騙されないで
ボクは、ユウリちゃんを抱いたまま、幽霊を見る。一応、ステータスを開いてみると、意外にもステータスがちゃんとあった。
名前:アンリ・レミントン
Lv :18
職業:幽霊
種族:アンデッド
職業が幽霊って、どうなんだろう。でも、こうしてステータスを開ける所を見ると、この世界においての幽霊って、モンスターとかと同じ扱いなのかな。そう考えると、あんまり怖くなくなってくる。
「こんばんは。えっと……ネモさんでいいかな」
幽霊は、丁寧にもボクに向かって挨拶をしてきた。
「はい。えと……こ、こんばんは」
思わず頭を下げて、ボクも挨拶を返す。
「いやぁ、こうして面と向かって話すのは、初めてだね。君達の事は、影ながら見守らせてもらってたんだ。握手してもらってもいい?あ、幽霊だから触れないや。にゃはは」
幽霊は、自由自在に空を飛び回り、ボクに手を差し出してくるけど、すぐに笑って誤魔化した。その笑顔は、とても人懐っこくて、屈託のない笑顔だ。年は……15歳くらい?まだまだあどけなさの残る、可愛らしい女の子の幽霊に、ボクの警戒心は緩んでいく。
「あ、あの……君が、血まみれアリントンなの……?」
「そう、その通りさ。でも、ボクの本当の名前は、アンリ・レミントン。長い年月の間に、いつの間にかアリントンなんて呼ばれるようになってたけど、君はアンリちゃんって呼んでね」
「う、うん。分かったよ。……アンリちゃんは、どうしてボクの服を着ているの?」
「君の服が、とても可愛いから着てみたくなっちゃってね。たまに、君達の服をキレイなボクが着て、鏡の前でポーズを決めて、楽しんでるんだ。どう?可愛いでしょ?」
そう言って、前かがみになってポーズを決めてくるアンリちゃんだけど、その胸は可愛そうになるくらい平らだ。顔は可愛いけど、セクシーポーズは似合わないかな。
「た、たまに聞こえてくる泣き声って……」
「泣き声?ボクは泣いてないよ。笑ってはいるけどね。この可愛い自分の姿を見て」
「そうなんだ……」
ややこしい事に、女の子のすすり泣く声の正体は、アンリちゃんの笑い声でした。
「……ユウリちゃん?」
ここまで来ても、ユウリちゃんはぎゅっとボクに抱きついたまま、顔を隠して震えている。幽霊が、よっぽど怖いのかな。せっかく、可愛い女の子がいるのに……。
「仕方ないよ。ボクは、君達生者にとって怖がられる、幽霊っていう存在だからね。この家に住むようになった人は、皆例外なく、ボクの姿を見て慌てて家を飛び出していったもんだよ。前の住人なんて、服も家財も全部そのままで飛び出していったからね。アレには笑ったなぁ」
「そ、そうだったんだ……」
だから、この家って家具とかがそのままだったんだね……。服までもそうだから、不思議には思っていたけど、アンリちゃんが原因だったんだ。おかげで、この家に住み始めたボク達は、服や家財に困らなかったんだよね。
でも、ちょっと納得だ。夜中に、アンリちゃんみたいな幽霊を自分1人で見かけたりしたら、ボクも飛び出して帰って来ない思う。
「それにしても、君たちは本当に凄く面白いね。それに、皆凄く可愛い。だからっていう訳じゃないけど、今までできるだけ、身を潜めてたんだ。下手に姿を現して、逃げられたら嫌だからね。ボクも、一人はいい加減飽きてきたんだ」
そういって笑うアンリちゃんは、少しだけ寂しげだった。
「幽霊になってから、どれくらい経つの……?」
「うーん。忘れちゃったなぁ。もう、ずっと昔の事だから……」
途方もない時間を、アンリちゃんは1人で過ごしてきたんだ。
ボクは、そんなアンリちゃんに向かって手を合わせ、うろ覚えのお経を適当に唱えてあげる事にした。
「え、なにそれ?何してんの?新しい遊び?ああ、なんか気持ちよくなってきた。文字通りの、天にも昇る気分ってヤツを、ボクは今体感してるのかもしれない」
そう。ボクは、アンリちゃんを成仏させてあげようとしているのだ。生まれ変わって、新しい人生を歩んでいけば、もう1人じゃなくなる。そのためにも、成仏させてあげないといけない。でも、こんな適当なお経でも効くんだね。アンリちゃんは、天に吸い込まれるように、昇っていこうとしている。
「で、コレなんていう遊び?」
そうでもありませんでした。ケロッとしたアンリちゃんは、ボクがいくらお経を唱えても、成仏してくれません。ボクの周りを飛び回り、興味深げにボクを観察してきます。
「成仏、できなそう……?」
「できない。ていうか、まだする気にもならないんだよね、不思議と。なんでだろ」
「そ、そうなんだ……」
そう言われ、ボクはお経を唱えるのを諦めた。幽霊が成仏するための方法って、なんだろう。……現世の無念を、晴らしあげること?
「あの、アンリちゃんは、貴族に殺されたって聞いたけど、その貴族を殺したのも、アンリちゃんなの?」
「うんにゃ、違うよ?あのブタを殺したのは、他の恨みを持った、生きてる人間だよ。ボクは見ての通り、何も出来ない身体だからね。そんな事できないのさ。ただ、あのナイフは謎だよね。本当に、洗っても洗ってもボクの血が落ちないんだから、参ったもんだ。にゃはは」
あのナイフとは、イリスが屋根裏から発見した、ナイフの事だろう。あの血は、本当にアンリちゃんの血なんだ。いつまで経っても落ちない血って、怖いなそれ。
「ボクの噂は、色々聞いてるよ。でも、ボクは姿を現して会話をする事くらいしかできないし、噂の大体はデマだよ。だから、あんまり怖がられるのも、ちょっと困るんだよね。それはそれで、面白いんだけど。でも、ネモさんみたいに普通に会話してくれた人は、この身体になってから初めてで、嬉しいな。ネモさんは、ボクの事怖くないの?」
「……怖くない訳じゃないけど……でも、こうやって話してみると、普通の女の子と話してるみたいで、怖くは、ない……かな?」
「そっかぁ」
アンリちゃんは、屈託のない笑顔で、笑って見せてくれた。幽霊ながらも、やっぱり可愛い女の子は可愛いから、怖くないです。
「……騙されないで、ネモお姉さま」
そう呟くように言ったのは、ユウリちゃんだった。その声は、どこか怒りを滲ませていて、低く、怖い物だった。




