俺が倒すしかないじゃないか
おそらくその怪物とイェルクリオって国の間では、相当に激しい戦いが繰り広げられるだろう。だけど実際の所……。
「その南のイェルクリオって国は、実際に勝てるのか?」
「負けるな。あの国は滅びよう」
そう言ったのはダークネスさんだ。相変わらず表情は窺い知れないが、その言葉は淡々としていた。
だけど俺が気になったのは、それが何故かだ。
「ダークネスさんは、そのモンスターを知っているのですか?」
「詳しいことは言えぬな。だが人の手には余る。戦いにもならぬのだ」
「それは意外ね。ラーセットに撃退されて以来、どこにも現れた記録は無いわ。どうしてそこまで言い切れるの?」
普段ロンダピアザの図書館に入り浸ているという鷲津さんは興味津々と言った感じだ。
それに――、
「その事は私も知りたいわ。貴方の事はよく知っているし、信頼もしている。でも世界を滅ぼすと言われる怪物の事を、どうしてそんなに詳しく知っているの?」
「僕も聞きたいな。いや、これは尋問なんかじゃないよ。だけどもし遭遇してしまった時に、勝てないと言われたから諦めるなんて事は出来ないんだ」
リーダーである樋室さんと、多分サブリーダー的な正臣君はちょっと納得できないといった感じだった。
まあ正臣君の場合、そいつが滅ぼしたという国の遺跡で探索をしているわけだしな。遭遇する可能性は当然ありそうだし、実際知っておかないと怖いだろう。
「知らぬ。知ってはいるのだ……奴等の群れを。国が滅びる様を。だが知らぬ」
意味が分からない……。
「それは、貴方がその姿になって、名を変えた時の事?」
「いや、もっと以前。大昔の事だ。詳しくはもう分からぬ。だが、どんな相手かは説明しよう」
今何か気になったけど、とにかく話を聞く方が先か。
「では、それを聞かせてもらおうかしら」
そう樋室さんが尋ねた時であった。
キンキンキン、キンキンキン、ピロピロピロピロピロピロ……。
なんかやかましい音が外から聞こえてくる。なんだあれは?
「あらあら、緊急用の通信機まで捨てちゃったの!? だから全部大切な物だって言ったのに!」
「それならちゃんと分かるように置いてくださいよ」
そう言うと同時に、剣崎さんの手元に四角い箱が現れる――が、途端にけたたましい音が部屋中に響く。
アイテムテレポーターって、あんな事も出来るんだ――って感心する前に、その音を止めてくれ。
まあ本人もそう思っていたのだろう。そのまま剣崎さんは、樋室さん――と言うかその人形に、素早く箱を渡す。
彼女は器用に多関節の腕を使い、複雑そうな箱のロックを外し始めた。見た目のわりに器用なものだ。
そういや俺に茶を出す時に、カップに付いた何かの卵をあれで取っていたな。
うん、なんか嫌な事を思い出した。
そんな事を考えて着る間に箱は空き、喧しい騒音も消えた。これで一件落着――って本題はこれからだ。
樋室さんは中に入っていた紙を確認すると――、
「ラーセットはイェルクリオの要請を受けて召喚者の出撃を決めたそうよ」
「その怪物を退治するのか。出来れば手伝ってあげたいが、俺は立場的に厳しいか」
すまないが今回はパスだな。俺が行く事で、逆に混乱を招くだけだろうしね。
「それがそうじゃないのよ。イェルクリオは自分たちが敗れた場合の処理を、ラーセットに頼んだの」
「意味が分からないのだが……?」
「増殖し、増えるという話は聞いておるな?」
「ええ……それで本体は見つかっていないとか」
「故にイェルクリオは首都ハスマタンで徹底抗戦し、全ての敵を引き付ける。当然本体もな。そこを神罰で一掃するのだ。それこそ塵一つ残さずにという訳だ」
なんでそんな事まで分かるんだろう?
だけど俺的にはそれどころではない。神罰……聞き間違いじゃない。
でもそのスキルは――、
「神罰のスキルってのは、確かその場でそう名付けられた。それ以前には無かったスキルだったはずだ」
「敬一君のスキルもそうだったけど、珍しい事が多かったのね」
「まあそうではあるんだけど……ひたちさん、今まで召喚された人間の中に、神罰の使い手は?」
「奈々様以外にはおりません。さすがにレアすぎますので」
なら――もう行くしかないじゃないか。
それがどういった状況なのかは分からない。だけど、戦闘中に使うって事は、その都市にいる人間全てを怪物ごと殺してしまうって事だろう。そんな事を奈々にさせるわけにはいかない。
だけど無責任にダメというほど、俺もこの世界を知らないわけではない。
「ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさん、教えてください。その怪物がどういったものかを」
「聞いてどうする?」
「俺の――俺達の手で、何とかします」
今日も無事更新です。物語はまだまだ続きますが、このまま最後まで突っ走りたいですね。
ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けると凄く喜びます。
餌を与えてください(*´▽`*)






