斬首がいいです
「ラクランシュ様と私は、旧知の仲なんです。幼い頃から彼女は、私にとって、憧れのような存在でした」
そう、嬉しそうに語るレンさんに、聖女様も柔らかな笑みを浮かる。
「私の方こそ、レンファエル様には感心させられる事ばかりで、憧れてしまいます。貴女の魔法学に関する研究は、学生の領域を超えてございますもの」
「はいはい、そこまで。そんな話は後で、ゆっくりと二人きりでどうぞ。聖女が知りたいのは、どうしてここにレンがいるか、です。違いますか?」
イリスが、思い出話が始まってしまいそうな2人に、割って入った。
その頭の上には未だに大きなたんこぶがあって、そちらが気になって仕方ないけど、言っている事は正しい。
「そうでしたね……」
「イリスの言うとおりですね。では、私がここに来るまでの過程を、お話します」
レンさんは、聖女様に、事のいきさつを話した。
自分が、父親に嵌められて、禁断の森のオークに、生贄として捧げられたこと。それを、ボクとユウリちゃんが助けたこと。それから、ぎゅーちゃんとも仲良くなったことも。町に戻ってきてからは、キャロットファミリーに保護してもらい、息を潜めて生活をしていた。それから、ボク達と一緒に住むようになって、今に至っている。要約すると、こんな所だ。
ちなみに、レンさんとネルさんとメルテさんには、一緒に住むに当たり、ボク達の素性は明かしてある。ボクは異世界の元勇者で、イリスは元女神様で、ユウリちゃんは異世界からの転生者。最初は驚いていたけど、納得して信じてくれた。
「……にわかには、信じられません。ヘンケル様が、レンファエル様を生贄に捧げるなど、ある訳がございません」
聖女様も、メイヤさんと同じような事を言う。それだけ、皆の目には、子煩悩な父親に見えていたという事だね。
「ヘンケル様には、怪しい点がいくつもある。例えば──」
「──魔力結晶鉱石を、集めているという話でございますか?」
「し、知っていたんですか!?」
「……はい。ヘンケル様について、近頃聖騎士団にほうに、噂程度ですが、ある程度の情報が流れてきています。それに加えて、今回のラルの件……疑わしき事が増えていく一方でございます……。ですが、あのヘンケル様が?という気持ちが、大いにあり、現在詳しく調査を進めている所でございます……」
そこまで言って、聖女様が足をふらつかせ、倒れそうになる。ボクはいち早くそれを察知して、身体を支えてあげた。
「ご、ごめんなさい、えっと……ネモさん、でしたか?」
「は、はい」
そういえば、こちらの自己紹介がまだだったね。
「ついでだから、言っておきますね。私はユウリです。クローゼットで眠っているのが、メルテさん」
「私は、ネルエル。私とメルテは、レン様に雇われている、冒険者です」
「お二人とは、何度かお会いしておりますね。とても可愛らしい方と、たくましい方だったので、よく覚えています」
確かに、ネルさんとメルテさんは、1回会ったら中々忘れられない2人だね。特に、男目線で見ると、色々とそう思う。
「ご心配をおかけして、申し訳ございません。もう、大丈夫です」
ボクが支えていた聖女様が、自力で立ち、ボクから離れた。
聖女様を支えた感想だけど、凄く軽かった。まるで、何も感じないくらい。そりゃあ、ボクの力がイリスの加護によってパワーアップしたからというのもあるかもだけど、それを差し引いたとしても、聖女様は軽すぎる。
ちゃんと、食べてるのかな。
「……あの、従者の騎士の事、残念ですね。信じていた人が、実は自分の命を狙っている魔族だったなんて」
ユウリちゃんが、聖女様の心労を心配して、そう声を掛けた。
「アレは、死体を操る術師の仕業ですね。でもたぶん、アンデッドとは違います。アンデッドなら結界はくぐれないので、生きた状態で魂を消却し、精神だけ操っていたのでしょう」
「……ラルは、熱心で、優しい方でした。しかし、人間を見下したり、女神様を侮辱したり、夜な夜な私の住む中央教会を徘徊し、詳しい地図を作ったり、私の嫌いな物をしつこく尋ねてきたり、たまに黒い影をその身からあふれ出させたり、人ならざる物の気配を感じさせたり、私に呪いのついた装飾品をプレゼントしてきたりと、若干怪しい所はあったのです。今思えば、その時聖水でもぶっかけて差し上げるべきでございました……」
ボクは、聖女様が凄く心配になってきました。ホント、どうして気づかなかったの?アピールしているようにしか見えないよ。
ボクを含め、その場にいる女神様とメルテさん以外の全員は、呆れて言葉も出なかった。
「この聖女、アホですね」
「イリス!」
ストレートに言うイリスを、ユウリちゃんが咎めた。でも、言われてもしょうがないよ、ユウリちゃん。
「ラクランシュ様は、昔からそういう方なんです。人の悪意に疎いというか、優しいというか……だから、今までは国から派遣されていた騎士様がお傍につき、ラクランシュ様を支えていたのですが、それを私の父が適当な理由をつけて送り返し、ラクランシュ様を支えていた方がいなくなってしまったのです」
「とにかく、段々と、見えてきましたね。全ての元凶は、レンの父親である、そのヘンケルとか言う男。話の内容から、魔王と繋がっていて、この町の聖女を排除しようとしている動きも見受けられる。私の勘が正しければ、近々荒れますよ。対応を間違えれば、大勢の人間の命が奪われるでしょう」
元女神であるイリスの宣言に、聖女様はゴクリと喉を鳴らした。
でも、イリスの勘なんて当てにしないボクは、話半分に受け流し、なんとも思わなかった。ユウリちゃんは、疲れたのか欠伸をしている。
「ラクランシュ様。女神様からの、お告げは?」
「それが、ここの所全くないのです」
「あるじゃないですか、この私のお告げが。その男、ぶっ殺しなさい。魔王と繋がっていた罰です。斬首です。私、斬首って好きなんです。スパーンと首が落ちるのが、気持ちよくて。だから、斬首がいいです」
仮にも元女神様が、斬首が好きとか言い出しました。
「イリスのお告げはさておき、いくら悪意に疎い私でも、ヘンケル様が怪しいという事は、分かりました。また、魔王が私に刺客を差し向けていたことも、事実として分かります。そして今、魔王は私が、呪いによって、もうじき死ぬと思い込んでいるということも……」
「ところで、ネモ。死の呪いはどうなりました?」
思い出したように、イリスが聞いてくる。言われて、ボクは黒いシミの出来ていた右腕を見てみるけど、それがキレイさっぱり消えていた。
「え、え!?死の呪いとは、どういう事ですか!?ネモ様が!?」
事情を知らないレンさんが、慌てだす。
「落ち着きなさい、レン。デスリーディメルスなんて魔法、ネモにきく訳がないでしょう」
「まさか……!?」
聖女様が、ボクの腕をちょっとだけ乱暴に掴んできて、腕を見つめられた。そこに黒いシミはなく、その事に聖女様は驚嘆し、信じられない物をみるような目で、ボクを見てきた。
こんな呪い、昔から何回も受けてきたけど、全部効かなかったからね。今回も効かないとは思っていました。
「信じられない……本当に、デスリーディメルスが治っているなんて……」
「まぁ、ネモだから」
「そうですね。お姉さまですから」
「さすが、ネモ様!ステキです!」
皆が口々に褒めてくれて、ボクはちょっと照れました。




