勝てない事なんて最初から知っていたさ
「お仲間は逃げたようだが、まだ続けるつもりか? もっとも、俺はお前を逃がすつもりは無いからな」
そうだ、龍平には聞きたい事が山ほどある。ここは痛み分けでさようならとはいかない。
まあ、向こうにもそのつもりはないようだがな。
雨を切り裂き、龍平が来る。
だけどこちらも、もうただでやられる気はない。
勇者の剣とダークネスさんの小剣、両方を構えて迎え撃つ。
なんていうと聞こえはいいが、実力差は歴然だ。
俺の剣術は素人レベル。おまけに召喚者の攻撃は外せない。まさにサンドバッグ。まあ少しずつ返してやっているがな。
ただたまにヒットする剣攻撃も、軽々と腕で防がれる。シャツとかではない。生身の腕で。
こいつのスキルは肉体強化だったが、何処まで強化されているんだよ。
まるで勝ち目のない戦いだけど、咲江ちゃんは加われない。
スキルで外せるとはいえ、範囲攻撃は確実に俺を巻き込むからな。
しかも龍平がどのタイミングで息を入れているのか分からない。場合によっては俺だけアウト。
というか、咲江ちゃんがターゲットになるのは勘弁してほしい。悪いが見守っていてもらおう。
まだまだ粛清部隊とやらも残っているしな。そっちをお願いします。
というかもう本当にフルボッコ。反撃なんて何一つできやしない。
「貴様が! 貴様さえ戻って来なければ!」
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
「あれだけの事をして、何万人も殺して、なぜ貴様はそうやってのうのうと生きていられるんだ!」
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
「誰もお前なんて望んでやしない! 戻ってこなければ良かったんだ! スキル無し! ハズレ! だから元の世界に帰った! それで良いじゃないか!」
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
「それでみんなが幸せになれたんだ! 死ね! 死ね、死ね、死んでしまえ! この亡霊が! お前はもうこの世界にいちゃいけないんだよ!」
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
「お前がいるだけで苦しむ人がいるんだ! お前のせいで死ぬ人がいるんだ!」
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
「ここまで何人殺してきた! 言ってみろ! それで何を得た! 満足したか!」
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
「消えろ、消えろ、消えろぉー!」
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》……。
意識が遠のき体が消えていくような気がする。もう殴られている感覚もない。
このままこの世界から外れるのか? 消えてしまうのだろうか?
『お前をこの世界に繋ぎとめるのは女性との関係だ』
またどこかでダークネスさんの声が聞こえる。
そうだ。俺は消えない。まだ消えたくない。奈々や先輩、セポナやひたちさんん、咲江ちゃんの姿が脳裏に浮かんでは消える。
でも全員裸なのはなぜだろう?
『スケベだからよ』
『変態だからよ』
双子の幻聴は無視しよう。
そんな馬鹿な事を考えている内に、俺への攻撃は止まっていた。
顔や両手は殴られたように紫色に晴れ上がり、両手がだらんと落ちている。
ひざも笑っていて、立っているのもやっとという感じだ。
「我慢比べは……俺の勝ちだな」
ただ殴られていたわけでは無い。生きてもいられなかったようでスキルも発動しまくっていたが、当然攻撃の一部は外れ、本人の元へと還っていた。
「何が……勝ちだ。今度こそ……息の根を……止める」
再び両手が上がり、ファイティングポーズを取る。もう勘弁してほしい。
もうこっちも限界だ。これ以上長引いたら、先にこちらが消えてしまう。
なら退くか? 無駄な事だ。あいつは俺を逃がしはしないし、俺もまたここであいつを逃がすつもりはない。聞きたい事は山ほどあるんだ。
そしてもし聞けないのであれば、その時はここで倒す。それが出来ないなら、仮にここで生き延びても2度目は無い。
目にも止まらぬ速さで目の前に龍平が来る。
だが本当に早すぎて判らない。だけど――、
龍平の攻撃が、俺の右手の肘を突き上げる。
まだこれ程の力があったのかと驚くしかない。その一撃は骨を砕き、肉を千切り、そのまま俺の右手は雨の空へと飛んだ。
バシャっと音を立てて落ちる右手。その手に握られた勇者の剣を、龍平は表情一つ変えずに拾い上げた。
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