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可愛がってもらえそうです


「先日の竜の撃退に、貴女が大いに活躍してくれたと、ギルドマスターであるメイヤ様から聞き及んでおります。よく、やってくれました。この町の人々を守っていただいた事を、心から感謝申し上げます」


 てっきり怒られるのかと思ったけど、違ったみたい。聖女様は、ボクに向かい、深く頭を下げ、柔らかな声でお礼を言って来た。


「い、いえ……あの、皆のおかげ……です」

「それで、この町にモンスターを招き入れたのは、どういう了見なのでしょうか」

「それは、ぎゅーちゃんが一人じゃ寂しいだろうし、凄く助けてもらったから、放っておけなかったんです」

「あ」

「ちょっと……」


 ユウリちゃんと、イリスが声を上げて、ボクの方を見てきた。


「……あ」


 遅れて、今自分が何を言ったのかを思い出し、冷や汗がどっとあふれ出してきた。


「いくら、町を竜の手から守った英雄とは言えど、貴女は禁忌を犯したのです。タダで済むとは、思ってございませんね?」

「あの、今のはお姉さまの、軽いジョークです。ね、お姉さま」


 ユウリちゃんに振られて、ボクは大袈裟に首を縦に振り、応えた。


「嘘は、通用しません。私の目には、聖女の加護により、この町を襲う魔物達を見通す力があります。貴女の行いは、一部始終見させていただきました」

「ぐ……!」

「今すぐ、魔物をこの場へ。でなければ、全員この場で死刑に処します」

「し……!?」

「私も!?」

「騎士よ!」


 おじさん騎士の呼びかけに、家の中に大勢の騎士が入って来た。彼らは、ボク達が家から出られなくなるように、全ての出入り口に立ち塞がって通せんぼ。でも、家があまりにも狭くて、凄く窮屈そうだ。多分、剣を抜いたとしても、まともに戦えないんじゃないかな。

 それでも、次々に家に入ってくる騎士達。家の中が騎士だらけになって、色々な物が潰れたり、壊れたりする。

 というか、聖女様が騎士達に挟まれて、押しつぶされてるよ。なんで、もっとよく考えないの。

 ボクは、ユウリちゃんとイリスを庇い、騎士達がそれ以上近づかないように押し返しているけど、これ以上来られると、家が壊れかねないです。


「で、出ろ!全員出ろぉ!」


 そこまで来て、ようやくおじさん騎士がそう指示をした。

 やや時が経ち、家の中には数名の騎士を残し、他は外で待っている。でも、家の中は一部滅茶苦茶になってしまい、イスや机が壊れたり、食器が割れたりしている。

 あと、潰された聖女様が、青くなった顔でそこにいる。


「だ、大丈夫ですか?お茶でも、いれますか?」


 そんな聖女様に、ユウリちゃんが優しく声をかけた。


「あ、ありがとうございます。おかまいなく」

「聖女様ぁ!お怪我はありませんか!?あの者達は、私が後で、きつく叱っておきます!」

「いいのですよ、ラル。騎士達は、職務を全うしようとしただけです。それより、魔物の件ですが、もし逆らえば、先程の騎士達が、貴方達に攻撃を仕掛けます。私が引き連れてきた騎士は、アレだけではございません。もし一斉に家に入ってきたら、皆潰れてしまうでしょう」


 どうして、自分も潰れる事になってるの?いやでも、確かにさっき以上の騎士達が入ってきたら、家が壊れてしまう。それはイヤだ。


「ぎゅう!」

「ぎゅーちゃん!?」


 上に隠れていたはずのぎゅーちゃんが、ボク達のいるリビングに、入って来た。小さなぎゅーちゃんはするすると床を駆け抜けて、ボクの肩にダイブ。見事に着地した。

 そんなぎゅーちゃんの姿を見て、騎士達が一斉に剣を抜き、敵対心を露にする。


「バカな……モルモルガーダーだと!?」


 ぎゅーちゃんを見たおじさん騎士が、声を荒げた。他の騎士たちも、ぎゅーちゃんを知っているのか、どよめきが広がる。


「姿を現しましたね、魔物……なんと、おぞましい姿を……それが、どれだけ危険な生き物か、わかっているのですか!」

「ぎゅー……」


 ぎゅーちゃんは、凄く悲しそう。触手をうなだらせ、声にも元気がない。ここに連れて来る時、こうなってしまうんじゃないかと、思ってはいた。でも、ぎゅーちゃんにどうにかすると約束した手前、引き下がる訳にはいかない。


「ぎゅーちゃんは、凄く良い子です!悪い子じゃありません!」

「黙りなさい!とにかく、その子をこちらへ!話はそれからです!」


 聖女様が、ボクに向かって手を伸ばしてくる。周りの騎士達は、今にもボク達に襲い掛かって来そう。全員倒す事は、容易だろうと思う。でも、そうなった場合、この家はおろか、町を出て行く事になってしまうだろう。

 ……仕方ないよね。ボクは、覚悟を決めた目でユウリちゃんを見ると、ユウリちゃんも頷いて応えてくれた。

 ボクは、全てを投げうる覚悟で、聖女様を睨みつける。


「ぎゅ……」


 その時、ぎゅーちゃんが予想外の行動に出た。

 ぎゅーちゃんが、差し出された聖女様の手の上に、自ら飛び乗ったのだ。


「ぎゅーちゃん!」


 ぎゅーちゃんは、叫ぶボクに向けて、来るなと触手で合図をしてきた。

 自らを犠牲にして、ボク達を助けるつもりだ。


「危険です、ラクランシュ様!今すぐ、それをこちらへ!」

「……大丈夫です。離れなさい、ラル!」

「は、は……」


 ぎゅーちゃんに斬りかかろうと、剣を抜いたおじさん騎士だけど、聖女様に怒鳴られて、引き下がった。


「あ、あぁ……なんて、可愛らしい……じゃなかった。なんて、おぞましいお姿を……。コレは、危険です。危険ですので、私が責任をもって、お家に持って帰り、可愛がります。じゃなくて、封印します。ちなみに、この子は何を食べるのございますか?やはり、お肉?屍?それとも、魔力を栄養としているのでございますか?」


 ぎゅーちゃんを掌に乗せた聖女様なんだけど、なんだか様子がおかしい。凄くデレデレとして、ぎゅーちゃんを嬉しそうに突いたり、頬ずりしながら、遊んでいる。

 その様子は、さながら子猫を拾った子供のようだ。


「ラクランシュ様!魔物と戯れるなど、いけません!私が責任を持って処分致しますので、それをこちらへ!」

「絶対にダメです!何を考えているのですか、貴方はおバカさんでございますか!」

「お、おば……!?」

「ぎゅーちゃんは、私のお家に、来るのです。一緒に寝て、お散歩に出かけたり、遊んだり。楽しみです。ふふ」

「ぎゅー……」


 てっきり、ぎゅーちゃんは殺されちゃうのかと思ったけど、聖女様に預けておけば、安心な気がしてきました。可愛がってもらえそうです。


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