そんなものこの世に一つとして残してはいけない
「分かった。じゃあこれで解放だ。ああ、ついでに名前も聞いていいか?」
「木谷敬だ。ところで、サングラスは返してもらえるのかな?」
そういやそうだな。どうしよう。
渡した途端に戦闘になることは無いとは思うのだが……。
「これは安全のためにぶち壊させてもらう。上に帰ってあの神官様から頂くんだな。その為にいるんだろう」
そういや、また会いに行かないといけないんだったな。
というかどうにかして俺のアイテムを出させないといけない訳だが……今から気が重い。
「やはり知らなかったか。あの女は失脚したよ。処刑も決まった」
それはあまりにも予想外だった。
「なぜそうなったんだ? いや、失脚に関しては心当たりしか無いけどな。全部俺が原因だろうし。だが処刑とはね。この国は、失敗に対してはそんなに厳しいのか?」
「人権という事に関しては、私達の世界より軽いですね。ただ福祉と教育などはこちらの方が優れているように感じます」
「いや、そこらへんは良いや。それで処刑ってのはいつだ?」
「大聖堂が再建してからだ。処刑とは儀式だからな。ちゃんと手順を踏まないといけないって訳さ。因みにだが、もう代わりの神官長はいるさ。ただ代理でな、技量はからっきしだ。スキル用のアイテムを出すのは、ちょっと容易じゃないな」
なるほど……まあどんな事にも上手い下手はあるしな。アイテムを出すのも、熟練の技が必要なのかもしれない。
「まあ最終的には問題無い。やってきゃ慣れるだろうし、何度失敗しても成功するまでやらせるだけだ」
あ、なんか酷い。
新人神官長殿にはちょっぴり同情だ。
「だがお前たちが奪ったアイテムは特別だ。新たに出すことなど出来はしない。故に、それがなければ、新たな召喚は不可能だ。それに死んだ者は本当に死ぬ事になるぞ」
「最後の奴は変わらないだろう?」
「気分の問題だ」
「なら死なないままでいて貰ってくれ。その方がずっといい。まあそんな訳で――」
バキッと良い音を立てて、サングラスはまっぷたつに砕け散った。
「てめえなんてことしやがる! 人の話を聞いてなかったのか!」
いや、当たり前だろう?
俺はそこまでギャンブラーという人種を信じているわけではないのだ。
それに新たに出せる事が確実なら、壊したって問題無いだろう。
「しばらく休暇を楽しんでくれ。戻るなら生きて帰れる事を祈ってやるよ。一応はな。ああそれと、もし戻れたら俺達を追ってくるなと伝えておいてくれ。余計な戦いは本意ではないんでね」
「無駄な事だ」
そんな事は言われるまでもない。
だけど、言わない訳にもいかないじゃないか。
「まあいい。こちらからも一つ教えておいてやる。さっきの最後の質問とやらは、あまりにも退屈だったのでな」
「そいつはありがたいな。何か有益な情報だと嬉しいんだが」
「ひたちの喘ぎ声や弱い所を知っているのは本当だ」
凄まじい音を立てて鞭が地面を穿つ。怖! 無言な所がマジで怖い。
つか、こちらを動揺させるためのブラフじゃなかったのか? いや、あの時わざわざ言ったのはそのためなんだろうが、今回はちょっと違う。ブラフをかます意味がない。
「そういった記録アイテムが出回っていてね。同じ召喚者同士のポルノを見たいというのは男の性だからな。ただやり過ぎたりしたものは取り上げる。一応はそれも教官組の職務だからな。そして確認の為に、まあ一応は見るわけだよ」
「その中にわたくしの物もあったと……」
彼女から煮えたぎる溶岩のような熱気を感じると共に、俺の心は逆に氷の様に冷え切っていた。
「奈々と瑞樹先輩のもあるのか?」
「奈々君のは無いな。あれは我々教官組でも手出し無用の最重要人物なのでね。瑞樹先輩とは……ああ、姉の方だな。そちらは見たが、正直な感想を言えば思い出したくもない内容だ。あれを楽しむ奴の気が知れんね」
返事をしようとしたが、言葉が口から出なかった。
だが頭の中は冴えわたっていた。自分でも不気味なほどに。
そんな記録を出来た者も、取引した者も、ある程度絞られるだろう。少なくとも、出所は同じグループのメンバーだ。
「……そいつらの処罰はどうなっているんだ?」
自分でも、言葉から一切の感情が消えている事が理解できた。
ベテラン二人がそれに気が付いていない訳がない。だからだろうか、かえって冷静に、真剣な様子で言葉を切り出した。
「厳重注意、それだけだ。先ほども少し触れたが、この世界において召喚者とは特別な存在なのだよ。特権階級と言っても間違いではない。それ故に現地人とのトラブルも多く、我々の様な者が地上待機を命じられているわけだ。だがよほどの事をしない限り――ああ、君がしたことはよほどの事だが――まあ罰せられることは無い。何度繰り返しても、注意で終わりだ。我々であっても、その程度の権限しか持っていないのだよ。そこのひたちやダークネス・オブ・ザ・クリムゾンも、地上に来ただけなら誰も手は出さない。定期的に納めるべきものは収めているしな。そういった意味では、君以外はなんだかんだで自由なのだよ」
「そうか……教えてくれてありがとう。助かったよ。サングラスには悪い事をしたな」
「まあ、仕方がなかったと諦めておこう」
話の後半は、殆ど頭に入ってはいなかった。傍目には茫然としている様に映っていただろう。だけど頭はフル回転し、確実に果たすべき事を反芻していた。
区切りの関係で一話あたりがちょっと長くなってしまいました。
ご意見ご感想やブクマに評価など、いつもありがとうございます。
確実に栄養になっております(*´▽`*)
今後ともよろしくお願いいたします。
お姉ちゃんの立ち絵とか用意できるとよかったのですが…
特に、昔の優しく微笑んでいる姿とか。






