脳筋少女かと思ったけど色々と発明しているんだな
「要するに、他の都市へと繋がるトンネルがあるんだよ」
壁で囲われた都市と都市。その間を、アーチ状のトンネルが繋いでいるという。
トンネルと言うと地下を掘り進んだものと思われそうだが、ここで言われているのはそうじゃない。そもそも地下トンネルなんて掘っても大変動の度に消えるぞ。
実際には壁と同じ素材を使って作った、アーチ状の巨大通路の事だそうだ。
車が10台は並んでも通れるほどの幅があり、高さも十分。普段は都市間の行き来の為に解放されているが、今は様子を見る限り最前線――というか、最終防衛戦だな。
あそこが突破されたらもうお終いだろう。
ついでに余談だが、この世界にも意外な事に車はある。ほとんどは馬車だけどな。
だが地下があんな状態なので石油が無いからガソリンは無い。石炭もやはり無い。しかし電気はある。
そんな訳で、電気で動く乗り物は幾つかあるんだ。デリケートすぎるし充電も大変で、都市の中でしか使えないけどな。
それにバッテリーもまた大変動のエネルギーの影響を受けるのか不安定で、掘り出し品以外で実用化に成功したものは非常に少ない。
それに形もかなり特殊で、基本は俺達の世界の車に近いが、左右に一対の巨大なホイールがあってそれで走る。見ただけで不安になる形だ。
そんな訳で、乗り込み口は前にある。ところ変わればってやつだな。
そして何でこんな話をしたかと言うと、
「咲江ちゃんって運転できたの?」
「フランソワ教官が新型のバッテリーを開発したんだよ。その縁で、何度か試乗させてもらっていたんだ」
フランソワ教官……ああ、あの女の子だ。正真正銘の化け物だったけどな。
今戦ったら勝てるのだろうか? 安全なら試してみたいが、敗北が死である以上は絶対にダメ。
大体、仮に勝ったとしても殺したくは無いしな。
「じゃあ行くよ」
その合図とともに、急速バックした車は瓦礫の中に後ろから突っ込んだ。
「あ、逆だった」
「逆だったじゃないよ」
衝撃を外してなかったら、いきなりおしゃかだったぞ。
とは思うが、案外大丈夫だったかもしれない。この形は、ある程度アウトドアも想定しているのだろう。瓦礫に乗り上げて跳ねた分、中はきつかったが車はなんともない。
「時間が無いから、さっさと行くよ」
あ、咲江ちゃん誤魔化した。
何てツッコむ間もなく、車は急発進したのだった。
もし俺達の世界に帰っても、彼女に免許を渡しちゃだめだな。
こんな物を拾ったのは、ズバリあったから。
まあそれも有るけど、イチイチ徒歩で回っていたら、それだけで数日かかる。走ってもこの車くらいの速度は出せるし臨機応変に行動できるけど、やっぱり負担は少ない方がいい。
主に背負われている咲江ちゃんの負担的にだな。
「見えて来たよ」
遠くから見えていた怪物の固まっていた場所。そこはどことなく、古い博物館のように見える場所だった。
周囲は石壁に囲われており、建物も石造り。窓もあるが、全て締め切ってあるようだ。
そんな建物に、人を含めた様々な生き物の背を割り、新たな青白い上半身を生やした怪物たちが群がっている。
「いきなり当たりだと良いんだけどな。それにしても、何であの建物は無事なんだと思う?」
「多分だけど、ラーセットにもあった博物館だよ。ただあたしらの世界と違って、博物館ってのは迷宮産の管理場所だからね」
「立て籠もるにはうってつけって訳か。では先ずはここからだ。咲江ちゃんは――」
「もちろん、付いていくよ。何かあったら、みんなに会わせる顔が無いからね」
「咲江ちゃんに何かあっても、俺も同じ状況になるんだけどな」
二人とも、心の底では一人では逝かせないと思っていた。
でも、そんな事は口にしなくても分かる。だから軽口を叩くと、俺達は怪物の群れに飛び込んだ。
最初、連中はこちらを完全に無視していた。どうやら探知能力は低いらしい。
たしかに、俺達の存在を外していたとはいえ人間よりも反応が鈍かった。電気自動車で移動中も同じだ。
それだけに確信できる。そんな連中が集まっている事に意味はあると。
手近な人の姿をした奴の背後から、勇者の剣で斬りつける。
狙いは元の体と、そこから生えた青い体の結合部分。ここを切り離すとどうなるのか凄く気になっていたんだよ。
青い部分と体は簡単に斬り離す事が出来た。
経験上――まあ嫌な経験ではあるが、人間よりも脆い。それに血も出ない。ちょっと拍子抜けだ。
斬られた青い部分は暫くもがいていたが、すぐに動かなくなった。
「敬一!」
だけど元の体の方は違った。
咲江ちゃんが警告を発してくれたが、それ程の緊急性はない。
とはいっても、こちらはまだ動いている。
そして根元がプルプルと揺れながら、ゆっくりとだが人の指が生えてきたのだった。
遅くなりましたが、今日も無事更新です。
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