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こんなにも簡単に世界は終わるのか

 最初の異変は爆発音だった。

 大きな音と共に、遠くで煙が上がる。交通事故か?


「取り敢えず行ってくる」


「まあ医者だから当然か」


 そう言いながら龍平(りゅうへい)は煙を見上げると、


「たいした事じゃなければいいが、俺も一応行こう。墓参りは今度になりそうだな」


「ああ、すぐには終わりそうにないからな。というかさ、お前俺の足に付いて来れるのか? ここに来るだけで死にそうな顔をしているんだが。少しは運動した方がいいぞ」


「ほっとけ。それより急げよ。嫌な予感がする」


「そうだな」


 立ち上る煙は2本3本と増え続け、微かだが悲鳴も聞こえてくる。ただ事ではなさそうだ。

 だが、救える命があるのなら向かう。それが俺が医者になった理由でもあるからだ。

 しかし、事態はそんな次元の話ではなかった。


 車は多重事故を起こし、クラクションは鳴りっぱなし。煙もあちこちから上がっている。

 その中を、パニックを起こしながら逃げ惑う人々が見える。理由は簡単だ。だが説明は難しい。

 その惨劇の中に、そいつらはいた。人間のようにも見える。

 服を着て、二本の足で立っている。だが上半身は不自然にぶらりと前に垂れ下がり、その背中からは裸の――多分その人ではないかという青白い上半身が飛び出していた。


 頭が痛む。まるでどこかで見たような気がする。だけど、今はそんな事態じゃない。

 でも何をするべきなんだ? 怪我人の数が多すぎる。そして救いを求める声も。行ってやりたい。だけど、足が動かない。

 なぜなら助けを求めた人もまた、背中から生えた青白い怪物に引き裂かれたからだ。


 だけど食べるわけではない。ただ殺すと、次は車の近くで倒れている主婦らしき女性を目がけて走り出した。

 動け、自分! 今助けないでどうするんだ! だけど、どうやって? 武器――何か武器になる物は!?


 その時、2つの発砲音が響いた。

 警官が銃を撃ったんだ。

 それは青白い胴体に2発とも命中した。だけど、一滴の血も出ない。それどころか、怯んだ様子すらない。


「く、来るな! 止まれ!」


 立て続けに、発砲するが止まらない。

 人間部分に当たれば血が出るが、それでも動きは止まらない。

 警官はもう一人いて、そいつは徹底して足を撃った。

 そうだ、それでいい。銃が効かない化け物といえども、見たところ構造は人間だ。移動できなければ無力だと思って良い。

 後は何なのかを調べて――そうだ、もしかしたらあの事件にも――、


 だが、そんな余裕はなかった。

 発砲した警察官に、何処から出たんだというほどの数の怪物が走り込み、群がり、八つ裂きにする。

 あまりの事に呆然とする。だけど、体は本能のままに逃げ出していた。





 そこから先の記憶は曖昧だ。

 とにかく龍平(りゅうへい)と合流し、事情を説明した。

 だが俺の話は支離滅裂で、龍平(りゅうへい)が冷静に取り出した携帯端末を見て事情を把握した。

 世界中に、怪物が(あふ)れていた。それは瞬く間に世界に広まり、それまで人間が築いてきた文明は脆くも崩れ去った。


 監視カメラに、人が変貌する様子が写されており、その様子はテレビの放送が無くなるまで連日続けられた。

 突然ふらふらと壁にぶつかると、両手をつく。

 そこから中途半端なセミの脱皮のように、青白い人間が生えてくるのだ。

 当然、人類も反撃した。現代兵器からすれば、彼らは決して強くはない。倒す事自体は簡単だった。

 だが増える。そして増えた数だけ人類は減る。牛も変貌する。豚も変貌する。ペットもそうだ。敵は倒すよりも遥かに速いペースで増え続け、次々と文明を破壊していった。

 何かの映画に影響されたのか、核を使えと騒ぐ集団が世界中に沸いた。だがどこに落とすつもりだ? もうそんな次元じゃない事は、誰が考えても分かるだろうに。





 俺たちの研究所は、かつての世界同時大量不審死を究明するための施設だった。だけど今は違う。

 周囲を自衛隊が封鎖し、検体が次々と運び込まれてくる。

 俺たちを囲む自衛隊の目的が、俺たちを守る為だけではない事は明白だ。いつ何が引き金になって変貌するのか分からない。だけど、そんな覚悟はとうに定まっている。

 決められない人間は、もう辞めていったし、誰も咎めはしない。どうせ生きているかも分からないしな。


 今、どれだけの人類が残っているのだろうか?

 研究所のテレビは映らないし、ラジオ放送もない。まあ見ている暇も聞いている余裕もないが。

 ただ検体を調べ続けていると、頭痛がどんどん酷くなる。こいつらの影響だろうか?

 それと同時に、何故か左手の甲も痛む。古傷などは無いのだが……。


 痛みは薬で誤魔化し、毎日青い生き物を解剖する。

 そう、もう人間だけじゃない。犬、牛、蛙。それにカタツムリからゴキブリ、ヘビに至るまで、もう何でもだ。

 ここには運び込まれていないが、クラゲから生えた青白いクラゲも目撃されたそうだ。

 自衛隊員の噂話でしかないけど、まあ事実と考えてもおかしくはないだろう。

 世界のあらゆる生き物が、この奇妙な怪物へと変貌している。

 それは、戦って倒すよりも何倍も速いペースで増え続けているのだ。やがてこの星は、この奇妙な生き物……いや、本当に生き物なのか?

 まあ、こいつで埋め尽くされるだろう。


 今わかっている事は、生き物を襲うが食べるためではない。そして何らかの理由で――当然、感染がもっとも疑われているが――とにかく増える。

 変容する対象の生物は人間に限らないが、動物に限られる。植物には変化がない。

 なら無関係なのか? いや、今はそれを研究している段階だ。


 だけどまぁ……間に合わないだろうな。

 最近左手の痛みがひどい。頭痛よりもきつくなってきた。だけど我慢できないわけでもないし、どちらにせよ休んでいる余裕はない。幸い、変化の予兆に体の痛みがあるというレポートは無い。

 なら、最後まで足掻くさ。

 人類最後の一人になったとしても、俺の研究は死ぬまで終わらない。そうだろ、奈々(なな)、先輩。

 龍平(りゅうへい)、お前はまだ生きているか?

 俺はこんな世界に残されちまったけど、早くこれに決着を付けて、みんなの研究に戻らなきゃだ。


 今日も疲れ切って、泥のように部屋で寝る。

 部屋といっても、当然施設の一室だ。着の身着のまま、自宅に帰る余裕もなかった。

 だから私物なんて無いに等しい。この施設に持ち込んだのは、封も切っていないゲームと、特典の時計くらいなものだ……。





これにて日本編は終了。次回より新章です。

いつもお読み頂い気ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
前話で書いたループ説が合ってるならその特典の『時計』が死体郵送システムの核になってた時計では
[良い点] 【急変】の章で、謎の正体はともかく、何が謎なのかくらいは見えてきましたが、【日本】の章で、もう何が何やら……? その上での新章ですね。気合を入れてついていきます。本当に続きが気になるので。…
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