どっちにしろ拒否権は無いのだろう
龍平の考えがまるで分らない。理解できない。
とはいえ、このままではバッタリと出会って最悪の結果になるだけだ。
「そこで本題に入ろう。私はここに提案があって来たのだよ」
木谷の提案か。なんかものすごく色々と企んでいそうだが……。
「成瀬敬一。君にはこれからどちらか好きな方を選んでもらう。一つ、西山龍平の元へ行き、彼を倒す」
いきなり最悪だなオイ。確かに説得なんて聞くわけがない。出会ったら戦う以外に選択肢はないだろう。だけど教官組の一人を倒したんだろ? それにその人、単純な戦闘力では玉子って教官より強いとか言っていなかったか?
その玉子さん? ちゃん? まあその子が戦闘向きのスキルかは分からないが、少なくとも強さで語られて上の方にいる人間だ。以前本気の教官組にボロ負けした俺が戦って勝てるのか?
うん、不安しかないな。つか絶望的じゃん。
「却下確定だ。もう一つの方を教えてくれ」
「このチームを3つに分ける。まず水城瑞樹と逃がしたい人間は我々が保護する。世界で最も安全な場所、クロノスのところだ。だが雅臣はダメだ。理由はわかるな」
「僕はさすがにお尋ね者だからね。堂々と合流するわけにはいかないだろう」
いやもうなんか嫌な予感しかしないんだが。
「君にはイェルクリオの首都であるハスマタンに行ってもらう」
こいつは何処まで無茶な要求をするのだろう……。
「あの西山龍平が雅臣を目標とするとは思えない。だが水城君を追ってくれば、クロノスが確実に仕留めるだろう」
それはそれで、なんか腹立つ。
だが確かに背に腹は代えられない。どうせこれが終わったら、時計は回収される。抵抗は無駄だし、奪われるなら壊すなんて馬鹿な選択肢は俺には無い。
先輩たちの安全を考えるなら、これが一番に思えるが、
「それでなんで俺がハスマタンに行かなきゃならないんだ?」
「すでにハスマタンは怪物によって滅びに瀕している。街は大混乱で、消え去るのも時間の問題だ。イェルクリオもこれで終わりという訳だよ」
「ハスマタンはイェルクリオの首都だと聞いているが、それ以外にも衛星都市があるんだろう? なら国は滅びないんじゃないのか?」
「全ての戦力はハスマタンに集められている。各都市に残るのは最低限の守備隊と、暴徒化した民衆を鎮圧するための警察隊程度だ」
首都が陥落したらおしまいか。
確かにその通りだ。この世界の都市は、何処も高い壁に囲われている。首都ともなれば、特に厳重だろう。
そこに全戦力を投入して勝てないのなら、もうどんな抵抗も無駄だ。
「それに聞いていないのかね? 彼らは寄生して増殖するのだよ。手段は不明だがね。故に、何らかの形で安全が宣言されない限り、他の都市の人間はどうしようもない。いつ怪物に変貌するのか分からないのだからね。既に他の国を頼って逃げたものも多いが、殆どは道中で様々な怪物の餌食となるしかない。仮に他の国に辿り着いても、間違いなく受け入れられないだろう」
「酷い話だが、確かにそうなんだろう。で? 俺が行く理由は?」
「ギブアンドテイクの取引だと言っておこう。君の大切な人たちは、我々が命を賭して保護しよう。その代わり、君にも働いてもらうという事だよ。もし西山龍平の目標が君の場合、君を追ってハスマタンへと行くだろう。結果として、無数に襲ってくる怪物の相手をしてもらう訳だ」
「その時には、俺もその怪物の相手をする羽目になっていると思うのだが?」
「これは私の勘なのだがね、君は怪物を率いる本体を倒すべきだと思うし、それを望んでいるのではないかね?」
ちょっとドキッとした。誰かが伝えたわけでは無いだろうし、今までの俺の言動や今の状況から予測したのだろう。だとしたら、俺の今後の予定とかも全部読まれている可能性がある。
というか、マジで普通に全部予測されていたんじゃないのか?
ここで木谷に出会っていなかったら、そんな事も思いつかずに飛んで火にいる夏の虫になっていた可能性がある。
ちょっと背筋が寒くなったな。
だけど、その提案は魅力的ではある。
正直に言えば、いざ奈々を奪還すると言ってもノープラン。
しかも護衛次第では、戦いは避けられない。と言うか戦わないなんて無理だろ。
これ以上評判を落とさないためにもいい加減不殺といきたいが、ただ逃げるだけならともかく目的を果たすなら不可能だ。
しかも誰を連れて行く? つまりは、誰を危険に晒す?
セポナと先輩は置いて行くとしても、ひたちさんや咲江ちゃんに協力を仰いでも良いのか? 敵はあの教官組かもしれないのに。そしてそうだった場合、俺は勝っても負けても彼女たちがいなければこの世界に存在できないだろう……。
「考えは纏まったかね?」
「ああ、提案に乗ろう」
それしかない。と言うよりも、話を持ち掛けられた時点で他に選択肢が無かっただけだ。
確かに、ここで龍平を迎撃する手段もあった。だけどそうするとは言えなかったんだ。何せその場合、どれほどの犠牲が出るか想像もつかなかったのだから。
それに、他の人たちが彼等の元へ行くという事は先輩が奈々と出会う事になる。
今は少しでも情報が欲しい。そう言った意味でも、悪くはないさ。
今年最後の投稿が200話目となりました。
ここまで本当にありがとうございます。心が折れずに続けて来れたのは、皆様の後押しがあったからこそです。
来年もまた、よろしくお願いいたします。
ご意見ご感想やブクマに評価、レビューや宣伝、書籍化、コミカライズ化、アニメ化などございましたら是非よろしくお願いします。
今年ラストなのでドーンとお願いしてみました。
惜しまず餌を与えてください(*´▽`*)ライネンモガンバリマス!






