どうやら今は動けないらしい
暫く話し合いを見守っていたのだが――、
「騙し討ちをしたんだろう、この卑怯者め! だそうだ」
「そう思うなら、竜に奇襲された可能性も考えるように言ってくれ。大体そんなに心配なら、どうしてこんな所に集まっているんだ。先に進んで勇者の元へ行けばよかっただろう」
「……お前、ここに来るときに何を聞いてきたんだ?」
そう言って、男は後ろにあったオブジェを指さした。
一見するとメトロノームのようにも見えるけど、違うか……多分だけど時計の類だな。
高さは5メートル位あるだろうか。上の方が少し細くなっている立方体。中央には白い筋が掘られ、その前を音もなくワイパーのように棒が左右に揺れている。
先端近くには二つの丸があり、左はほぼ黒で、端に微かに白く三日月のようなものが見える。右は真っ黒だ。
当然だが、あんなものは見た事は無い。
「俺は何も説明を受けていないよ。そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は成瀬敬一。杉駒東高校の1年で、つい最近召喚されたんだ」
「なるほど、新参者か。色々知らないのは理解できるが、それにしたって知らなすぎるだろう」
「スキルがハズレだって言われて追い返されたんだよ。帰還部屋とやらに連れて行かれて、黒い渦の中にポイさ。だけどなぜかは知らないが、帰れずにこんな所を彷徨っているってわけだ。その説明も受けたいし、一緒に召喚された友人たちが上にいるんだ。素直に帰してくれるなら、勇者の遺品は全て置いて行くよ」
「今は動けんよ。そうか、本当にこれの説明は受けていないのか。あれは大変動の時期を表すタイマーだ」
「大変動?」
そういやそんな事を聞いた気がする。誰からだったか……まあ勇者か竜か、どっちかしかいない訳だが。
「大変動も聞かずに来たのか? 幾らなんでも、そいつはちょっとおかしくないか?」
おかしくないかと言われても、事実なのだからどうしようもない。
「だから言っただろ。俺はスキルなしでお払い箱。召喚されてから帰るまで、多分1時間も経ってない。だから説明なんて何一つ無しさ。そんで黒い渦のある床に飛び込んだんだよ。だけど――」
そこまで言って、言い淀む。他3人が死んだ事を、ここで言って良いのか?
言わなくても上に行けばどうせ説明しなければいけない。だけど今ここで言って良いかは別次元だ。
「だけどどうした?」
「――さっき話した通りさ。何の手違いかは知らないけど、帰れなかった。それでまだこっちにいるんだ。だからとにかく上に戻って、説明をしてもらわないといけない。そうでなければ、俺自身も何一つ分からないんだ。頼むから、俺を行かせてくれ」
「今はどのみち無理だ。大変動が迫っていると説明しただろう。そんな状態だから、誰もこのセーフゾーンから出られないんだよ」
「だからその大変動ってのは何なんだ?」
すると、後ろにいた女性がやれやれと言った風に頭を振ると――、
「大変動というのは、この迷宮が作り変えられる事よ。この世界の有史以来、多くの人が何千年と掛けて迷宮探索をしているの。だけど全容は未だ分からない。その大きな要因が大変動なのよね」
「セーフゾーンは?」
「ここのように、いかにも人工的な場所を見た事は無いのかしら? こういった場所は大変動でも安全よ。でもそれぞれを繋ぐ道は変わってしまうの。だから迷宮探索は遅々として進まない。そんな状態だから、私達の様な異邦人が呼ばれるわけよ。それじゃあ、こっちからも聞いていいかしら?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「貴方は帰れずにここより下層に飛ばされたようだけど、そんな装備でどうやってここまで来たの?」
確かに。もう食料も尽きているし、キャンプ道具なども何もない。高校の制服以外は勇者の鎧の上部分と剣だけとお粗末だ。いわば裸で登山しているようなものなのだろう。
「食べ物は持てる限りの竜の肉を持って移動してきた。それでも途中で足りなくて、ダンゴムシのようなやつも結構食べたよ。幸い水は結構湧いていたから、その点に不便は無かったな」
「ふうん……明かりはどうしたの? 見た所、何も持たずに来たみたいだけど」
……少し妙な事を聞く。
「いや、多少は暗いが身動きが取れないって程じゃないだろ? あちこち光っているし、この位なら移動には困らないよ」
「……そう。それでモンスターには出会わなかったのかしら?」
「芋虫の大軍や巨大なトカゲは見たよ。だけど強さも分からない相手と戦いたくないからな。隠れてやり過ごした」
「なるほどねぇ……」
何か納得したように、男が頷いた。
鬼が出るか蛇が出るか。いや、どちらに出てこられても困るが、今までの話に不自然さは無かったはずだ。
ご意見ご感想や、ブクマや評価など、何でも頂けるととても喜びます。
ド日休んだ分、ちょっと投稿ペースを上げましたけどいかがでしょう?
展開が遅いとのご意見もご意見もいただいておりますが、出来ればもうちょっと読んで頂けると嬉しいです。






