本番はこれからだ
高層ビルから落ちていく最中も、サイレンが鳴り響いている。
それに呼応するように、近隣の明かりがぽつぽつとつき始める。静まり返っていた夜の町が動き始めたのだ。
これから俺は忙しくなるな……そんな事を考えながらも、出来り限り民間人を殺したくは無いなと考えていた。
以前に来た時は、生きるためにやってしまった。いや、やり過ぎてしまった。
やられたことを考えれば、この位の復讐は許されると思っていた。崩れ去っていくビルを見た時は、ざまあみろと心の端で思ったものだ。
だけどすぐに、地上でその結果を見てしまった……今は自分のしたことが怖い。
『おいおい、分かっているのか? お前にとってはゲームかもしれないが、彼らはこの世界に生きる人間だぞ。地上には家族だっているのだがな』
新庄琢磨……俺が初めて戦い、命を奪った召喚者。
たとえ甘いと言われても、彼の言葉が耳に残る。
ゲームだなんて思っていなかった。最初から現実だと感じていた。だけど、それでもやるしかなかったんだ。
そんな言葉を言い訳にして、一体どれ程の命を奪ったのだろう。反省するしかない。
まあ、出来る限りはだけどな。どうせ戦いになったら、そういった気持ちは外すんだ。
※ ◆ ※
遠くから聞こえてくるサイレンの音。それはまだ龍平にしか聞こえてはいない。
だがそれ以上にハッキリと、緊急通信が聞こえてきた。
ここは西山龍平をリーダーとしたチームの宿舎。
今は全員が揃っているが、以前とはだいぶ変わった。
いや、自分で変えておいてそれは無いだろうと自嘲する。
最初のリーダーであった吉川昇と、その腰巾着となっていた同じ杉駒東高校の人間であった入山雄哉は大変動の直後に死んだ。俺が殺したのだ。
セーフゾーンで大変動をやり過ごした後、周囲の確認に行くと言って手分けして別れた。
こうして残った連中が“女性陣を落ち着かせる”という名目で抱いている間に、俺は二人を始末した。事故としてな。
二人は光に包まれて消えた。訳が分からないといった様子で口をパクパクさせていたが、一生分かる事はあるまい。自分達が何をしたか……それは向こうに帰れば消えてしまうのだ。もう思い出す事もなく、一生罪の意識を背負う事もない。
悔しさはあるが、どうせ反省するような人間でもあるまい。奴らはここには不要な人間だ。さっさと帰ればいい。そんな程度の意識だった。
そして敬一との戦いで金城浩文は死に、安藤秀夫は戻って来ない。
今は俺の他に、ベテランとして合流したメンバーの中内要に神田川久美。それと杉駒東高校の瑞樹、須田亜美、岸根百合。男2人に女が4人となっている。
「緊急連絡だ。奴が神殿に現れたらしい。前の神官長が投獄されている場所だ」
“奴”と聞いて、全員が同じ人間を連想する。成瀬敬一とは、既にそういった存在なのだ。
それに、金城が殺された時の事も既に話してあった。もはや今更の話だ。
「でもどうして自分から来たのかな? 目的は何? 復讐? テロ?」
「また多くの人を殺すのかしら。同じ世界の人間がそんな事をするのは、もう耐えられない。人殺しは嫌だけど……でももうやるしかないのね」
「一応考えられる事はあるんだが……なあ、リーダー。奴はスキル無しなんだよな?」
女性陣の疑問に対し、最年長者である中内には引っかかる点があったようだ。
言葉に少々含みを感じる。何か隠しているのではないかという事か。
こいつは元々俺を警戒しているしな。返答次第でチームは解散だろう。それもまた構わないが……。
「元神官長の話では、間違いなくスキル無しだ。そもそも制御するためのアイテムが無いらしいしな。それは神殿の記録と照らし合わせても間違いないそうだ。それに仮にスキルがあったとしたら、既に精神が崩壊しているというのが神殿の見解だ。だが奴の行動にそういった点は見られない」
「やっぱりスキルは無しで、アイテムを使っているって事なのかしらね」
女性最年長の神田川久美がそう結論付ける。というより、それしかない。
奴がスキルを使っているのは、教官たちの間では公然の秘密だ。近い者は聴いているが、内々にはスキルは無い事になっている。
まあ神殿の権威に傷がつくって事なのだろうが、それ以上に奴のスキルが分からない。そんな状況で、『実はスキルを持っていました。だけど全然わかりません』とは言えないだろう。
今日も無事更新できました。応援感謝です。
ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けると超喜びます。
餌を与えてください(*´▽`*)






