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血まみれアリントン

誤字報告、本当にありがとうございます!


 箱に封をしていたお札が破れ、同時に魔力が霧散していった。そんな事を気にする事もなく、イリスは開いた箱の中身を、欲望に満ちた顔で覗き込む。

 お宝でも期待してるのかな。ボクはイリスのようにお宝を期待している訳じゃないけど、ちょっとだけ、気持ちは分かります。こういう、隠されていた物の中身に心を躍らせてしまうのは、人間の性です。


「……ナニ、コレ」


 箱の中身を見たイリスが、固まった。

 ボクも箱の中身を見てみると、そこにあったのは、豪華な装飾の施された、ナイフだった。散りばめられた宝石と、取っ手には金かな。これでもかというくらい、高そうな素材が使われている。それは、イリスが好きそうな、高く売れそうな物だ。

 でも、イリスは飛びつかない。それには理由がある。

 箱の中身は、血でべっとりで、ナイフも箱も、赤く染まっている。明らかに、そういう目的で使用された痕跡のあるそれに、イリスはたじろいだのだ。


「ね、ネモ……コレ……」

「う、うん。血だね。たぶん、本物……」

「どうしたんですか、ネモ様」

「何か、あったんですか?」


 下にいる、レンさんとユウリちゃんが、心配して声を掛けてきた。


「とりあえず、降りようか」

「そうですね」


 ボクは、イリスを抱きしめて、ナイフの入った箱を持って屋根裏を後にしようとした。

 その時、屋根裏の暗闇の向こうから、怪しげな笑い声が聞こえた気がして、振り返る。でも、当然そこに誰かがいる訳もなく、気配もない。


「どうしたんですか、ネモ」

「う、ううん、なんでもない」


 ボクは、気になりながらも、イリスと共に床に降り立った。

 その瞬間、窓から青い光が差し込み、直後に大きな音が響いた。


「ひゃう!?」

「ぐえ!?」


 驚いたボクは、思わずイリスを放り投げ、イリスは壁に顔面を打ち付けてしまった。

 ボクは、床に座り込み、頭を手で隠して怯える。雷は、恐ろしいです。怖いです。凄い音で、凄く眩しくて、ダメなやつです。


「お姉さま?大丈夫ですか?」


 そんなボクを、ユウリちゃんが心配そうに、横から抱きしめてくれた。雷はまた鳴って、怖いけど、ユウリちゃんがこうしてくれているから、ちょっと安心できる。


「ご、ごめんね。ボク、雷ダメなんだ……」

「か……可愛いです、お姉さま!大丈夫、私が守ってあげますよ。だから、安心して、この私の胸の中にお顔をうずめていてください!」


 ユウリちゃんは、そう言って思い切り、ボクの顔を抱きしめてきた。ユウリちゃんの柔らかな胸の感触が、頬から伝わってきます。


「まだ、雷はダメなんですか」

「それでよく、冒険者なんてやってられるわね。今まで、どうしてたの」


 イリスと、ネルさんに、呆れて言われてしまった。

 ボクは、雷が平気な人がおかしいんだと思うよ。こんなに大きな音と、凄く眩しい光のコンボなんて、反則です。


「野宿の時に雷が鳴り出した時は、適当な木に風穴をあけて、その穴の中に引きこもるとか、洞窟の奥深くに引きこもるとかしてましたね。それでもあまりにも怖がりすぎるので、そういう時は私が一日中声を掛け続けていました」

「う、うん……ボクが、勇者だった時だね。姿は見えなかったけど、凄く嬉しかったよ。ありがとう、イリス」

「お礼じゃなくて、謝罪の言葉を聞きたいんですけどねぇ?」


 そう言ってイラだった様子のイリスは、鼻が赤くなっている。先ほど壁に衝突させてしまった事を、根に持ってるみたい。


「ところで、お姉さま。それ、なんですか?」

「あ、うん。屋根裏で、イリスが見つけてきたんだ」


 ユウリちゃんに指摘されて、屋根裏から持ってきた箱の蓋を開くと、そこには血まみれのナイフが。


「な、何ですか、コレ?血?」

「たぶん、そう。お札で封がしてあったんだけど、イリスが破いて開けちゃった」

「ひっ!」


 それを見て、ネルさんが小さな悲鳴を上げて、腰を抜かしてしまう。


「ネル!?」


 レンさんが、すぐにそんなネルさんに駆け寄った。


「そ、それ……も、ももももしかして……ネモ!この家って、いくらだった?」

「890万Gです。凄く、お買い得でした」

「ね。他の家は、どんなにボロ家でも倍近くするのに、この家は破格でした」


 喜び合うボクとユウリちゃんだけど、ネルさんは顔面蒼白で震えだす。


「何か、心当たりがあるのですか?」

「し、知らないの?血まみれアリントンの話を!?」

「知らないです」

「知りません」

「何ですか、それ?」

「お腹減った……」


 イリスだけ、答えになっていないけど、どうせ知らないよね。


「この町じゃ、ちょっとした有名な話よ……。その昔、アリントンという、働き者の少女がいたの」


 ネルさんが、何か語りだしました。


「彼女は、家の近くのレストランでアルバイトをしていて、それはそれは、真面目に働いていたの。ある日、アルバイト先の雇い主から、今はお金がないのでコレを売ってお金にしなさいと言われ、ナイフを渡されました。そのナイフには豪華な装飾が施されていて、アリントンの給料よりも価値のある物でした。でもそれは、盗品だったの。レストランの店主が、とある貴族から盗み出した物で、そんな事を知らないアリントンは、早速売りにでかけました。そこで、ナイフが盗品だと指摘され、その事を初めて知ったアリントンでしたが、ナイフを盗み出した犯人にされた挙句に、貴族にそのナイフでめった刺しにされて、殺されてしまいました」

「ひどい……」


 レンさんが、口を覆いながら呟いた。

 確かに、ひどい話です。でも、それとこの家の値段と、何が関係あるんだろう。


「それから、不思議な事がおきた。アリントンを雇っていたレストランの店主が、血まみれの死体になって発見されたの。更に別の日には、アリントンを殺した貴族が、店主と同じように血まみれの死体で発見される。そして、貴族の傍に、貴族がアリントンを殺したナイフが、血まみれの状態で転がっていた。不思議な事に、その血は洗っても洗っても落ちず、その上気づけば流れ出したばかりのように、周りを血で汚していた。不気味に思った貴族の遺族は、そのナイフをアリントンの住んでいた家の屋根裏に、密かに置いたの。それ以来、アリントンの家では血まみれの少女が目撃されたり、少女のすすり泣く声や、人を刺すような音が聞こえるようになり、そこに住む人は一週間もたずに家を出て行くようになった……おしまい」

「えっと……そのアリントンの家が、この家だという事ですか?」

「そうよ!」

「えぇ!?」


 ユウリちゃんがそう言って、ボクは驚いた。まさか、事故物件というヤツだろうか。道理で、安かったわけだ。

 でも、そんな心霊現象に遭遇した事ないから、たぶん勘違いだよ。


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