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外しきった先に残るものは何なのだろうか

 確かにもう一度ロンダピアザに戻る事は、完全に俺の我が儘だ。無関係の人間を巻き込むことはおかしいだろう。

 しかも地上が危険な事は、彼女の『一人で行けるつもりですか』という言葉だけでもよく分かる。

 考えるまでもない。ラーセットにはロンダピアザ以外の都市は無いし、他の大きな国も、巨大都市は少数のみ。外は自然(あふ)れる世界……と言えば聞こえは良いが、実際には怪物(モンスター)跋扈(ばっこ)する無法地帯という訳だ。

 そんな場所を通って敵地へと舞い戻るのだ。反対されるのも仕方が無い。


平八(へいはち)さんは賛成したと聞いていますが、雅臣(まさおみ)君は反対だそうです。貴方に私を説得させるだけの材料はありますか?」


 ハッキリ言って難しい。なぜなら、俺の理性は暫くここで生活する事を望んでいるからだ。

 召喚のキーとなっていたアイテムを研究し、俺のスキルを解析し、上手くいけば元の世界に帰れるかもしれないという。

 当然それは可能性の一つであって、確実な話じゃない。だけど(すが)るに値する内容だ。


 一方で、もう一人の俺は一分一秒でも早く瑞樹(みずき)先輩に会わなければいけないと言っている。

 多分これはスキルが関係している。俺が望む最良の結末――そこへ向かうために必ず必要な事だ。

 だけどこれの説明は難しいなー。


「一応スキルの効果だと思うのですが、そうするべきだと思うのですよ」


「それはスキルを言い訳にした、あなたの思い込みではないのですか?」


 はい、ですよね。絶対にそう言われると思ったんですよ。だって証明する手段とかないじゃない。


「そう言われてしまうと返す言葉がないですね。だからあえて言います。俺にとっての最優先順位は、やっぱり奈々(なな)瑞樹(みずき)先輩なんです。先ず二人の安全を確保する。もちろんここが俺達の世界より遥かに危険なのは知っています。道のりは険しく、場所は敵地だ。だからといって、運命とやらに丸投げしてここで安穏と無事を祈り続ける――そんな事、俺にはできないんです」


「それはひたちよりも上という事ですか?」


 どちらが上……か。もしひたちさんが、『わたくしの為に行くのはやめて!』と懇願してきたらどうだろう?

 考えるまでもない。俺は彼女を置いてでも行く。

 肌を合わせておきながら、薄情な男だろうか? いや考えるまでも無い。俺は最低だ。

 ではあるが、それはひたちさんが下だからという訳じゃない。


「上とか下とかの話ではないんです。ただ、俺の本能が訴えているんですよ。急げ、急げと。このままでは間に合わなくなってしまうと」


 これは決して嘘ではない。まるで見えない何かに心が引かれているように、俺はロンダピアザに行きたくてしょうがないのだ。


「そうですか……平八(へいはち)さんが言っていました。貴方のスキルは良くも悪くも外すスキルだと。そうしてこれはダメだと思うものを外して、外して、外しきった結果、残ったものが何なのか……私も知りたいと思います。貴方がそこまで言うのでしたら、もう反対は出来ません。そして行かせる以上、もしひたちが命を落とす事になっても恨んだりはしません。ですが、何があっても必ず全員で戻ってきてくださいね」


 その真剣な眼差しを見てしまったら、軽口なんて出てこない。


「全身全霊を掛けて、彼女を守ります。言ったでしょう。俺にとって、彼女は奈々(なな)瑞樹(みずき)先輩と同格なんです」


「ではもし、誰か一人の手しか取れない状況に陥ったその時は?」


「そんな状況、俺が外して見せますよ」


 そこで初めて、樋室(ひむろ)さんが笑った気がした。

 だがそれも一瞬。そこからは一転して、真面目な話を色々とした。

 過去の話、これからの話、そして研究の事も。


 話しながら心の端で思う。というより、話すほどに確信が深まって行く。

 やはりここに残って、帰る道を模索するのも一つの手かもしれない。

 そして完璧な成果を土産にロンダピアザへ戻る。それこそが完璧だ。彼らも、その研究成果を無下にはしないだろう。

 嘘をついて反乱の危険を内包しながら働かせるよりも、本気の志願者のみにやってもらうのが一番なのだから。


 だけどそれは達成されない。それがスキルのせいかは分からないが、俺は知っている。このままでは間に合わないと。

 それは彼女に話した通りだ。嘘など一欠けらも無い。

 研究の成果が出る前にここが見つかり時計(アイテム)を奪い返されるか、今のままではピースが足りないか……もっと別の何かかもしれないけれど、とにかくこのままでは研究は頓挫して終わる。何の結果も残せないまま……。

 だから逆に大丈夫。俺のスキルが行けと言っているんだ。そこには必ず何か意味はあるさ。





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正直に言えば、自身がどんなキーマンであろうと、何を課せられていようと、行く行かない、やるやらないは他人が賛成しようが反対しようが関係ないよね? ましてや彼のしがらみ自体は姉妹の方なんだし。 まあ、わた…
[一言] 更新ありがとうございます 敬一君はやっぱりかっこいいですねぇ 自分を最低だと断じながらも、姉妹とひたちを同格だと言える漢加減はなかなか最近のハーレムものではないと思います 細かい描写こそあ…
[良い点]  今回の決意を聞いて、改めてカッコ良いなあと再認識しました。
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