無事戻って来れた幸運に感謝
出発した時は3人だった。だけど戻って来た時は5人。女性が二人増えたわけだ。
瑞樹先輩は予定通りとして、咲江ちゃんは予定外だった。
だけど決して悪い事ではない。むしろ良かったと考えるべきか。
良かったといえば、最良の事は全員の仲が良いという事だろう。
何と言っても俺にとって先輩はやっぱり特別だ。出来る限り差を付けないようにしているが、それでも付き合いの長さによるアドバンテージは明白である。
何処かで不平不満の火の手が上がったらアウトだとひやひやしていたのだが、特に表面的な牽制やギスギス感も無く仲良くやっている。
問題は俺の体力だが、大丈夫、まだまだ若いから大丈夫だ。というか、この世界にいる限り老いる事は無いしな。
だが道中で予想外だったのが、先輩のテクニックだった。あえてなんのとは言わないが。
最初の日は俺にリードさせてくれたが、翌日からはまるで容赦なし。
妖艶――そんな言葉が思い浮かぶ。何処でそんな技を覚えたのかを聞くほど俺は馬鹿ではない。だけど、心なしか先輩は楽しそうだった。相手が俺だからと己惚れていいのだろうか? というか、みんなして学んでいるし!
そして翌日には完全に干からびた自分を感じ取っていた。
――牡蠣が食べたい。
この年で、体が亜鉛を求めるとは思わなかったよ。
こうして村に戻った俺達は、久々の我が家へと帰還した。
しかし2人も増えたらさすがに手狭だ。特に3人用のあのベッド。初めて使った時は広いなと感心したが、今となっては狭すぎる。
だがそんな心配は杞憂に終わった。なんと家が拡張されていたのだ。
部屋も二つ増えており、ベッドは更に大きくなっていた。5人どころか10人だって行けそうだ。
と言うか、誰がやったんだろう……。まあ指示したのはひたちさんだろうけど。
そして家に戻って、ようやく俺は本題を切り出した。奈々の事だ。
今までの道中では、細かな話は一切しなかった。移動も大変だったけど、何より先輩の身を案じたからだ。
夜に肌を合わせている時は、本当に心から安心している様子が分かった。だけど普段は怖い程に繊細で、いつ折れてもおかしくない程に弱々しく感じたんだ。
理由は分かる――なんて軽々しく言えるものではない。先輩がどれだけ苦しんだかなんて、俺は僅かな断片だけしか聞いていない。そんな俺に何が分かるというのか。
だけど、人をここまで追い詰めるのは相当に大変だ。龍平が付いていながら、全くなんて様だ。
そんな訳で、大切な話は村に到着するまでは、全てお預けになっていたわけさ。
「奈々には、なかなか会えなかったわ。特別な許可が必要で……それに会っても、そんなに長い時間は話せなかったの」
「それは予想していたよ。それで姉である先輩から見て、奈々はどんな様子だった?」
「そうね……ごめんなさい。私も色々あったから、ハッキリとは言い切れないの」
そうは言うが、たとえどんな状況でも、先輩が奈々に対して感じたことは全て間違っていないはずだ。そう、あの言い方からして間違いなく――、
「奈々の様子がおかしかったんだな?」
「ええ。でもどこがと言われると難しいのよ。もちろん、敬一君の事を気にしていなかった事や、剛先輩と付き合っていた事は明らかにおかしかった。他には少し明るくなった感じがするし、一方でちょっと短気になった気もしたわ。あとは表情も仕草も癖も奈々なんだけど、初めて再会した時、奈々って言葉が喉から出てこなかったの。やっぱり緊張していたのかな」
「そうかも……しれないな」
そう言いつつも、頭の中では様々なパターンが浮かんでは消える。
どんな可能性も考えられる分、どの可能性も外れている可能性がある。つまりは全く分からないって事だ。これ以上は今この状況で考えたって仕方がないだろう。
幸い、奈々は特別に保護されている。近日中にどうにかなる事は考えられない。
先輩の時と違い、スキルによる焦りの様な事も感じない。
だけど、そんな曖昧な事に頼り切ってはダメだ。先輩だって、本当にギリギリだった。あのまま放置していたら、そう遠くない内に壊れてしまったか、最悪……。
そんな事を考えると寒気がするが、さすがに今は動けない。
こう言っては何だが、奈々を大切に扱っているという連中の行動を信じるしかないだろう。
「それと……その、言いにくいんだけど、敬一君が奈々の所へ行ったでしょ? 気になって会いに行ったの。でも、敬一君の事を全然気にしていない様だったの」
「そりゃまあ、公然と別れましたので。先輩も映像は見たんじゃないの?」
「それは……その」
目を逸らして口ごもる。いやもうそれ見たっていったのと同じです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
ここから新章スタートです。これからもよろしくお願い致しますヾ(*´∀`*)ノ
ついでに餌も与えてください。頑張ります。






