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いくら怖くても人間から避けて生きていく事は出来ない

 入り組んだ迷宮は、ハッキリ言ってお手上げ状態だ。右へ左へ上へ下へ、自分が本当に進んでいるのかも実感がない。

 まあ上まで一直線なんて期待はしてはいなかったけどね。

 それでも進めるのは、人が通った跡があるからだ。


 目印らしい文字。幾つもの(かまど)の跡。中には行き止まりでバツ印の付けられた道があったが、この辺りは全世界共通かとおかしくもなる。

 もっとも、召喚者と意思を共有するために統一しただけかもしれないが。


 それにしても、彼らは何日かけてここまで来たのだろう。

 迷宮と言われたが、そもそも下へと続いているとは限らない。そんな事すら聞いていなかった。改めて、あの時の精神状態の酷さがよくわかる。

 だが拠点は間違いなく上だ。そうでなければ、勇者は『こんな下層』とは言わない。


 だが彷徨(さまよ)って、もう何日経つんだ?

 持ってきた竜の肉はほぼ食べ尽くしてしまった。もっと補充して来れば良かった……と言うより、出発前にもう一度あの部屋に寄るべきだった。

 だけどそんな後悔、今更しても仕方がない。


 ただ幸い、空だったとはいえ革の水筒を途中で拾えたのはラッキーだった。

 今までは服さえなかったからな。革なんて真っ先に食われる対象だろう。

 こんなものが残っていたって事は、人間の世界(テリトリー)が近いのかもしれない。

 それに水も数ヶ所で湧いていた。壊れているのが多かったが、井戸を掘った形跡もあったし水も汲めた。


 最後の晩餐用に肉を残して以来、食事は毎日ダンゴムシ。何処にでもいるので、ある意味食料には困らない……味はこの際無視しよう。

 それで不思議に思う。なぜ誰にも会わないのだろう。

 広い迷宮なのだろうが、俺が通っている道は大規模な人間の行動跡だ。つまりはあの軍隊が進んだ道を逆進しているわけだな。


 彼らへの補充兵。補給物資。負傷兵の帰還。人の往来はあって当然だ。なのにそれがない。

 勇者が率いてきた軍勢は、全員あの黒い竜や大トカゲなどのモンスターに殺されたのだろうか?

 だがそのモンスターにも出会わない。


「やっぱり上に数日留まれば良かった」


 もちろん、皆の邪魔をしないという条件付きだが。

 観光は許されていたのだから、迷宮の事も聞けただろう。まだ100パーセントとは言えないが、どうせ殺すのだしな。





 こんな事を考えたのは何度目だ? そう考え、自嘲(じちょう)し反省する。

 考え続ける事は良い。だが答えの出ない考えは永遠に廻り続け、いずれ呪縛となる。そして答えっぽいものを見つけてしまうと、ついついそれに飛びついてしまうんだ。それが間違っているなんて考えもせずに。

 状況が分からない時こそ、余計な事を考えてはいけない。ここは未来を考えるんだ。合流したら、先ずなにを話そう……そういった事をだ。


 こうして思考を何とかポジティブに切り替えようとした時、遠くから声が聞こえてきた。


「〇〇▲※ ◆◆※〇●〇」

「※□〇▲ ◆※◎▽◎ ※※◇」


 ……さっぱりわからん。そりゃそうだな、現地語だ。

 俺達の言葉を話せる人間はどれくらいいるんだろう?

 俺が知る限りでは、例の女神官と周囲にいたフード連中。それに勇者くらいだな。

 黒龍が話せたのは意外だが、それは置いておこう。


 とにかく、実際にはもっと沢山いるはずだ。それなりに居てくれないと、召喚者との意思疎通が困難になってしまう。

 でもさほど心配はしていない。召喚者は貴重な戦力らしい。無用に危害を加えてくる事は無いだろうし、言葉が通じなくても身振り手振りで上まで案内してもらえばいい。


 こうして俺は声の方向へと進んだ。

 楽観的な、安全が確約されたうえでの不安。そして先の事。俺はこの時、これから起きる事なんて何一つ予想してはいなかった。

 無知だからと言って許される事ではない。これは俺の原罪。一生背負って行く事になる、沢山の……そして最初の罪だった。





新章スタートです。

改めまして、これからも是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 104 などといちいちブクマ数をチェックしていくのも印象は良くないのでしょうかね? ともあれ、倍々にはなりませんけど、僕からすると大変な数でござます。 新章に入ってそうそう、主人公は何をや…
[良い点] 出だし [気になる点] 物語がまったく進まない 強くもならない ダンジョン出るまでの物語? [一言] 多少イベントや変化無いと飽きる
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