表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/685

生きるためなら生ゴミだって食べるさ

 朝――と言って良いのだろうか? だめだよな、当たり前だ。

 朝も夜も分からない地下世界。幸い俺は見つからなかったし、ここから落ちる事も無かったようだ。

 寝返りをするほどの体力も残ってはいなかったのだろうか。ここに来てから口にしたのは鍾乳洞の水だけだしな。我ながら悲しくなる。


 下はもう、すっかり静かになっていた。

 連中の巣でもない限り、食料が無くなれば移動する。当たり前の事だ。

 俺が見た瞬間から始まっていたのではない限り、もっと沢山の人間がここで死んだ。

 俺と同じ召喚された者か? いないとは言わないが、数が違いすぎる。それに、そんなに簡単に倒されるとも思わない。

 だから初めて見た時も、奈々(なな)瑞穂(みずほ)先輩、それに龍平(りゅうへい)の事は心配していなかった。


 でも皆の顔を思い浮かべると、心の中がズキンと痛む。

 この世界に絶対はない。帰るはずの連中が死んだ。いや、まだ分からないが。

 その一方で、ハズレの俺が生きている。あいつらも、これからどうなるか分からない。


 どのくらいの人数が減ると、召喚は行われるのだろうか?

 俺達のような例もあるだろうけど、今も結構な数の人間が消えているはずだ。

 見えない制限時間が俺の心を締め付ける。とにかく……進もう。





 崖を降りるのは恐怖だったが、慎重に降りてみると意外と何とかなった。

 上からだと垂直な崖に見えたが、遠くの外周を見た通り、ここは盆地だった。

 もちろん落ちれば死ぬが、壁の角度は思ったよりも緩かったんだ。

 おかげでこうして――トンと足が地面に着く――無事到着。

 だけど下の惨状は、上から見た物とは比較にならなかった。


 散乱する微細な肉片や血に集まったのか、(てのひら)大のダンゴムシや蟻の様な生き物が見られた。

 ハッキリとした人間の死骸は無い。今度は骨まで食われている。

 落ちているので使えそうなのは金属の武器だけだ。これだけは食べられなかったのだろう、選り取り見取りだ。


 槍を拾い、勇気をもってダンゴムシを突き通す。

 硬い――思ったよりも数倍は固い。だけど全力なら、地面まで突き通すことが出来た。

 この位なら、何とかなると安堵する。

 精々15センチくらいの小動物。しかも動きは鈍い。こんなものを倒した位で喜んでどうすると突っ込みたくなるが、それでもこれは偉大なる一歩だ。


 近くに落ちていた(ナタ)を拾い、地面に縫い付けたダンゴムシの頭、ついで足を落とす。

 ガッ、ガッ、と、骨を断つような嫌な音が響く。こいつ本当に硬いな。

 動きが鈍くなったところで後ろ半分を切り落としひっくり返す。

 まだ残っていた脚がミチミチと動く。体も死んでおらず、なんか動く。もう嫌で嫌でしょうがない。

 自分だって、好きで解体ショーなんてしている訳じゃない。これも生きるためだ。


 彼らが持っていたであろう食料は、何も残ってはいなかった。

 そりゃ人肉を食べるんだ。人間の食べ物も食べるだろうさ。いや、これ以上は考えない様にしよう。

 ダンゴムシを逆さまにして地面に置くと、何度も鉈を振り下ろした。


 情けない……悔しい……そもそもここまでやって食べられるのか? というか本当に食べるのか、俺。

 つーか、毒とかあったりしないだろうな?

 即死毒もダメだが食中毒だって命に係わる。

 だけど人間食べなければ死ぬ。というか、もう死ぬ、限界が近い。

 どうせ食べなければ、結局は死ぬんだ。


 バラバラにした白い肉片を口に入れる。

 生臭い……というより、腐った生ゴミの味がする。

 思わず反射で吐き出しそうになるが、手で押さえて耐える。ボロボロと涙が(あふ)れてくる。立つことも出来ず膝をつく。

 だけど咀嚼(そしゃく)は止められない。食べる、とにかく食べるんだ!

 生きるために、死なない為に、またみんなに会うために。


 半分の肉を食べ終わった頃、俺の疲労は思ったよりも回復していた

 鼻から抜ける腐敗臭はまだすごく、少しでも油断したら戻してしまいそうになる。

 だけどこれで生き延びた。見ればこいつらは逃げる様子は無い。数も多い。

 あまり考えたくはないが、毒がないならこれが俺の主食となるだろう。





ご意見ご感想やブクマ、評価などを頂けるととても喜びます。

モチベーション急上昇です。

餌を与えてください(*´▽`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] このエピソードの後に「餌」と聞くと、なんだか大変グロテスクなものを想像してしまいますね。。。無数の足が生えてミチミチ動いているような感想を書いたらそれっぽい雰囲気になるでしょうが、流石にそれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ