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あの時間はもう戻らないんだ

 今日は待ちに待ったゲームの発売日。もっとも、そんなものに興味はないんだけどね。

 というか、龍平(りゅうへい)まで並んでいることが驚きだ。 


「それで? 何でお前まで並んでいるんだ?」


「いや、それはこっちのセリフだ。俺は通販の抽選に外れただけだが、龍平(お前)ならどうとでもなるだろう」


「そんな手段で手に入れたものを、彼女は喜んでくれるかな」


「……そうだな」


 いや多分喜ぶけどね。入手方法が犯罪とかじゃない限り。

 でもまあ、ここまでしている龍平(りゅうへい)にそれを言うのは無粋というものだろう。


 今日は”永劫のクロノス”というゲームの発売日。正しくはリメイクだ。

 オーソドックスな二人対戦の格闘ゲームで、当時は結構人気があった。大会なんかも開かれて、地方大会ではあったが瑞樹(みずき)先輩が優勝していたと聞いた時は驚いたものだ。

 当時はずっと、ゲームとかとは無縁と思っていたからな。

 まさか高校であんな部活に入っていたとは……。


 まあ話が脱線してしまったな。

 今日発売するのは、あの時先輩が優勝したゲームのリメイク作だ。

 まあそこそこ人気だったが普通に通販で買えるだろう――と思っていたが、何と言うか油断した。

 続編人気が思ったよりも凄かった上に、リメイク版初回特典に付いて来る時計のメーカーが先月ブレイクして、余波がこんな所まで流れてきたという次第だ。


 時計は時間、分、秒を現す3つの針で時間を示すアナログ式。

 一見するとゲーム要素の欠片もないおしゃれな時計だが、中心に”永劫のクロノス”を示すシンボルが付いている。

 もっとも、本格的に人気の出た2作目から作られたシンボルマークだ。先輩は知らないだろうな。


 開店と同時に列はスムーズに流れ、俺達は無事初回限定盤を入手した。

 後は墓前に届けるだけではあるのだが、


「さて、後は墓前に供えるだけだな。いや、きちんと一緒に埋葬した方がいいか」


「それ誰に許可を取るつもりだ」


「和尚に言えば一つくらいは入れてくれるだろう。箱から出せば、それ程場所も取らんしな」


「多分凄く嫌がるぞ、それ」


 買ったはいいが、さてどうしようかと龍平(りゅうへい)に相談する羽目になった。

 彼女たちの親族は連絡が取れず、離婚した母親も所在不明。

 父親は……葬式から一週間後、自宅で首を吊って自害した。遺書も無かったそうだ。

 ちなみに墓の檀家代は龍平(りゅうへい)が払っている。本当に頭が上がらないな。





 結局は寺で住職と相談するという事にして、俺達は墓参りの前に久々の故郷をぶらぶらとした。

 俺と奈々(なな)が出会ったアパートは老朽化のため解体され、今は新しいアパートが建っている。


「ここはもう、思い出も何も無いな」


「一軒家なら買い取って残したんだがな。口惜しい」


 金持ちはいう事が違うわー。


 実際、龍平(りゅうへい)が俺たちとちょくちょく遊ぶようになってから1年も経っていない。

 俺の家には時々来ていたが、奈々(なな)たちの部屋に入ったのは数回ほどだ。

 思い出としても、コストパフォーマンスが悪すぎるだろう。


 だけど、そんな数少ない思い出が色褪せる事は無い。今もこの目に全てが焼きついている。

 どんな時でも、必ず隣に座っていた奈々(なな)。そんな俺たちを見守っていてくれた先輩。馬鹿話から学問、政治の話まで、話題の豊富な龍平(りゅうへい)。本当に、楽しい時間だった。


 そのまま昼食も取らずに、俺たちは学校まで歩いた。

 嫉妬の目など気にもせず、奈々(なな)は俺と腕を組みながら登校した。

 必ず先輩が後ろにいて、龍平(りゅうへい)とよく話していたっけ……あれ?


「なあ龍平(りゅうへい)、お前何で俺達と登校していたんだっけ?」


「そんな事も忘れたのか。研究だけで頭がいっぱいになったのか? なら(ゆる)しておこう。家が遠かったから、近くにマンションを買ったんだよ」


 あー、そんな話を聞いた気がする。

 でも実家とそれ程には離れていなかったと聞いていたからな。随分と思い切った事をするなー程度に聞き流していたわ。


 そのまま高校についたが、入るつもりはなかった。許可を取るのが面倒だってわけじゃない。ただこれ以上、思い出に足を踏み入れたくなかったんだ。


 入学式の高揚感。同じクラスになった喜び。新しい環境でも変わらない俺たちの関係と、やはり変わらない嫉妬の嵐。

 だけど――、


「高校生になってから俺の周りが大人しくなったが、お前が手を回してくれたんだろ」


「そんな面倒くさい事はしない。ただ俺の関係者に手を出せる程の愚か者がいなかっただけだ」


「へいへい。だけど感謝しているよ」


 こうして1ヵ月とちょっと。そう、たったそれだけの高校生活。

 でも、そのちょっとだけが毎日華やかで、希望と幸福に彩られ、何よりも、何時よりも輝いていた。


奈々(なな)……」


 溢れそうになる涙をこらえながら、俺たちは次の目的地に向かう。

 奈々(なな)と先輩、そしてそのお父さんが眠る場所へ。

 だけど、それは果たされなかった。これからも、もう果たされることは無いだろう。





いつも本当に感謝です。

日本編は全4話。次回がこの章のラストです。

ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けるとものすごく喜んで跳ねます。

餌を与えてください(*´▽`*)

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― 新着の感想 ―
お、クロノス出た。217の感想で書いてる人いたけどクロノス=ループ後の敬一なのかな。217でクロノスが失敗と語った行動(ループ回数?)が八、龍平・平八(ブラッディオブザダークネス)...
[気になる点] 永劫のクロノス…格闘ゲームですって!?やってみたい…。しかし、ゲームのタイトルにクロノスの名がでるとは… [一言] 興味深い
[良い点]  あの狂った異世界の方がまだ希望があったよ……  龍平が親友のままなのはいいけど、瑞樹先輩も奈々もいないんじゃ……  ここでクロノスの名が出てくるのですね。  次も楽しみにしています。  …
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