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俺達が世界の脅威とはね

 案内された場所は、まだ残っていた高層ビルの460階。

 今までは犯罪者として登っていたけど、こうして堂々と入るのは気分がいいものだ。

 何と言っても、後ろめたさがない。

 などというお気楽な気分は、辛気臭い会議により一発で吹っ飛んだ。


「召喚者を呼び出すことは、(いにしえ)よりの約定により禁止となっているはずだ。ラーセットはそのような事も忘れたのか」


 そういったのは北方にあるという大国、マージサウルの使者だ。名前はよく覚えている。俺が暴れたどさくさに、この国を侵略しようとした国の一つだったな。

 グレーの長髪だが、黒の豹柄のような模様が入っている。染めたのでは無いとすれば、変わった人種だ。

 まあラーセットの人たちの髪や瞳も個性的な色合いだけどな。

 背は高く、髪は前後共にかなり長い。その長い前髪は真ん中分けして後ろに束ねている。

 背の割に体の線は細く、細目で団子鼻。決して美男子とは言い難いが、その分筋肉は凄い。

 歳は30を超えた位か。代表としては若いが、ここまで来るのだからこの辺りが限度だろう。


 到着した当時の様子を写真で見たが、全員ボロボロで酷い状態だった。

 確か南の大国イェルクリオよりも近くて、直線距離だと250キロメートルくらいだったと聞く。

 ただ大山脈に大河と障害物が多く、実際には相当に迂回しなければならないとミーネルが言っていた。それを聞いていなければ、単に嫌味を言いに来た程度なのだろうとあしらっていただろう。

 だが外の危険さは十分知っている。この使節団も、相当な数の犠牲者を出してここまでやって来たのだ。

 話くらいは聞いてやっても罰は当たらないよな。


 こちらの代表者は4人。

 最近軍務庁長官になったテス・ハン・マーカー。既に60を超え、いつお迎えが来てもおかしくはない。

 軍務庁は俺達の世界の様な階級制で、前軍務庁長官が無くなったのでお鉢が回ってきたわけだ。

 初めて出会った時に、いきなり「誰かと代わって欲しい……」と言われた辺り、やる気はゼロだとうかがえる。


 もう一つが内務庁長官のケール・ライ・ライス。まだ40代半ばと壮健だが、背は低く猫背、瓶底眼鏡に痩せた体と、大昔の漫画なんかに出て来そうな人だ。

 こちらも年功序列でこの地位に就いた。

 本人は就任式で、ぼそっと「死んでいれば良かった」と呟いたそうだ。この国のトップはやる気が皆無だな。そんなに政治は嫌か。


 両長官共に、アラブの人間を思わせるような白いふわっとしたトーブを纏っている。この世界の伝統的な礼装なのだろう。


 そして最後は聖堂庁長官のミーネル。

 服装は出会った時と同じ。金の装飾が施された白いビキニブラと紐パン。そしてネクタイの様に首に掛けた、床に付きそうな程に長い前垂れ。

 昔出会った痴女神官のヨルエナも凄い格好だったが、彼女は更に際どい。でもあれも伝統的な礼服らしい。所変わればと言うが、人によっては天国の様な世界だな。


 そう言えばあの時の神官長がヨルエナ・スー・アディン。

 彼女のフルネームはミーネル・スー・アディン。

 聖堂庁は、代々同じ血統の者が引き継ぐそうだ。ただ先代の近縁者は全員自害してしまったので、遠縁の彼女が引き継ぐ事になったという。

 他二人に対し、彼女は「これもまた使命ですから」と、やる気があるのか無いのかよく分からないコメントを残した。多分無いな。


 そしてなんで俺までいるかと言うと、やはり当事者だからという事だ。だがそれだけではい。わざわざ召喚庁なるものを新設してくれやがったのだ。

 立派なオフィスもミーネルがドヤ顔で用意してくれたが、召喚者は俺だけ。職員は聖堂庁から臨時派遣された少女たちと、正直機能しているとは言い難い。

 個人的に言えば、やるべきことや考える事は山ほどある。こんなことをしている暇はないのだ。


「えーその件に関しては、国家存亡の危機にある場合、聖堂庁の権限において召喚の儀を試しても良いとなっています」


 内務庁長官のケール・ライ・ライスが分厚い書物を開いて説明する――が、


「街の様子を見たが、国家存亡の危機とは見られないな。壁もしっかり残っているし、倒壊したビルも少ない。街は相当焼けた様だが、報告にある死者数も大した数ではないではないか」


 たしか死者は2千万人ほどだったか。人口の半分を超えている。よくもまあ大した数ではないなどといえるものだ。


「それは、クロノス様が重体の方々を治癒してくださったからです。そして街の主要建築物が無事なのもまた、クロノス様が怪物(モンスター)を撃退してくださったからです」


 ミーネルは毅然とした表情で反論する。あんなキリっとした顔も出来たんだ。

 まあ急遽代替わりしたとはいえ、一応トップだしな。


「だからその決断が早かったのではないかと言っているのだよ。存亡の危機と言うのなら、せめて人口が10万人は切ってから言うものだ。半減程度で国家存亡など笑わせる」


「ちょっと待て。そこまで減ったらもう国家存亡ではなく滅亡だろうが。一体どんな根拠でその数字を出した」


「召喚者か……化け物め」


 それは他の人間には聞こえないような小さな声だったが――、


「聞こえているぞ。言いたい事はハッキリ言え。そんな程度の人間でも、この世界の使者は務まるのか」


 それを挑発と取ったのか、今度はよりはっきりと、誰にも聞こえる声で言い放った。


「この世界には、人々を脅かす6つの脅威がある。その一つが貴様ら召喚者だ!」


 世界の脅威とは、随分と大きく出たものだ。





いつも読んで頂きありがとうございます。

質問が多かったので改めてですが、同じ人間が何度もループをしているわけではありません。

今の敬一は2話で召喚された敬一当人です。

以前戦ったクロノスもまた敬一ですが、主人公の敬一とは別の人生を送った別人と呼んでいい敬一です。


他にもご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けると凄く喜びます。

餌を与えてください(*´▽`*)


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― 新着の感想 ―
[良い点]  解説ありがとうございます。  さて、異世界のファッション、ビジュアルが安定した突き抜けた感を大いに醸し出していて、大好きです!  今回も楽しませてもらいました。  物語が大きく動いて楽し…
[一言] 現クロノスもとい敬一はさておき 元クロノスは平行世界の敬一のようなものなのね まぁクロノス云々は大体納得したとして先輩とか仲間がどうなったのかが気になるなぁ… 日本の方で死体出てきたとかその…
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