本人に聞くしかないな
「ええ、それは見た……と言うより何度も見せられたわ。剛様との絆の証だって何度ものろけ話を聞かされて――あ、ごめんなさい」
「気にしないでください。いや、気にしないでくれ。俺は堪えていないよ。それより、指輪の位置は気になった?」
「……気にしてなかったわ。何かあったの?」
意外とそっち方面には疎い人だった。まあ人間誰しも完璧じゃないしな。
というか、先輩は誰とも結婚する気なんて無かったのではないだろうか?
その理由も、今はなんとなくわかる。とても口には出せないけどな。恥ずかしいし。
俺は奈々が指輪は愛の証だと言っていた事、その指輪を左手の小指にはめていた事、だが剛は左手の薬指にはめていた事を話した。
「それは変ね。奈々が愛の証として付けるなら、きちんと左手の薬指にはめるわ。左手の小指と言うと……何だったかしら?」
本当に疎いなー。
「幸運や新しい出会いですね。もしそのつもりで付けたのだとしたら、奈々はその時点では剛ってやつに愛なんて感じていなかった事になる」
「ごめんなさい。会う事も難しかったから、いつどうして指輪を付けたかも分からないの。でも驚いたのは本当よ。あの子が新しい恋人を作るなんて思ってもいなかったから」
まあその点は俺も驚いた。だけど――、
「俺は帰った事になっていたしね。この世界で生きていくうちに、他の誰かと恋人関係になっても仕方ないとは思う」
「奈々はそんな子じゃないわ」
「俺もそう考えているけど、それでも奈々が幸せならそれで良いんだ。でも引っ掛かる。指輪もそうだし、あの態度もちょっとね」
「……やっぱり分からないわ。ごめんなさい。あ、でも――」
「何か気になる事でも?」
「最初の日には、もう奈々は別行動だったの。スキルが強すぎるから、きちんと教育を受けなくちゃいけないからって。それは確かに分かるの。私たちのスキルは、とても人に向けちゃいけないようなものが多いでしょ? 特に奈々のスキルは特に強力だからそれも当然かなって」
それ自体は別におかしな話じゃないが……。
「私たちはね、ベテランの人たちと合流したの。それで3日目には、もう迷宮へ向かったわ」
「教官組から講習は受けなかったのか?」
「受けたけど、すぐ出発するって言ったから簡素な説明だけだったの。今思えば――ううん、これは余談だったわね」
龍平が付いていながら、なんて馬鹿な事をしたんだと呆れてしまう。
右も左も分からない世界で、知らない人間にホイホイついて行くやつがあるか。
そりゃ教官組と呼ばれる人間が信用できるなんて保証はない。だけど立場ある人間は迂闊なことは出来ないし、この世界なら尚更だ。そうでなくても、最低限の情報は集めるべきだろうに。
最初に迷宮に潜るまでの猶予は一ヵ月と言われていた。俺ならその一ヵ月、ギリギリまで使って徹底して調査するな。
――いや、こんな事を今考えても仕方が無いか。
「それでね、万が一の事を考えて奈々に挨拶をしに行ったの。確かにいつもの奈々で、心配もしてくれた。その時には、もう指輪ははめていたわ。何かの役に立ちたいけど、ごめんね、他には何も分からなくって」
「謝らないで、先輩。今は先輩が居てくれるだけで十分だよ。俺に出来る事なら何でもするから、しばらくは心と体を休めよう」
「うん、ありがとう……なら、一つお願いしても良いかな?」
「なに?」
「これからは瑞樹って呼んで。その……あの夜みたいに」
先輩も真っ赤だが、俺も恥ずかしくて顔が真っ赤になった自覚がある。
ベッドの中では平気だけど、こうした日常で呼ぶのは慣れていない。
いや、今のこの入浴状態を日常と呼んで良いのかは多少疑問ではあるが。
でも、そんな事を言えるようになった先輩の回復が、たまらなく嬉しかった。
それに、今の話は俺にとっては何よりも重要な情報だった。
奈々は、迷宮の中で色々とあった結果、剛の野郎と結ばれて互いにあの証を付ける事になった。そう、本人から聞いた。
だけどそれは、先輩の話と矛盾する。
俺達はこの世界の法則や時の流れからは外れた存在。最初に言われたが、それは嘘ではなかった。歳は取らないようだし、それに時間の感覚が根本的におかしい。それに何より召喚された日も今話した事も、同じ“ついさっきの事”だ。
だから、先輩の記憶に間違いは無い。まあ気にしてない事は流石に曖昧になってしまうけどな。でも奈々の仕草や会話なんかは覚えているだろうし、そのワンシーンで指輪の位置も記憶に入っているだろう。
そしてそうだからこそ、指輪を付けた馴れ初めを間違えるわけがないんだ。
やっぱり、無理やりにでも奈々に聞かなければいけないな。
だけど考えれば考えるほど難しい。容赦なく俺を攻撃してくる上に、スキルでも完全に防げない。だからと言って奈々にカウンターなんて出来ないし、それが成立する前に俺が死ぬ。それ程強力に感じた。
やっぱり当面はどうしようもないな。
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