引率する教師の気分だ
「君達の不安は分かる。だから当然俺も常に傍にいる。その点は安心して欲しい。だが、スキルを使い迷宮で経験を積む事で、君達はより強くなる。実際、その点に関してはまるでゲームの様だよ。日本とは違い、ハッキリとして変化を感じる事だろう」
「でも。以前召喚されたという三人は失敗して帰ったんですよね?」
「君は三浦君だったね」
「凪で良いですよ。普段はそう呼ばれていますので」
「では凪君。確かにそれは君の言う通りだ。だがそれは成長しないことを意味するわけでは無い。彼らはまだ成長の途中であり、それになにより人を殺せなかったからだ」
「あたしらには人殺しをさせるんですか?」
「殺してなど欲しくは無いな。君たちにお願いしたいのは、あくまで迷宮探索だ。希少な鉱石や武器や防具、変わったアイテムなんかもある。そういった物を集めてもらいたいんだ。ただもう分かっていると思うが、ここは夢とは思えない程にリアルな世界だ。かなり恐ろしい目にも合うと思う。もしもう耐えられないとなったら――」
「言えばあのおっさんみたいに元の場所と時間に帰してくれるんだろ。ただあれは心臓に良くない。本当に殺したのかと思った」
確かにその通りなんだよな。誰が見たって、あれは本当に殺している。
だけど苦しむ事も無くいきなりパタリと倒れるから納得してくれているだけだ。
それも表面上だけな。
アレで苦しみ抜いて死なれたりしたら、全員ドン引きだ。
というより、いずれ見てしまうだろう。迷宮で傷つき、苦しみ抜いて死ぬ姿を。
しかも、召喚者として成長して来たらこうはいかない。それこそ殺し合いで解決だ。
今考えると、あの光って消える奴――というより転移するシステム。あれは良くできていたな—。
誰が作ったのかは分からないが、少なくとも俺には絶対に無理だ。
そう考えると、誰か協力者が欲しい。
だけど口伝を考えれば、全てを伝えて協力を仰ぐのは厳禁だ。だけどごくわずかの人間であれば――いや、これを考えるのはまだ早いか。
本当はもっと細かく知りたいが、試して試して試しまくった結果があれなのだから仕方が無い。
そう信じるぞ、俺。
「確かにこっちの肉体は死んでいるからな。その感覚は正しい。だけど向こうに本来の肉体がある。こっちの世界の体は、いわば操り人形の様な物だ」
「否定する材料も無いしね、信じるよ。ただその分、夢ならではの好待遇を約束して欲しいな」
「それは任せてくれ。今の国はこんな状況だけど、最高の待遇を約束しよう。ただ先にも言ったが、迷宮は厳しいぞ。正に悪夢って感じだ。心して掛かってくれ」
こうして微妙ながら全員が納得して迷宮へ行く事になった。
期間は3か月。俺にとっては長いような短い様な微妙な期間だが、初めての迷宮探索をする彼等にとってはかなり厳しいだろう。
まあ途中で戦利品を運んだりするので潜りっぱなしではないが、出来れば3ヵ月潜りっぱなしでも良いと思っている。
多少無茶した方が能力は上がるからな。
それともう一つ。3ヵ月も有れば逃げた連中は何とか国に帰還するだろう。
だがとてもじゃないが、新たな軍備を再編するには期間が足りない。即時には動けないだろう。
やるタイミングとしては最高だ。だからそれまでは、じっくりゆっくり、だけどちょっとスパルタに、彼らを育てるとしよう。
こうして俺達6人は迷宮へ旅立った。
地上で何かあれば、すぐに知らせてもらう予定なのは相変わらず。
その場合は5人を残してしまう事になるが……その時は必ず骨は拾おう。
だがまあ、それは半分冗談だ。
今はまだ虫だらけとはいえ自然の多い環境で、敵もそれほど多くは無い。
いないわけじゃないけどね。
それに大変動は当分発生しそうにない。まあまあ安全だと言える。
戦闘はテレキネシスのように武器を操る児玉里莉をワントップにして、残りは後方待機。
見ているだけで心臓が痛くなる歪な編成だ。彼女にもしもの事があったら、このチームは全滅するぞ。
ただ戦えるスキルを持った人間が他にいないのが痛い。
早々に退散してもらったあの男がいたらどうだったかとも思うが、ああいったトラブルメーカーはむしろいない方がいいか。
戦闘は見ているだけで怖いが、その分装備は充実させた。
セポナも使っていた持ち運び便利な小さな固形燃料。食用や飲用に耐えるかをどうかを確認する紙の試薬。
それに中型モンスター程度では傷もつかない素材で作った寝袋。周囲を警戒するためのいくつかの警報器。短距離限定だが、仲間とはぐれた時に使う通信機。
当然、大変動の兆候を報せる機械も持たせてある。始めて見た時の巨大なメトロノームのようなものほど正確には測れないが、脱出するくらいの時間はあるだろう。
うん、恵まれているなぁ……。
自分の境遇と比べて涙が出そうになる。
あの時は本当に何もないまま放り出されたからな。何をやってもダメだったので、自棄になったんじゃないのかと思ってしまう程に酷かった。
いつもお読みいただき大感謝です。
まだまだ物語はこれから。今後とも、よろしくお願いいたします。






