このシステムを作った奴の顔を見てみたい
一人倒されたら大人しくなる……なんて、世の中甘いものではない。
いや、そうあって欲しかったがね。
「□※●!」
間髪入れずに次が来る。考え込んでいる余裕なんてありはしない。
ここで物語の主人公だったら……神のような力を持っていたのなら、彼等の体力と戦意が尽きるまで受け流して、そこから話し合いにもっていけたのかもしれない。
或いは、人殺しなんて絶対に出来ないほどに優しい人間だったなら……。
2人、3人と、襲ってきた兵士を斬り伏せる。
感じる――そのたびに舞う血飛沫が、俺の後悔を赤く塗り潰していくのを。
「おいおい、分かっているのか? お前にとってはゲームかもしれないが、彼らはこの世界に生きる人間だぞ。地上には家族だっているのだがな」
「そう思うのなら、なぜ俺を襲えと命令した!」
「言葉が分かった……ってわけじゃないだろうな。まあ、あの状況からなら馬鹿でも分かるか。言っただろう。この世界では、嘘つきは信用されないのさ。お前の話には幾つもの嘘があった。信用には値しない」
男の両目――瞳孔の奥で何かが光る。紋章の様な、少し茶色い淡い光。
同時に左右から聳え立つ岩の柱。先端は尖っている細長い円錐形。それが地面から尚も伸びながら、俺に襲い掛かって来た。
あえて言うのなら、石の触手。
――これがアイツのスキルか!
発動した瞬間、目で分かった。
いや、目!?
勇者が何か変なことを言っていた。だけどそれどころじゃなかったから、今まで完全に忘れていた。
俺の目はどうなっている?
鏡なんてどこにもなかったから確認なんてしてこなかった。
水面だって気にしたことも無い。俺の目が何か違うのか?
待て待て、そんな事を考えている場合じゃない。
左右から襲い来る柔軟な石の槍。あんなもの、直撃したら確実に死んでしまう。
しかも相手はそれだけじゃない。人間の兵士達も襲い来る。
ある意味幸いなのは、石の槍の攻撃が限定的な点だ。おそらく兵士達を避けているからだろう。
だけどそれもいつまで続くか分からない。人数が減るほどに、あの自在に動く石槍は自由度を増す。
何人目かの兵士を盾ごと斬り裂いた時、俺の腹はもう完全に決まっていた。
俺には優先順位がある。俺も含めて、人の命は大切だ。それは別世界の人間だって変わらない。
だけどそれ以上に、奈々や瑞樹先輩、龍平達の方が上だ。
それに対して、ここの兵士達や2人の召喚者の命は、俺よりも軽い。
それでも――、
「剣を引け! 戦わないなら俺も剣を収める。だが続けるなら、俺は全力で抵抗する!」
まだ戦わない事に未練があった。それは本当に愚かで、命を賭けた戦いの時にやって良い事じゃなかった。
叫んだ時に俺の動きは止まる。もちろん十分警戒はしている。決して無防備に行動した訳じゃない。
だけど――とすっと軽い音と共に、俺の胸には1本の矢が刺さっていた。
ぼんやりとした目で見ると、兵士の陰に隠れて弓兵が見える。乱戦の中、しっかりと狙っていたのか。
2本、3本。体に矢が刺さる。終わるのか、ここで。
今度は現代に帰るのか? それとも、ここで死ぬのか?
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
――な!?
今まで俺の体があった場所に、矢がぽとぽとと落ちる。
《パンパカパーン。おめでとうございます。スキルが強化されました》
頭に響く、場違いな高い声が無性にイラつく。
作った奴の首を鶏のように締めてやりたい。






