません。内部から切り崩してしまえば降伏も早いでしょう」
内務庁長官のその言葉には多少興味がわいた。
何処の国も一つの意志で統一されているわけがない。しかも国はあんな状況だ。こちらの国で受け入れてくれるとなれば、裏切る人間は確かに出てきそうだ。
「何か策があるのかね?」
「いくつかの商家の不満は相当に高まっています。特に現内務庁長官のゼルゼナは人望がありませんからな。我らとの交易権や護衛の手配などをしてやれば、軽々と我が方に転がるでしょう。ここに――」
そう言って、蝋人形のような内務庁長官は分厚いリストを机に置く。
「これらは既に協力の約束を取り付けている者たちです」
「商家以外にも案外多いな」
「聖堂庁関係者は無しか。まあ異教徒など、どのみち生かしてはおかぬがな」
この世界の戦争は直接対決よりも威圧と封鎖がメイン。流血は少ないと聞いていたが、やっぱり宗教関係ともなると別物か。
だけどこのリストは良いお土産になるな。
「では我らは雪解けを待たずして進撃しよう。本軍の準備はもう整っているからな。他の国にも伝達だ。連中もしばらくは雪で動けまい。その間に、包囲さえ完了すればいい」
前回の襲撃は大体夏だったが、今度は春頃か。もっとも、実行されればの話だけどな。
俺は認識を外し、無造作に机の上にあった書類を掴む。
「これは貰って行こう。予定外の土産に感謝するよ」
「何っ! ええい、衛兵! 衛兵は何をしとるか!」
軍務庁長官と思われるが叫ぶと、扉が開いて2人の兵士が入って来る。
まあこれで10人とか20人とか入ってきたら困る。いや戦闘がじゃなくて、どんな状況で待機していたのか想像すると笑ってしまいそうだからな。
なんて冗談は後にしよう。取り敢えず、入ってきた衛兵の命を外す。それと各長官の左右に控えていた連中、合計6人だな。こいつらの命も外す。
いきなり何の抵抗も無く8人が動かなくなったことに恐怖したのか、それとも俺の存在がそうさせたのか、内務庁長官は悲鳴とも何とも言い難い叫び声をあげて部屋から出て行った。
捕まえようと思えば捕まえられたし、殺そうと思えばそれも出来た。だがまあ、後でも良いだろう。
目の前にはまだ、堂々としている大男と腰を抜かしている男がいる。軍務庁の長官と神殿庁の長官だな。
こういう時、日ごろの心構えが出る。さすがは大国。軍事のトップはしっかりしている。
それに比べて、もう一人は酷いものだ。
「貴様は何者だ!」
「それを聞くのは野暮ってものだろう。逃げ帰った連中から何も聞いていないのか? せめて映像くらいは残していると思ったがな」
「召喚者という訳か。こんな所まで入り込むとは大したものだ。さすがは化け物 だと褒めておこう」
「この禍の化身! 悪魔の眷族め。我が秘術を持ってこの世から消し去ってくれる!」
へえ、そんな手段があるんだ。何の期待もしていないがな。
腰を抜かしたままの神殿庁長官が取り出したのは、四角い金属の風鈴に似たものだった。
「アーゼ、アーゼ、ラナトハン、エルベーム……」
その風鈴がチリンチリンと高い音を奏でると共に、何やら奇妙な呪文を唱え始める。
それを見た感想は、“なる程ねぇ”だった。
こいつは迷宮産の品だ。予想だが、怪物に対しては一定の効果があるのではないだろうか。
俺にとっては、本当に風鈴の音にしか感じないけどね。
というより、この部屋にいるもう一人――軍務庁の長官にも動揺や変化は無い。
うーん、ここまで怪物扱いされるのも心外だな。
いっそここで全員やってしまおうか。
ついでに奴らがやった様に――いや、それ以上に街を破壊してやろうか。
今の俺にとって、乱立する高層ビルなど大量殺人の為にある便利な道具でしかないのだからな。
全部壊したら、それだけでどれ程の人口が失われるのか。
などと物騒な考えが頭を過るが、さすがにやらないよ。
この世界の常識から考えれば、そんな事をしたら未来永劫、どちらかが亡びるまで戦いが続きそうだしな。
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