そんな簡単に結果は出ないよな
「でもね、そういうのじゃないの。上手く言えないけど、たとえ別れたって、目の前に現れたら良くても悪くても気になってしまうものよ。でもあの後で奈々に会った時に敬一君の話をしたわ。だけど本当に、一欠片の興味すら示さなかったの。まるで知らない人が来た……そんな感じだった。正直に言えば、まるで奈々じゃないような気すらしたわ。ちょっと怖かったの。でも私も色々といっぱいいっぱいで……」
先輩は一生懸命に言葉を選んでくれているが、あの時の事を考えると心にプスプスと針が刺さる。
ん? しかしちょっと気になったな。
「確か先輩は、俺を広域探査で発見できなかったんですよね?」
これはベッドの中でした話だ。俺も聞いた時は驚いた。
俺が変わってしまったらしい事は分かっていたが、他の人は探査できるそうだ。この世界に来たからとか、スキルを入手したとかは関係ない。
以前も考えた。外したり戻したりした時、俺の体はどうなっているんだろうかと。
結論を言ってしまえば、どうやら別物になっている様だった。軽くショックを受けたが、そんな事で挫けてなどいられない。
ただこちらは良くても――、
「ええ。だから正直……もうダメかと思って……」
先輩はうつむいて大粒の涙をボロボロと流す。
ダメだ、回復してきたように見えても、先輩はまだまだ不安定だ。何とか記憶を消したり他人事のように感じられるようなスキルやアイテムは無いだろうか?
……と思ったけど無いな。召喚者の心や精神に影響を及ぼすことは出来ない。出来たとしても、極僅か。そう聞いている。
こればっかりは、本人の心を癒すしかない。その為に俺がいるんだ。
まあ実際、そういった者の存在がゼロとは言わないが、俺達が反体制の立場で行動出来ている事で、相対的にその存在は否定されている。
というか、召喚者はなんかみんな自由だしなー。ロボットのように操れるとは思えないわ。
「少し休もう。でも最後に一つだけ良いかな」
先輩の肩を抱きながら、一つだけ質問する。
「奈々に広域探査を使った事は?」
「手続きは必要だったけど会うことは出来たし居場所もいつも変わらなかったから……ごめんなさい。使った事は無いの」
「それだけで十分だよ、少し休もう。俺がずっといる。何があっても、永遠に。だから安心してくれ」
〇 ※ 〇
それから先はひたすら研究の手伝いだ。
だけど俺は学者でも何でもない。ましてやこの世界のアイテムの事など、何も分かるはずもない。
だから俺は分からないが、俺自身のスキルの方は良い研究対象だったようだ。
特に研究と実験が大好きだという菱沼玲人さん。それに鷲津絵里梨さんと一緒に色々とスキルの可能性を調べる事になった。
ちなみに菱沼玲人さんは27歳。一見すると線の細い青年という感じだけが、ラーメン屋のバイトをしていたそうで見た目以上にがっちりとしている。
ちなみにスキルの研究なんて経験はない。
鷲津絵里梨さんは元OLで31歳。来てからの年月はともかく、元の世界での年齢では最年長という事になる。
実年齢より若くて美人。普段は白衣なんかを着て、まるで本物の研究者のように見える。だけど当然ながらスキルの研究なんて経験はない。
――マジで不安しかないぞ。
とはいえ、そもそも経験があったら逆に怖いか。
そんな訳で基本的には外すスキルが何処まで出来るかをひたすら研究した。
まあ当然ながら、帰る方法に繋がる成果は何一つ得られなかった。当然だな。
だがまだ始まったばかりだ。頑張るとしよう。
▽ ▲ ▽
「疲れるー、今日も疲れただけだー」
頑張りはするが成果は無い。一朝一夕にはいかないね。
「今日もお疲れ様。お風呂の支度は出来ているわよ」
「助かりますー」
そんなこんなでおよそ3か月。なんか無意味なような研究が続いたが、何事もチャレンジだと菱沼さんは言っていた。その点に関しては、俺もそうだと思う。
研究なんてものは、何万何十万回ものトライアンドエラー。それでも成果が出る保証なんてどこにもない。成功に近づいているのか、あるいは遠ざかっているのか、それすらも闇の中。でも結果は出さなければならない。物凄く心が苦しい作業だ。
だけど泣き言なんて言っていられない。やるしかないんだ。
ちなみに今日のお風呂は、先輩が一緒だった。浴槽のサイズの関係で風呂は誰かと2人で入るけど、こういった時間は久しぶりだ。
そんな時、ふとある事を思い出した。
「先輩は、奈々の指輪は見ましたか?」
小さな事ではあるが、俺にとってはとてつもなく大きな事だ。
あの時感じた違和感を、先輩はどう思ったのだろうか?
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