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出ました


 ボクは、勢い良く起き上がり、それについてユウリちゃんも起き上がる。


「どうしたんですか、お姉さま?」

「び、ビックリしたぁ。どうしたのよ」

「しー」


 ボクは、口々に喋るユウリちゃんと、ネルさんに、口の前で人差し指をさして、静かにするようにジェスチャーをした。

 シンと静まり返る、室内。そして、段々とハッキリとしてくる、女の子がすすり泣く声。


「ひぃ!?」


 それに気づいたネルさんが、布団に潜り込み、それを見たレンさんも、同じ布団に潜り込んだ。


「お姉さま。コレは……」

「うん。メルテさん、メルテさん。起きてください。声が、聞こえます」

「んー……声?どうでもいいよぉ……ぐぅ」


 身体をゆすって起こそうとしたけど、メルテさんは起きる気配がない。起きようともしない。言いだしっぺなのに……。

 イリスは……起きる訳がないよね。寝かせといてあげよう。


「どうします?」

「うーん……寝ようか」


 言いだしっぺがコレなので、そうしようと思った。

 ホラー映画とかでよく、確認しにいこうとしたら怖い目に合ったりするからね。わざわざそんなフラグをたてる必要もないと思うんだ。


「いやいやいや、寝れる訳ないでしょ……!」


 布団から顔だけのぞかせて、ネルさんがそう訴えてきた。その隣で、レンさんも布団から顔だけ出している。


「私も同意見です……!」


 2人は、小さな声でボクに向かってそう訴えてくる。


「いや、でも別に害がある訳じゃないし……」

「ありまくりよ!私、このままじゃ安心して眠ることもできないわ!あんただって、気になるでしょ!?」

「そ、それはそうですけど……」

「じゃあ、レンさんが行ってきてください。それで解決です」

「レン様、頑張って!」

「行く訳ないじゃないですか、恐ろしい!」


 レンさんは、布団の中に引っ込んでしまった。

 2人共、怖がりすぎだよ。たかだが、泣き声が聞こえてきたくらいで。

 と思ったけど、今思えば引きこもりだった時、誰もいないはずの家の中で、女神様に話しかけられたときはボクも取り乱したな。あの時は1人だったからね。仕方ないんだ。でも、こんなに怖がってはいなかったはずです、たぶん。


「しょうがないですね。私、ちょっと見てきますよ」

「ええ!?危ないよ。放っておけばいいよ、その内収まるし!」

「でも、私としてもちょっと気になっていたので、この際ハッキリとさせようかと」


 そう言って、普段通りに部屋の扉を開いて出て行こうとするユウリちゃんは、凄く男らしかった。

 躊躇いも何もないのが、凄いです。惚れてしまいそう。


「ぼ、ボクも行くよ」


 ボクは慌ててその後を追って、一緒に部屋を出た。

 元男として、ボクも男気を見せなければいけない。そう思い、張り切って先導しようとかと思ったけど、無理だった。ボクはユウリちゃんの後ろに隠れ、慎重に廊下を進んでいく。

 灯りのない夜の廊下って、凄く不気味です。そこにすすり泣く女の子の声もブレンドされているんだから、その不気味さは倍増する。なんやかんやで、ボクもちょっと怖くなってきました。


「どうやら、下から聞こえるみたいですね」


 なのに、どうしてこの子は平気そうなんだろう。

 ボクは、普通に歩いていくユウリちゃんについていくのがやっとで、廊下を歩き、階段を下りて、リビングへとやってきた。それに伴い、泣き声は、段々と近くなってくる。


「やっぱり、家の中にいるみたいですね……扉を開けられた形跡はないですし、本当に幽霊が?」


 ぐるりとリビングを見渡してから、ユウリちゃんは声のする方へ、音をたてないよう、慎重に進んでいく。

 そちらは、お風呂のある方だ。緊張感が、増して来ました。


「うぅ、う、うぅ……うぇ、へへ、ぐへ、ぐふふ……」


 脱衣所の前まで来ると、やっぱり声はそこからしていると、ハッキリ分かる。中に、確実に誰かがいる。だけど、ここまで来るとなんか、泣いているっていうより、笑い声に聞こえてきた。

 不思議に思いながらも、ここは慎重に、まずは覗いてみよう。


「わぁー!」

「ひゃぁ!?」


 ボクの作戦なんて、完全に無視のユウリちゃんが、それまで慎重だったのに、叫びながら脱衣所に突っ込んでいった。

 むしろ、ボクの方がそんなユウリちゃんの声と行動に驚き、腰を抜かしてしまったよ。


「あ、あぁぁ……」

「ユウリちゃん……?」


 脱衣所の前に立ったユウリちゃんが、中を指差して、震えている。まるで、この世の終わりのような表情だ。ただ事ではない。

 ボクは、そんなユウリちゃんの前に急いで立ちはだかり、庇うようにして中を確認した。


「……」


 先に言うと、そこにいたのは、本当に女の子の幽霊だった。

 透明な身体に、足がないから間違いない。だけど確かに、人の形をしてそこにいる。髪は赤毛で長く、若干ハネてはいるものの、それがチャームポイントになっている。目はパッチリとしていて、偏見だけど、甘えるのが上手そう。背は、ちょっと大きめ。メルテさんくらいある。でも、足が消えているから、本当の全長は分からないけどね。とんでもない短足でない限りは、それくらいあるだろう。

 そんな女の子の幽霊なんだけど、どういう訳か、ボクの服を身に纏っている。けど、本当の服はちゃんと洗濯中で、幽霊が身にまとっているのは、ボクの服をコピーした物と言うのが正しいのかな。そして、片手を後頭部に乗せ、もう片方の手は腰に。膨らみのない胸をちょっとだけ突き出して、鏡に向かってポーズを決めていた。


「あー……見つかっちった」


 それまで、ボクとユウリちゃんを見て固まっていた幽霊が、喋った。


「きゃあああああぁぁぁぁ!」


 次の瞬間、叫んだのはユウリちゃんだった。とても大きな声が、響き渡る。ボクは、ユウリちゃんがボクを、雷から庇ってくれた時のように、抱きしめて庇った。

 ボクだって怖いけど、こんな場面でそんな事は言っていられない。


「ユウリ!」

「ユウリさん!」


 ユウリちゃんの叫び声を聞いて、レンさんとネルさんが駆けつけてくれた。そして、幽霊を見て固まる。そんな2人に向かい、親しげに手を振る幽霊だけど、2人は気を失い、その場に背中から倒れました。

 一体、何をしに来たんだろう。


「ありゃ、痛そう……」


 幽霊ですらそう思うような、見事な倒れっぷりでした。


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