スキルの反動
真っ赤になってどんどん体温が高くなっていくミーネルに対して、こちらはどんどんスキルの副作用が収まっていく。
逆に下半身は元気一杯で完全に押し付けてしまっているが、今はこれを鎮めるためにスキルを使ってはいられない。
「全然収まっていないじゃないですかー!」
「大丈夫、問題ない」
「大ありです! それどころじゃないんですよぉ―。お願いです。後でなら、どのようにして頂いても構いません。ですから――」
ボロボロ泣き出してしまった。説明不足だったな。
「全ては後で説明する。だが安心しろ、必ずラーセットは救ってみせる。まあ見ていろ」
この子がいれば、多少の無茶をしても問題無いな。
――何でそんな事を知っているんだろう?
だけど考えている余裕はない。
「だが君の協力も必要だ。一緒に来てくれ!」
そう言って手を掴む。
「は、はい」
一転乙女の顔になるミーネル。うん、単純な子だなぁ。
でも今は、ぐちぐち説明しなくていいだけあって助かる。
彼女の手を引きながら、燃える街を走り敵を倒す。やっている事はさっきと同じだ。
だが頭の中に、何か声が聞こえてきた気がした。
ああ、何となく分かる。スキルが強化されたんだ。
更に範囲を広げる。60メートル――100メートル。
その中に、死なないやつがいる。
――あれが本体か!?
なぜそう思ったのかは分からない。意識は完全に覚醒しているのに、何処か夢の中にいる様だ。
だけど特殊なやつがいる事は間違いない。
そこには、まるで完全に脱皮を終えたかのような青白い人間が全裸で立っていた。
「お前がここのボスか?」
「お前ば――何だ? 人間でばない」
少し濁りがあるが、人の言葉だ。今までのやつらとはやはり違う。
その言葉と共に、他の怪物と同じ様に突進してきた。
そして目の前まで来ると、渾身の力を込めて殴りに来る。
――ああ、こいつは違うっポイな。
あんなテレフォンパンチなど、当たるわけがない。
それに当たったとしても、普通の人間なら死ぬくらいだ。あの程度の攻撃なんて、何度見たかわからない。
何時? 俺はずっとただの研究者として生きて来たんだぞ。
まあ考えるのは後だ。あからさまなパンチを避けて、触れる。
こいつが本体なら、相当に楽なんだがな。
そのまま安定を外してやると、自らの勢いで地面に倒れ込む。だが勢いは逆に外れないようにしておいた。
そいつは自らの勢いでぐるぐる回りながら、自らが焼き、作った瓦礫の上で鑢にかけられたように削られていく。
「あああああああああー!」
「話すだけの知能があるなら、やったことを反省しろ」
「クロノス様、やったのですか?」
「こんなのは雑魚の延長だ。本体を探す」
「本体……伝説にあるという親玉ですね」
「親玉って……なんか物凄くチープになったぞ。だけど伝説にあるのか……なら、直感で本体があると感じたのも間違いじゃないか」
――直感……それは本当にそうなのだろうか?
まあ今はそれどころじゃないな。
走り、探し、倒し、繰り返すうちに探索範囲も広がっていく。それと共に、成長した実感が心の中から湧き上がってくる。
同時にやって来る疲労と利かなくなってくる自制。そのたびに、ミーネルを抱きしめる。
さすがにもう慣れたという感じだが――、
「責任、取って下さるんですよね?」
額に玉のような汗を浮かべて荒い息でそんな事を言われてしまうと、なんか逆に自制が飛んでいくぞ。
ああ、今すぐここでしてしまいたい。だけどまだ街が燃えている。時折響く轟音と、風と呼ぶにはあまりにも酷い何かが炸裂したかの様な熱風は、高層ビルが倒壊した衝撃によるものだろう。
敵はまだまだ無数にいる。休んでなどいられないが、さすがにミーネルが限界だ。
普通の人間なのに、ここまで俺に付いて来れただけでもすごいものだ。
だけどあくまで人間なんだ。
「何処か安全な建物を探そう」
「そこでその……するんですか?」
しねーよ!
「ミーネルには少し休んでいてもらう。安心しろ、無理はしない。危なくなったらすぐに戻って来るよ」
「危なげがあったようには見えませんでしたが」
「それだけ言えれば十分だ」
まあ傍目には負担は分からないし。彼女からすれば、暫く戦うと突然抱きついて来るようにしか見えていないだろう。
あ、そういえばキスもしちゃったっけか。まあ戦いで興奮したようにしか見えていないんだろうな。
と言うか俺童貞じゃなかった? こんなにも異性に対して積極的な人間だったか?
まあそれは置いておいて、連続してスキルを使いすぎると確かにキツイ。よくもまあ、今まで制御アイテムなしでやって来れたな。
……今まで? 誰が? 何時?
まあいいや、考えるのは後にしよう。
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