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ここにいるのは俺の意思じゃない

 先に……といっても何の指針も無い。

 ただ足が向くまま先へと進む。


 散乱する武器。たまに鎧の腕だけが動いているかと思ったら、中に芋虫が入っているだけだった。

 ここは戦場跡。だけど何と戦っていたのだろうか? 敵の死体が見当たらない。ぼろ負けだったのだろうか?


 盆地ほどじゃないけど、この辺りは鍾乳洞よりは広い。

 だが荷馬車の様なものも見られない。まあ馬みたいな動物はいても食われているだろうが、残骸まで無いのは気になる。

 水や食料などは、手で持てる分だけを持ってここまで来たのか。

 そうなると、迷宮としては浅い地点なのだろうか?


 だからといって油断出来るわけがない。

 手持ちは拾った(ナタ)一本。槍は長くて重くて不便だったし、剣があったってそれで何に勝てるというのか。

 少なくとも、大量の人間を殺すだけのモンスターがいる。

 そして俺のスキルは、未だにさっぱり分からない。

 うん、ダンゴムシを解体する鉈一本だけあれば十分だ。

 まあ、重いものを持ちたくないって気があったのも事実だ。体力は出来る限り温存したかったのだから。





 進んだ方向が当たりだったのか、外れだったのか、それは俺には分からない。

 だけど、そこは今までとはまるで違う部屋だった。

 まるで三角錐をくりぬいたような巨大な広間(ホール)。真っ黒な壁、真っ黒な床。だけど明るい。光源は分からない。けれど、そこにいるものは見えた。


 一つは巨大な黒い竜。2対の手足に巨大な翼。体中傷だらけで倒れ込んでいる。

 そしてその脇には一人の男が倒れていた。よく見れば他にも何人もの死体がある。

 黒焦げだったり潰れていたり、一部(パーツ)だけだったりと酷い状況だが、いつもの芋虫の類は見られない。

 だけどそんな事を考えるよりも早く、俺は倒れている男の元へと駆け寄っていた。


 鮮やかなブルーの鎧。プラチナの様な滑らかさがありながら、微かに光を放つ剣。

 それに立派なマントと、どう見ても相当な地位のある人間だ。

 髪も瞳も青く、俺達の世界の人間ではないと一目で分かる。

 歳は20代くらいか?



「おい、大丈夫か?」


 その男はまだ生きていた。だが腹部を貫いたであろう巨大な爪痕は、素人目にも致命傷だと判る。

 だけどここは常識外の世界だ。


「しっかりしろ、意識はあるか? こんな時に使う薬みたいのはあるか?」


 もしかしたら、致命傷も薬一本で治るかもしれない。

 ゲームなら有り得るじゃないか。


「君は……その目、そうか……召喚者か?」


 目? いや、今は置いておこう。

 それよりも、少し発音はおかしいが言葉が通じる。今はこちらの方が重要だ。


「ハハ、そうか、流石だな。俺達の誇りも、結局は召喚者の前ではこの程度のものだったんだな」


「おい、しっかりしろ。そんな事はどうでも良いんだ。薬なんかは無いのか?」


「3千を超す大軍勢でここまで来た。様々な可能性を考え、修練も積んだ。幾つものセーフゾーンを越え、何度も大変動を切り抜けた。多くの怪物と戦い多くの仲間を失った」


「余計な事をしゃべるな!」


 何とか止血しようとするが、傷は腹部から背中まで抜けている。これでは止めようが無い。

 何の手段も無いのなら、もうお手上げだ。


「薬は無いのかよ!? おい!」


「だが召喚者は違う。鎧も装備も支度も無く、平然とこんな下層まで来てしまう。やはり化け物だよ、お前たちは」


「俺がここに来たのは事故だよ。いや、事故と呼べるかどうか……まあ追放されたんだよ、役立たずだってな。だからお前の考えているような――」


 そこまで言って、俺は言葉を止めた。

 男はもう、事切れていたのだから。


「結局、愚痴だけ言って死にやがった。何が化け物だよ。こちらはその中でも最低ランクのスキル無し。役立たずだって追放されたけど、帰る事も出来ずにこんな所を彷徨(さまよ)っているハンパものだよ」


 言っていて、自分が情けなくなる。

 何でこんなことになってしまったんだろう。

 一体これから、どうしたらいいんだろうか。


『そうか、召喚者か。道理で少し人間とは違うと思ったよ』


 感傷に浸る間もなく、すぐ後ろから野太い声が響いた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公はどこに落とされたんでしょうね? 下層まで一気に落とされたとすると、他の面子が死んでいるのも当然かもしれません。異世界の戦士でも太刀打ちできない領域に足を踏み入れてしまって、主人公はこ…
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