無茶な要求じゃないだろうな
「やあ、久しぶりだね。無事にこうして会えるのは本当に嬉しいよ」
「いえいえ、こちらこそ」
案内されたログハウス。そこに居たのは探究者の村のサブリーダー、坪ヶ崎雅臣君だ。
いや本当は“君”付けではなく“さん”付けで呼びたいのだが、本人がそう希望しているのだからしょうがない。
相変わらず俺よりずっと高い2メートルを超える長身に鋼の筋肉。そして全身には様々な計算式が、ほぼ隙間なく入れ墨として掘られている。
黒目の無い白目だけの瞳に短く切り揃えられた灰色の髪。
年齢は30か40か……俺には見分けがつかない。
だけど本人がいうにはまだ中学生だそうだ。絶対に嘘だと言いたい。
以前もそうだったが、上半身は裸で下はピッチピチの麻ズボン。
お気に入りなのだろうか?
ひたちさんや咲江ちゃんもいつも同じ服だが、あれは特殊なアイテムだしな。
まあ咲江ちゃんの場合、透けて見えるブラの色は様々だけど。
「歓迎しますよ、敬一さん。実は少し困った事があったのでお呼びしたんです」
「ああ、詳しい事は現地で聞いてくれと言われたよ。お使いってわりには何も持たされなかったから、何かあったんだろう?」
「そうなんですよ。その前に、この場所の事は聞いていますか?」
「ああ、怪物の群れに滅ぼされたんだろ? 詳しい事は推測だが、地下から大量に出て来たんじゃないのか?」
「半分当たっていますが、半分は外れです。この世界で、最も恐れられている怪物がいるんですよ。とても人間では太刀打ちできない、強力な奴がね」
「いやまあそうだろうが、何処が半分なんだ?」
まさかここを滅ぼしたのが怪物の群れではなく単体?
いやいや、もしそれが居るから退治しろとか言われたら俺は帰るぞ。
「確かに群れですが、本体は1体だけなんですよ。だけど、そいつは人を怪物に変える。それも短期間のうちにね。もっと正確に言えば、対象は人とは限らない。動物なら何でもと行った方が正しいですね。この辺りにあった国は、皆それに滅ぼされました。ラーセットにも現れたそうですよ」
「そいつはまた物騒な話だな。だけどラーセットは無事な様だが」
「追い返すことには成功したそうですよ。ただ退治したとは聞いていません」
「まさかと思うが、それを退治しろとか言わないよな?」
思っていたのとは少し違うが、そうなら帰る事に変わりは無い。
俺は無駄な戦いはしない主義なんだ。
「いやいや、それはこの国がどうしてこうなったかの話ですよ。もしそいつがいるなら、僕らもここにはいません。頼みたいのは別の事です」
よくよく考えてみればそうだ。そんな危険な奴がいるのに、のんびりログハウスを作って何かをしているって事は無いだろう。
「この廃墟は現地の人間にとっては何の意味もない場所ですが、僕らの様な召喚者にとっては重要な場所なんです。なにせ、基本的に他の召喚者や現地人に会う事はありませんからね。結構取り放題なんです、色々と」
「あー、なるほど」
となると、俺が以前、出発前に開けた穴はあまり意味が無かったのだろうかと考えてしまう。それはそれで寂しいな。
「村の近くのセーフゾーンからじゃだめなのか?」
我ながら未練がましく聞いてみるが――、
「以前に奥へと繋がる穴を開けてくださった事は知っています。実際にかなり助かりました。ただ少々狭かったので、あらかた調べ尽くしてしまったのですよ。ここはあそこがダメだったりしたときに利用する場所です」
成る程ね。確かに次のセーフゾーンへと繋がる穴を開けただけだった。時間も無かったしな。
そしてあそこがダメならこちらを使うという訳だ。距離を考えれば、確かに村のセーフゾーンを使えるのがベストか。素直に俺の力不足を反省しておこう。
「それで、俺に頼みたい事って言うのは何だ? 穴掘りか?」
「実はセーフゾーンの一つに主が住み着いてしまってね。そいつを退治しないと先へと進めないんだ。まあ僕達は少人数で競合者もいないのですが、その分迷宮で万が一の事が起きた場合の協力者も少ない。出来れば最短で確実なルートを確保したいのですよ」
つまりは戦闘か。ある意味単純明快だな。それにしても、この見た目で雅臣君は戦闘向きではないのか。
それにしても主ねぇ……中ボスのようなものだろうか?
もはやここがゲーム的な世界だという話は吹き飛んでしまったが、迷宮に強敵が住み着いて先に進めないというのは、何となくゲームを思い出してしまうね。
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