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ためらったりはしないよ

 新たに目覚めた6人は、前の3人と全く同じ反応だった。

 というか、俺たちの時も同じ反応だったなとしみじみ思う。

 前回は司祭に紛れていたが、今回は認識を外して見学だ。


「ここはラーセット。貴方がたとは違う世界です」


 ミーネルの演説が始まったが、男たちはガン見状態だ。スケベどもめ……なんて考えたが、ダークネスさんの幻聴が聞こえてくる前にやめておこう。

 一方で二人の女性は怯えた様子で部屋全体を見渡している。

 あれはやっぱり怖さだろうか。見知らぬ土地に飛ばされ、周囲を囲まれているのだからな。

 確かにもうちょっとこの体制は改めた方がいいかもしれないが、多分歴代の俺が試している。そして失敗したからこうなったのだろう。


 こうするだけの理由があった以上、好奇心で変えても碌な事にはならない。ここは素直にこの体制で行くべきだ。

 でも完全になぞっても失敗に辿り着くだけって所は注意しないとだな。難しい……。

 というか女性はもう一人いたはずだが……と思ったら、男たちに混ざってミーネルのエロ衣装をガン見していた。おっさんかお前。


 ミーネルの話はいつも通りすんなりいくかと思ったが、やはりトラブルは発生した。

 最年長と思われる男が、彼女の話を遮って大声で騒ぎ始めたのだ。


「俺はゲームなんぞやっている暇はないんだ! 今すぐ戻せ! それが嫌なら……」


 男の一人、他の5人は全員同じ何処かの高校のブレザータイプの制服だが、この男は居酒屋の店員のような格好だ。年齢も他よりも高い。でも俺よりは少し若いか? 26歳くらいだろう。

 そいつはミーネルの説明を大声で遮ると、好色そうな視線で全身を舐めまわすように見ると――、


「お前らもそうだろう! いきなりゲームだぁ? 見返りもないだぁ? ふざけるな!」


 そう言って煽り始めた。

 なんか目的が明白過ぎて頭が痛い。まあ分かり易い人間は好きだよ。こんな奴じゃなければな。

 幸い、いきなり見苦しく騒ぎ出した男を支持するような空気は無い。

 助かったよ。これがもっと時間が経って、周りが疑念をもってから扇動されたらヤバかった。

 この状態になった時の対処法はもう決めてある。

 やりたくはなかったがな。


「分かりました。わたくし共も、無理に協力させるつもりはございません。ここはあくまで夢の中。お目覚めになったら、全てを忘れている事でしょう。ですが無意識にとはいえ、わたくし共の召喚に答えてくださってありがとうございました。そして、ご足労をおかけして申し訳ありませんでした」


 そういって、ミーネルは深々と頭を下げる。

 期待と違ったのか「い、いや、まあ……」とか言い出したが既に手遅れだ。

 こいつの命を外す――容赦なく。


 もしスキルを使い始めて召喚者としての成長を始めたらこんな事は不可能だ。

 だがまだ卵。召喚者としての力に目覚め始めているが、スキルも使ってない初期段階だ。

 この状態なら、今の俺の(スキル)で干渉できる。

 男がまるで糸の切れた操り人形の様にどさりと崩れ落ちると、周りから悲鳴が上がる。そりゃそうだろう。目の前で人が死んだんだ。


 俺だって罪の意識が無いわけじゃない。こんな奴だったが、無理やり召喚したのは俺だ。心が痛い。

 だけど周囲の人間が暴力で取り押さえるのはダメだ。その瞬間、俺達は彼らの敵になってしまう。

 だからこれで良い。全てが終わったら、幾らでも裁かれるさ。


「大丈夫です、お静かに願います。先ほど申し上げましたように、魂にお帰り頂いただけです。この方は、再び、元の世界で目覚めます。ご心配はいりません」


 4人はまだざわついているが、一人は意外と冷静だった。そういや悲鳴も上げなかったな。

 身長は176センチってところで、今の俺と同じくらいか。

 長く艶やかな黒髪をツーサイドアップにし、髪留めには猫のマークが付いている。

 ブレザーの制服は女の子らしくよく似合う一方で、隠しきれない大きな膨らみが目立つ。

 顔立ちはきりっとしたイケメンタイプで、女子高だったら下級生にモテモテってところか。

 ただ男どもに混じってミーネルの体をまじまじと見ていた当たり、どこか曲者かもしれない。

 単純に興味からなのか、俺が召喚された時の様に服装の意味を考えていたのか……。


 そうやってミーネルが周りを鎮めている間に遺体を外に運び出した。

 だけど最初の3人と同じように、丁寧に扱う訳にはいかない。これはただの器。そういう事になっているのだから。

 ただ、その“魂の器説”は正しいかもしれないんだよね。

 現実世界には奈々(なな)や先輩の遺体があった。

 それに研究者になってからは、それこそ世界中の犠牲者の資料と格闘したものだ。

 だけど俺が研究した限りでは全員、遺体が損壊されたような形跡はなかったんだ。


 こちらの世界の傷が向こうにも影響したのは、俺の左手の痛み。そして龍平(りゅうへい)の傷。その位だ。

 そして両方に共通するのは、あの世界から帰った事。

 生きて戻った時に影響が残る意味は謎だが、こちらでどんな無惨な死を迎えても向こうでの死は外傷もない不審死だ。そう考えると、この遺体に意味があるとは思えない。

 でもまあ、ポイと捨てるのには抵抗があるけどな。


 というかアレか。龍平(りゅうへい)にあの傷をつけたのは俺だったんだな。

 あの時は狂気の所業とか思ったが、思い出してみれば何でもない。俺が斬り落として、甚内(じんない)って人が回収して、薬で繋いだだけだ。

 種明かしをしてみれば簡単な話だったな。





今日も無事更新。頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  異世界で死んだら現実世界でも死ぬ。魂は一つ。という理解でいいのでしょうか?  繰り返し行き来した敬一がバケモノなんでしょうね……  更新ありがとうございます。
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