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雨漏り


 聖女様が家に襲来したその日から、数日の時間が流れた。

 大勢での共同生活にも、大分慣れてきたこの日の天気は、雨です。空は暗く、地面を激しく打ち付ける雨の音が、大きく響く。こんな天気では、クエストを受けに出かける気にもならない。という訳で、今日はお休みという事にして、お家でゆっくりする事になった。

 雷は嫌いだけど、雨はそんなに嫌いじゃない。ボクは、窓際にイスを持ってきて座り、雨の音に耳を傾ける。それから、イリスがお勧めしてくれた、物語の本の表紙を開いた。漫画とかは読むけど、字だけの本は読まないボクだけど、たまにはこういう新しい趣味を嗜むのも、悪くないです。


「ったく!何ですかこの雨は、じめじめとして鬱陶しい!本を読む気にもならないじゃないですか!」

「こういう日だからこそ、お家でおとなしく読む物でしょう?でも、確かに雨は嫌ですね。洗濯物が乾かないので、困ります」


 リビングで本を読もうと思ったボクだけど、思ったよりも五月蝿い環境に、本に集中する事ができない。

 オマケに、ふと気が付けばボクの正面に、レンさんがイスを置き、そこに座っていた。そして、ボクに話しかける訳でも、何をする訳でもなく、ただじっとボクを見つめている。正直、不気味です。


「ねーもー。一緒に飲もうじぇー」


 そこへ、背後から酔っ払っているメルテさんが、ボクに抱きついてそう言って来た。もの凄く酒臭くて、それだけで気持ち悪くなってくる。ボク、お酒って苦手なんだよね。メルテさんに、何度そう言っても誘ってくるから、タチが悪いです。


「の、飲みません……」

「んな事言うなよー。美味いぞ、この酒ー」


 酔っ払ってはいるけど、これくらいならメルテさんにとって、まだ酔っ払っている内には入らない。飲み始めたばかりなのかな。


「大変よ!」


 そこへ、リビングに入って来たネルさんが、そう叫んだ。

 タダ事ではないその様子に、ボク達に緊張が走る。


「敵か!?」


 酔っ払っているはずのメルテさんは、置いてあった箒を手にして構えた。その動きは機敏で、とても酔っているようには見えない。


「違う!雨漏りしてるの!桶持って上に来て!」

「雨漏りー?そんなのいいから、酒ちょーらい」


 一瞬にして酔いが覚めたのかと思ったけど、違った。すぐに元通りになったメルテさんは、ふらふらとした足取りでネルさんに抱きつこうとするけど、ネルさんにかわされ、床に倒れこんでしまった。


「あんたが今飲んでるので、最後よ!いいから、皆手伝って!」


 ボク達は、ネルさんに言われたとおり、桶を持って2階に上がった。すると、廊下の所々から水滴が垂れてきていて、それが床を濡らしている。複数個所で雨漏りが起きているらしく、酷い状況だ。ただ、幸いにも部屋の中は水漏れしていないようで、水漏れ箇所は廊下に限られている。

 とりあえず、ボク達が持ってきた桶を、水の落下点に配置して、とりあえずの処置は終わった。桶に落ちてくる水が、それぞれで違う音を奏でるのが面白いです。


「これで一時しのぎにはなるけど、水漏れしてる場所を直さないと、ダメね。私、ちょっと屋根裏に潜ってみるから、誰か手伝ってくれる?」


「それなら、ボクがやります」

「気持ちは嬉しいけど、この天井大分ガタが来てるっぽいから、なるべく軽い方がいいと思うの。だから、私が行く」


 確かに、ネルさんは小柄で、軽い。でも、もっと軽いのがいるじゃないか。ボクとユウリちゃんは、金髪ツインテールロリエルフなイリスを見つめた。


「……へ?」


 屋根裏への入り口は、廊下の天井の一部が押すと外れるようになっていて、そこから入れるようになっていた。その蓋を外し、ボクはイリスを肩車した状態でイスの上に立ち、中を覗かせる。


「げほ、げほ!埃が凄くて、そこら中に蜘蛛の糸が張ってるんですけど!」

「いいから、水漏れしている箇所を数えて来てください。あと、ちゃんとマークしてくださいね」


 イリスには、チョークと灯りを渡してある。中から水漏れ場所をマークしておいて、晴れの日に直そうという作戦だ。


「女神にこんな事させるとか、あなた達罰があたりますよ!?」

「今は女神じゃないでしょ。いいから、さっさと行きなさい。じゃないと、晩御飯のお肉、イリスだけナシにしますからね」

「やってくださるなら、私のお肉を半分あげます。なので、しっかり」

「やりましょう」


 レンさんの言葉を聞き、イリスはいい顔で答え、意気揚々と、ボクの肩から天井裏へと潜っていった。


「……レンさん。あまり、イリスを甘やかさないで下さい」

「いいじゃないですか。これくらいのご褒美があった方が、彼女には丁度いいですよ。それに、どうせ頑張ったご褒美に、ユウリさんが後で何かあげるつもりだったのでしょう?たまには、私にさせてください」

「……」


 どうやら、レンさんに完全に、見透かされてるね、ユウリちゃん。その事に、ちょっと悔しそうだけど

、否定はしない。本当に、そのつもりだったみたいだ。


「お、おえー!蜘蛛の糸が顔に……げほっ、げほっ。ふぇ……ぶえっくしっ!ぎゃー!埃がまったー!」


 一方、天井裏からは、イリスのけたたましい叫び声が聞こえてくる。相変わらず、イリスはやかましくて、黙って作業のできない子です。

 そんなイリスの様子を伺うため、ボクはイリスが入っていった天井の穴に首を突っ込み、覗き込んでみた。どうやら、ちゃんと作業はしているみたいで、水漏れしている箇所にはしっかりと、チョークで×印が記されている。


「ネモー」

「わっ」


 首だけ覗いた背後から話しかけられて、ボクは驚いてバランスを崩しそうになった。そんなボクの足を、下にいるユウリちゃんとレンさんが支えてくれて、事なきを得た。


「あ、ありがとう、二人とも」


 支えてくれた2人にお礼を言って、振り返るとそこにいたのはイリスだ。埃まみれで汚いし、糸が顔に張り付いている。

 そうだね。ちょっと覗いただけで、凄く汚いという事はよく分かる。そんな場所に入っていったのだから、こうなってしまうのも無理はない。


「ご苦労様、イリス。終わった?」

「一応、全部見終わりました。あと、こんな物を見つけました。けほっ」


 そう言ってイリスがボクに見せてきたのは、箱だった。長方形のまな板くらいの大きさの木箱で、とても古くて、時代を感じさせる。まぁ、そういう事もあるよねと思うんだけど、問題はその箱に張られている、お札だ。なんて書いてあるかは分からないけど、魔術的な物を感じさせるお札が、箱に封をしている。それも、何枚も。


「えい」

「あ」


 そんな箱を、イリスが躊躇いもなく、開いてしまいました。


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