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絶対に嫌


 寝支度を整え、夜もふけてきた頃、ボクとユウリちゃんとイリスが使っている部屋に、全員が集合した。ベッドは1つしかないので、レンさん達は床に布団を敷き、パジャマ姿でそこにいる。最初はレンさんもベッドで寝ると言っていたけど、どう考えても無理です。なので、こんな感じになりました。


「誰か一人が常に起きてて、おかしな現象が起きたら、すぐに皆を起こすんだ。それで、声の出所を確かめる。いいね?」

「いいけど、誰が起きてるのよ。私は嫌よ。絶対に嫌」


 そう言ったのは、緑色の、トカゲの怪獣の着ぐるみみたいなパジャマを着ている、ネルさんだ。

 レンさんとメルテさんは、普通のボタンで留めるタイプの、シャツとズボンのパジャマなのに、ネルさんだけそんなデザインのパジャマを着ている。どうやらユウリちゃんの趣味で着せられているようで、だけど本人は特に不満はないらしい。

 ハッキリ言って、凄く似合ってるので、ボクとしても、そんなネルさんは見ていて楽しくなる。だから、何も言いません。


「そこは、交代制さ。一時間毎に交代して、見張りを立てる。野宿の見張りみたいなもんだ。よくやるだろ?」

「一時間、一人で起きていなきゃいけないって事でしょ?絶対に嫌」

「大丈夫だって。皆いるんだから、怖がる事ないって」

「怖がってない。でも、嫌。絶対に、嫌」


 枕をぎゅっと抱きしめ、ガタガタと震えてそう訴えるネルさんは、完全に怖がっている。でも、そんなネルさんは、ちょっと可愛い。いつも冷静沈着で、お姉さんみたいなネルさんの、新たな一面を知ることができました。


「メルテさん、無理強いはよしましょう。私も正直、交代で見張るのかったるいので、適当でいいんじゃないですか。誰かが気づいたら、皆を起こすと。それでどうでしょう」

「い、いやでも、それだと気づかない可能性だって……」

「それに、既に幼女は寝ています」


 ボクとユウリちゃんが座っているベッドの上では、イリスが横になり、既に眠っていた。パジャマにしているワンピースは、大きくめくりあがり、白のパンツ丸出しの状態で、だ。お腹がかゆくて、寝ぼけてめくりあげたみたいだけど、凄くお行儀が悪いです。

 そんなイリスの服を、ユウリちゃんがちゃんと戻してあげてから、布団をかけてあげた。


「早くも、計画が崩れた……」

「いいじゃないですか。せっかく、皆でお部屋に集まったんです。今日はパジャマパーティという事で、割り切りましょう」

「パジャマ……?なんだい、それ?」

「平たく言えば、お泊り会みたいな物です」

「いいですね。では、幽霊の事なんて忘れて、皆で楽しく語り合いましょう!」

「そんな事いって、レンもネルと同じく、幽霊が怖いだけだろう……。まぁいいよ。あたしが起きてるから、皆は思う存分、寝ててくれ」


 そんな男気を見せるメルテさんだけど、それから数十分経つと、いびきをかいて眠りだしました。それも、イリスのようにお腹を出し、お腹をかいている。


「あんな事言っておいて、どうして真っ先に寝てるのよ、コイツ……」


 忌々しげに言いながらも、ネルさんがそんなメルテさんの服をただし、布団をかけてあげた。優しい。


「さ。言いだしっぺが寝てしまった事だし、私たちも寝ましょう」

「えー、もうですか?私、もっとネモ様とお話がしていたいです。朝まで耳元で語り合いたいです」

「それ、いいわね!」

「よくないです。しません。ボクも眠いので、寝たいです」


 レンさんの発案に賛成するネルさんに、ボクは慌ててそう言った。


「バカな事言ってないで、寝ますよ。灯り、消しますね」


 部屋を灯しているランプは、魔法のアイテムだ。元々部屋に備え付けられていたんだけど、手をかざして灯りをつけてと願うだけで、灯りがつく便利な物。コレも、水道などと同じ、魔法石の力による物だ。この世界の、電気みたいな物だね。

 ユウリちゃんは、そんなランプに手を伸ばし、灯りを消そうとする。


「待った!」


 そんなユウリちゃんの行動をう止めたのは、ネルさんだった。


「どうしたんですか?」

「あ、灯りは……つけておきましょう。何かが出たら、危ないし……」

「そうですね!私も、賛成です」


 ユウリちゃんは、苦笑いを浮かべながら、電気を消すのをやめました。

 布団についたボク達は、それぞれが眠りにつくため、静かになる。聞こえてくるのは、イリスの寝息と、メルテさんのいびきだけ。すすり泣く声は、未だに聞こえない。


「れ、レン様……寒くない?よかったら、一緒に寝ない?」

「そうですね。それはいいアイディアです。是非とも、一緒に寝ましょう」


 床に布団を敷いている、レンさんとネルさんの会話だ。静かになってから、しばらくの時間が経っての事だった。


「ふふ」


 ボクの隣で眠っていたユウリちゃんが、笑った。

 目を開くと、目の前にユウリちゃんの顔がある。ちょっと前に出れば、唇と唇が重なってしまうような、凄く近い距離だ。いつも、こうやって抱き合うように眠っているけど、今思えば、なんて近い距離で眠っているんだろう。慣れって、怖いです。


「あ、起こしちゃいました……?」

「ううん。起きてたから、平気だよ」

「良かったです。まったく、ネルさんも、レンさんも、怖がりなんですから。でも、意外です。お姉さまは、幽霊とか平気なんですね」

「うーん……一人だと怖いかもだけど、皆といれば、平気かな。大きい音とか出されたら、嫌だけどね」

「なるほど。確かに、一人だと怖いかもしれませんね」


 実際、勇者の時は大変だったな。幽霊と言うか、魂というか、そんなのお墓とかにいけば、しょっちゅう遭遇できたからね。でも、彼らは特に有害な物じゃないし、気にする必要はないです。でも、いるとちょっと怖い。そういう存在です。


「でも、私もお姉さまがいてくれれば、平気です」


 ユウリちゃんはそう言って、ボクの腕に抱きついて、肩に顔を乗せてきた。女の子独特の、いい香りと、石鹸の香りの混じった、とてもいい香りが鼻を通り抜けます。

 昔のボクなら、声をあげて引き剥がしていたかもしれない。でも、コレにももう慣れたもので、特に抵抗はしない。ちょっと、恥ずかしいけどね。

 その時だった。微かに、すすり泣くような声が聞こえてきた。ユウリちゃんはまだ気づいていないようだけど、段々とハッキリと聞こえてくるようになる。


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