タダで先輩に会えるとは思っちゃいないさ
最初に西山龍平が案内された場所は豪華な広間であった。
先ず教官組と呼ばれる人たち――10人と聞いていたが、その時は6人しかいなかったが――まあその人たちから挨拶を受けた。
そして迷宮の事、財宝の事、そしてそれを持ち帰れば成功が約束される事などを改めて説明された。
ただ最初と違い、今回はそれだけでは無かった。迷宮がいかに危険で、過去多くの召喚者達が失敗したかが説明された。
召喚出来る人数には限りがあり、今は50人だそうだ。今はと念押しするのは、かつてはもっと少なかったらしい。だが今回は俺を含めて14人が召喚された。つまりはそれだけ消えたという事だ。
それが全員力を手にして帰ったわけでは無い事は、聞かなくても想像できた。
そして緑のサングラスに縞スーツの男――木谷と名乗ったが、彼が俺達に改めて問う。
「おそらく君たちが考えているよりも、ここは遥かにリアルで、そして危険な世界だ。今からでも帰りたいという者は名乗り出てくれて構わない。どうせ帰ったら記憶は失われる。恥ずかしいなんて思う必要は無い」
だがその問いに対して、帰ると選択する者などいなかった。
誰も現実を知らなかった。恐怖も知らなかった。そして平和な世界で生きていた高校生であった俺達は、まだ本当の騙し合いや殺し合いの世界なんてものを知らなかったのだ。
それに何より、手に入るかもしれない力への魅力が俺達の心を掴んで離さなかった。
自分だけの特別な力……それはあまりにも甘美な響きだったのだから
こうして全員がパーティー会場のような場所へ案内され、俺達は現地の人たちから熱烈な歓迎を受けた。
豪華な料理や現地の音楽や踊り。そして美男美女たちの接待。
だがそこに、いつもの二人の姿は無かった。
成瀬敬一……水城瑞樹に近づくために利用した男。こいつはスキルなしのハズレ。努力家なのは認めるが、生まれも貧しく才能にも恵まれない。そしてここでもこんなものだ。持って生まれた運命というものは、決して変えられぬらしい。
こうして、あいつはこの世界から消えた。それなりに友誼も感じていたが、結局は住む世界が違ったという事だろう。
だが心配する事は無い。俺は瑞樹と付き合うし、当然妹の面倒も見る。となれば、必然的に奴もおこぼれに預かる事になる。
もうそれなりの成功は約束されているのだ。あいつには、特別な力なんて必要ないだろう。
だがもう一人、妹の水城奈々もここにはいなかった。
最初は敬一の見送りにでも行ったのだと思ったが、瑞樹が聞いた話ではそうではなかった。
どうも彼女のスキルは強すぎるため、他者に危害を加えない様に専門の教育が必要だそうだ。
彼氏と違って、こちらはまた随分と才能に恵まれたものだと思う。
そう、その程度。この二人がどうなろうとも、俺には何の関係もない。
大切なのは瑞樹と共にいる事。こんな世界で一緒に出会う事自体が奇跡――いや、運命と呼ぶべきだろう。
これからは一緒に迷宮に潜り、宝を集め、そして尋常ならざる力を得て元の世界に帰る。
最初は突然使えるようになった不思議な力に戸惑うかもしれないが、どうせすぐに慣れるだろう。俺には才能があるのだから。
だがそんな浮かれていた俺と違い、瑞樹はパーティーの間、ずっとふさぎ込んでいた。
この時、俺は妹と別行動になってしまったからだとずっと思っていたんだ。
• 〇 ▲
全周囲から気配を感じる。多分だが、相当前から捕捉されていたのだろう。
だけど俺はこの道を選んだ。一本道のセーフゾーンの様に、そこしかないからそうなった時とは違う。ここは俺のスキルが選んだ戦場だ。決着をつけるのなら今だという事か。
周囲は木々に覆われた起伏にとんだ地形。崖があり谷があり、川も有れば湿地も至る所にある。多分湧水が豊富なのだろう。
当然ながら集団戦には最悪。少数の俺達にとっては、ホームグラウンドと言って良いだろう。
それに一緒にいるのは咲江ちゃん。集団戦にも個人戦にも強い。
俺は種明かしをしてもらったが、彼女は基本ソロ。しかも最初の頃とはスキルが大きく変質している。そのせいで仲間を大勢殺してしまったが、詳細は偉い人にしか話していないという。
気持ちはわかる。贖罪意識はあっただろうが、それと同時に帰してしまった仲間と交友関係にあった連中からの復讐を恐れたのだ。
幸いにして全て自分が悪いの一点張りで収まったそうだで、それ以上の追及は無かったという。
つまりは彼女のスキルは知られていない。
それにひたちさんはセポナの護衛を兼ねて後方待機だ。襲撃されたらすっ飛んで帰るが、今のところその気配はない。
つまり、前回と違って何の遠慮も無ければ心の準備も出来ている。お前が俺の邪魔をするというのであれば、悪いが一切の躊躇は無い。友情も、信頼も、全て外す。全ては終わってから後悔すればいい。なあ、龍平。
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