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やっちゃった


 とはいえ、放ってはおけないよなぁ。あのままじゃ、いくらなんでもイリスティリア様が可愛そうすぎる。なんでも、このまま調教が上手くいかなければ、拷問奴隷として売り出すとか。そうなれば、イリスティリア様の命は、ない物と同然。それに、痛いことをたくさんされる事になる。


「金がないなら、殺せ!殺して、私を自由にしろ!」


 なんて言われたけど、嫌だよ。ボク、ラメダさんの事、案外嫌いじゃない。それに……初めてのキスの相手だもの。

 そもそも、女神様が人を殺してまで自分を助けろとか……優しかったイリスティリア様は、一体どこへ行ってしまったのだろう。ボクは、空を見上げる。そこには、あの豊かな胸の、イリスティリア様が映っていて、そしてボクに優しく微笑みかけている。


「ネモお姉さま、どうするんですか?あの、エルフの女の子」

「で、できれば、助けてあげたいけど……どうすればいいのかな?」


 ボクは、ユウリちゃんと道端に座り込んで、相談。石畳の上は、ひんやりとしていてちょっと冷たいけど、贅沢は言えない。なんと言っても、ボクらは一文無しの宿無しコンビだからね!


「てっとり早くお金を稼ぐには、冒険者になるのがいいのかもしれませんが……」

「うーん……冒険者かぁ。ギルドって、人がいっぱいいるイメージがあるから、嫌だなぁ……」

「となると、個人で珍しい物を手に入れて、直接商人に売る……とか」


 珍しい物かぁ。ボクは、アイテムストレージを開いてみる。そこには、たった一つだけ、アイテムが入っている。ウルティマイト鉱石。ぎゅーちゃんがくれた、アイテムだ。

 ボクはそれを、ストレージから取り出してみる。と、広げた手の上に、それがどこからともなく出現した。

 ストレージにいれたときは、ぎゅーちゃんの涎まみれで汚かったけど、キレイになっている。どうやら、洗浄機能でもあるのかな。


「わ。な、なんですか、それ?」


 いきなりボクの手の上に現れた物体に、驚くユウリちゃん。


「ゆ、ユウリちゃんは……アイテムストレージとか、ないの?」

「あいてむすとれーじ?」


 首を傾げるユウリちゃんが、可愛い。

 じゃなくて、どうやらないみたい。コレは、ボクだけの異世界転移特典機能ということで、いいのだろうか。


「ボクは、アイテムを、見えない鞄みたいな物に、しまっておけるんだ」

「凄い!さすが、お姉さま!他には、何かあるんですか!?」

「こ、コレだけ……」

「そ、ソウデスカー」


 あからさまに、ユウリちゃんはガッカリしてしまった。


「でもその石、凄くキレイですね。もしかしたら、高く売れるんじゃないですか?」


 確かに、黒い石に、所々銀色の、光り輝いている場所がある。それは、キラキラと輝きを放っていて、まるで宝石みたい。


「ちょっと、よく見せてもらってもいいですか?」


 そう言って、ユウリちゃんが手を差し出してくるので、その手の上に鉱石を置いてあげた。

 するとその瞬間、ユウリちゃんは自分の手を下敷きにして、鉱石を落としてしまう。なんか、凄い音がしたけど、大丈夫かな。というか、何をしているんだろう。


「お、お姉さま……石、石どかして……!」

「う、うん」


 言われたとおり、鉱石をどかしてあげると、ユウリちゃんの手は真っ赤に腫れていた。


「それ!おかしいです!重すぎます!」


 そうかな?大きさは、ボクの手に収まるくらいだし、この通り、そんなに重くは感じない。ボクは片手で空中に飛ばし、落ちてきたそれをキャッチ。


「……お姉さまって、実を言うと、凄く強いですよね」

「そ、そうかなぁ?」


 ユウリちゃんに褒められて、嬉しい。ボクは顔を赤くして、照れる。


「いらない物なら、お店が開いたら売りに行ってみましょう」

「う、うん。いらないよ。でもボク、人と話すの苦手だから……」

「交渉は、私にお任せください。でも、ちょーっと、運ぶのが無理そうなので、お姉さまの力を借りないと、どうにもならなそうです」

「そ、それは任せて。ボクも、一緒に行くよ。がんばる、ね」


 ボクは、胸の前で拳を作り、そう宣言。




 人で、通りが賑わってきた時間。ボクはユウリちゃんを盾に、身を隠すようにして、一件のお店の前にいる。このお店は、大きなお屋敷に、シャッターつきの窓口がいくつも備えられた、商会だ。

 ボク達は、朝一でこのお店にやってきた。だと言うのに、そこには既に人が並んでいて、ボクらは5番目という順番。しかも、後ろには後から後から人が並んで行列ができていき、辺りは大混雑。人がいっぱい。


「うぷっ」

「頑張ってください、ネモお姉さま。あと、少しですっ」


 お店が開いてから、30分程が経過する。ようやく次がボク達の番と言うところで、気分が悪くなってきた。ただ、人がいるだけなら、まだいい。ボクの容姿は、男の人の注目を集めてしまうから、見られるプレッシャーで余計に気持ち悪くなる。というのも、ボクは凄くカワイイ。男の人は例外なく、イヤらしい目でボクを見てきて、嘗め回すような視線を感じる。それが、たまらなく気持ち悪い。


「ああ!?冗談じゃねぇぞ、何でコレがたったの10000Gなんだよ!」


 突然、ボクの前の人が、大きな声を出して窓口を叩いた。大きな音に驚いて、ボクは更に気持ち悪くなって、吐き気がこみ上げてくる。


「さ、先ほども言った通り、こちらの商品はウルティマイト鉱石ではなく、ヘルマ鉱石です。なので、10000Gとなります」

「ふざっけんじゃねぇ!」

「ひっ!」


 また、男の人が乱暴に窓口を叩いて、大きな音。窓口の女の人は、驚いて萎縮してしまう。


「おい!後がつかえてんだ、早くしてくれ!」

「そうだ!」

「失せろ、クソガキ!10000G持って早くお家にかえんな!」


 ボク達の後ろに並ぶ人たちから、猛バッシング。

 そうだそうだ。もっと言ってやれ。


「ああ!?てめぇら、オレがギルド、ヘイベスト旅団の一員だと分かってて、喧嘩売ってんのかぁ!?」


 そう言いながら、ボク達の前に並ぶお兄さんは、白い蛇を象った、ペンダントを掲げる。それを見た人達からは、どよめきが生まれる。そして、お兄さんに対する暴言はなくなり、静まり返った。

 ボクは、ユウリちゃんの影から、こっそりお兄さんのステータス画面を開いてみる。


 名前:ジーク

 Lv :16

 職業:冒険者

 種族:人間


 いつもの、基本的なステータス画面。レベルは、16かぁ。強いのか分かんないや。いや、ぎゅーちゃんが79と考えると、全然大した事ない。

 早く用を済ませて、この場から立ち去りたい。受付のお姉さんも困っているし、ここはボクが、一肌脱ごう。


「あの!皆こまっているので──おえぇぇぇ!」

「ああ!?まだ文句あるヤツが──ぎゃああぁぁ!」


 ボクは、お兄さんに声を掛けた瞬間に、吐き出してしまった。ゲロが、お兄さんを直撃。

 てへ。やっちゃった。


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