死の宣告を受けました
聖女様が、ボクに向かって掌を向けてくる。その掌に集中しているのは、強大な魔力。ボクに、攻撃を仕掛けるつもりだ。
それに呼応して、家の中にいた数名の騎士も、ボクに向かって剣を抜き、斬りかかろうとしてくる。
でも、尋常ではない気配に、彼らの行動はすぐに止まる事になる。
「ラル……!?」
壊れた扉の外へと目を向けると、そこには正面の家にぶつかって倒れた、おじさん騎士がいる。そのおじさん騎士が、立ち上がっていた。
立ち上がったおじさん騎士は、明らかに普通の様子ではない。体中から、黒いもやもやがあふれ出し、何本もの骨が折れているぐにゃぐにゃの身体で立ち上がる様子は、まるでゾンビのようだ。何よりも、その気配が気持ち悪い。悪意に満ちた、とても陰湿で、鳥肌がたつような、異質な物だ。
「ら、ラル殿……?」
そんなおじさん騎士の様子に、外で待機していた他の騎士の人たちも、異変に気付き、彼から遠ざかる。
「あ、あ゛ー……何故、わがっだ」
そう発したおじさん騎士の声は、先ほどまでとは変わっている。今の声は、しゃがれたおじいさんのような声だ。
「……なんとなく」
気持ちが悪いので、できれば話したくはない。でも、ゾンビとなったおじさん騎士がボクにそう聞いてきたので、ボクは引きつった顔でそう答えた。
「ふざげだ、おんな゛だ……」
「ラル……!コレは一体、どういう事ですか!」
「みだ、ままだ。女神よりも、オデを信じるとは、バガな女だ。じがじ、聖女をごろず前に正体がばれだのは、そうでい外だ。もうずごし、情報を集めたがっだが、しがたない。第一もぐひょうで、済まぜよう」
骨が砕けたことにより、不自由な身体でも、おじさん騎士は剣を抜いた。その動きは、いちいちぐにゃぐにゃがくがくとして、本当に気持ちが悪いです。
ただ、その動きは早かった。聖女様に向かい、剣を構えて家の中へと突っ込んでくる、おじさん騎士。そういえば、レベルは65とかを示していたっけ。それなりの高レベルだ。
そんなおじさん騎士の動きを察知した騎士は、一斉に剣を抜き、そんなおじさん騎士に躊躇なく斬りかかった。
「ぐぐ……」
「ラル殿……!御免!」
誰も、一切戸惑わない。おじさん騎士は、他の騎士によって串刺しにされ、その身体から黒い血を噴き出した。
その、黒い血を浴びた騎士に、異変がおきた。騎士の、血に触れた場所が、腐っていく。鎧や、服や、肌が……。
「あ、ああああぁぁぁ!」
「ぎゃああぁぁ!腕が、腕がああぁぁ!」
「く、腐って……!?」
「ごの身体には、だんまりど、どぐが詰まっでいる。あびだら、死ぬ。ほれ、死ね。もっど、血をあびで、死ね!ひひひひひひひ!」
串刺しになりながら、不気味に笑うおじさん騎士。慌てて引き下がる騎士達だけど、もう既に何人かは命を落としている。
そんな騎士達だけど、鎧や、腕に血を浴びた人はまだいい。お腹や、胸に浴びた人も、命は助からなかったけど、まだいい。頭にくらった人は、凄惨だ。ボクは、思わずユウリちゃんの目を覆って、見えないようにしました。
「皆さん、下がってください!ライトエルダーン!」
そんなおじさん騎士に向かい、聖女様が魔法を発動させた。指輪を触媒にしているらしく、聖女様の中指につけられた、大きな透明の宝石が、光り輝く。すると、聖女様の目の前に、金色に光り輝く紋章が現れた。更に、同じ紋章が、おじさん騎士の背後にも現れる。これから何が起こるのかしっているのか、騎士達は一斉に、その2つの紋章の間から退避。直後に、2つの紋章の間を、眩い光が通り抜けた。その光は、一瞬だった。すぐに消え去り、紋章も一緒に姿を消す。
あっけなく終わったかと思ったけど、そうでもない。その光を浴びる直前に、おじさん騎士は、聖女様に向かって魔法を放っている。その魔法により、空中に現れた黒い渦の中から現れた、黒い手。手は、聖女様の背後から、その心臓目掛けて伸びていく。
ボクは、その手から聖女様を庇うように、ガードした。黒い手は、ガードしたボクの腕を掴み取ってくる。腕が触れた場所が、燃えるように熱い。ボクの腕を、黒いシミが覆い、蝕んでいく。
「ネモ!死の呪いの魔法です!早く振りほどきなさい!」
「わ、分かってるけど……!」
振りほどく事が、できない。力自体は大した事はないのに。というか、掴まれているという感覚が、ないのだ。掴まれていないのに、掴まれている物を振りほどくのって、どうしたらいいんだろう。
「ホーリーエクスト!」
聖女様が、再び魔法を放った。指輪から放たれた光が、黒い腕と、渦を飲み込み、浄化していく。やがて、腕は姿を消し、渦も消えた。
「ひひひひひひひひ!」
先程の、しゃがれたおじいさんのような声で、笑い声が響いた。声の出所は、光に飲み込まれ、灰になったおじさん騎士からだ。
その声は、先ほどまでのおじさん騎士から発せられていた、喋り難そうな話し方ではない。流ちょうに、普通に喋りだす。
「貴様が食らったのは、デスリーディメルス。魂と肉体を飲み込む、最上級の死の呪い。コレを食らった者は、苦しみ、のたうちまわりながら、やがて死ぬ。その姿に、聖女としての尊厳も、人としての尊厳すらもない。そういう死に方をするのだ。そして、貴様が死に、結界がなくなった時、我等はその町を滅ぼしに伺う。申し遅れたが、我が名は、ズーカウ。それまで生きていられたら、次は、本体で出会おう。その時は、たっぷりと可愛がってやる。ひひひひひひ!」
声は、そこで消えた。灰は、風によって飛ばされて、どこかへと消えていく。
なんか、見えてないみたいだから言っとくけど、今の技を食らったのは、ボクです。聖女様は、無傷です。
「お姉さま、大丈夫ですか!?」
「あ、触らないでね」
黒い腕を受け止めたボクの右腕は、そこを中心にして、黒いシミが少しずつ侵食してきている。
そんな腕に触ってこようとするユウリちゃんを、ボクは咄嗟に止めた。たぶんだけど、危ないと思う。
「見せてください……」
聖女様が、差し出したボクの腕を見て、戦慄の表情を浮かべる。聖女様の掌から、肩に移っているぎゅーちゃんも、心配そうにボクに向かって触手を伸ばしてきた。
「コレは、本物のデスリーディメルス……残念ですが、この呪い魔法に対する対処法は、確立されていません……残念ですが、貴女は死にます……」
ボクは、死の宣告を受けました。




