ボクは何も知りません
扉をあけ、そこにいたのは、ピカピカに光る、銀色の鎧を身に纏った、イカつい男の人だった。目つきは鋭く、オールバックにした髪は、後ろで結んでポニーテールにしている。年は……40歳くらい?おじさんだ。
「ようやく開けたか……」
「何か用ですか?」
そんなおじさん騎士に対し、臆する事無くユウリちゃんが尋ねた。ユウリちゃんが苦手なタイプの、Gランクマスターのような、デカくてむさくるしい男の人ではないので、ユウリちゃんは堂々としている。むしろ、面倒臭そうな感じで応対した。
「小娘が……三人。おい、他にこの家に、住んでいる者はいないか!」
失礼にも、そのおじさん騎士は、ずかずかと家の中に入ってきて、家を見渡してそう聞いてきた。その際に、ユウリちゃんとぶつかり、ユウリちゃんを飛ばしたのが、ボクは頭に来た。
そんなおじさん騎士の正面に立ち、ボクは睨みつける。その際に、ついでにステータスを覗いてみる。
名前:ズーカウ
Lv :65
職業:聖騎士
種族:魔族
魔族?この世界に来て、初めて見る種族だ。
ゲームにおいて、魔族っていうのは、魔王の部下だったり、悪い事をする人たちみたいなイメージがあるけど、現実は違う。普通に暮らしている人も大勢いて、勿論中には争いを好む人もいるけど、それは人と同じ。だから、ボクは相手が魔族だからと言って、それだけで敵視したりはしない。
でも、このモンスタフラッシュのゲームの中において、魔族っていうのは悪役だ。主人公も魔族だし、人々を支配して、捕らえた女の人にえっちな事をするという、とんでもない役です。ゲームの中には、平和的な魔族なんて出てこないし、警戒するに越したことはない。
「何だ、貴様。そこをどけ!中を調べさせてもらう!」
ボクを突き飛ばしてこようとしたおじさん騎士だけど、そんな弱い張り手じゃボクは突き飛ばせない。
逆に、おじさんの方が返されて、一歩退いた。
「な、何……?」
「あ、謝ってください。ユウリちゃんを、突き飛ばしたことを……!」
ボクは、精一杯に、訴えた。途中で恥ずかしくなって目を伏せちゃったけど、フードはない。よく考えたら、顔を隠さない状態で、久々に知らない人と喋った。そんな久々の相手が、おじさん騎士とか、ハードルが高いです。もっと、段階を踏むべきでした。
「聖騎士の権限により、この家を調べさせてもらう。その邪魔をするというのなら、容赦はせんぞ」
そう言って、ボクに向かって手を伸ばしてくる、おじさん騎士。ボクは、その腕を鎧の上から掴み、圧力をかけて動きを止めさせる。
「……!」
押しても、引いても、その腕は動かない。驚いた表情を見せるおじさん騎士だけど、そんなボクの手に、ユウリちゃんがそっと手を置いて、力を緩ませた。
すると、おじさん騎士はすぐに手をボクから引き離した。
「家の中を調べるのは、構いません。でも、何のご用かだけは、ハッキリさせてください。できないのなら、お帰り願います」
「安全を調べるだけだ」
「何が、安全ですか。こんな、か弱い女の子が三人だけの家に、大の大人がずかずかと入ってきて、突き飛ばし、家を調べる?やってる事が、強盗と変わらないじゃないですか」
ボクの後ろに立つイリスが、ボク越しにそう言った。言うなら、もっと堂々と言ってほしいんだけどなぁ。でも、イリスのいう事は正しい。ボクも、それが言いたかったのだ。
「黙れ、小娘!エルフ風情が、偉そうな口をきくな!」
「んなっ!よし、ネモ。殺しましょう、この男」
「よしなさい」
怒りに感情を染めるイリスと、怒鳴るおじさん騎士を咎めるように、勇ましい女の人の声が、響いた。
声の主は、開けっ放しだった扉から入って来た、女の人。白色の、修道着のような服装を身に纏った、キレイな女の人だった。服には金色の刺繍が所々に施されていて、豪華で、凄く高そうです。頭はフードにかくれていて見えないけど、その顔立ちは凄く整っている。ただ、その目は閉じられたままで、開けようともしない。どうやって見ているのだろう。
「失礼しました。私の騎士が、ご無礼を働き、大変申し訳ございません」
「は……ですが、この者達が、非協力的でして……」
おじさん騎士は、その女の人に、たじたじだ。頭を下げたまま、決して女の人を見ようとしないし、ボク達に対する先ほどまでの態度が、嘘のよう。
そんな様子を見れば、誰でもこの女の人が、偉い人なんだなという事は分かる。
ユウリちゃんは、そんな女の人を見て、ニヤけている。たぶん、女の人が美人で、スタイルの良い人だから、喜んでいるんだと思う。
「それに、先程の差別的な発言も、見過ごす訳にはいきません。貴方は態度に気をつけなさいと、いつもいっているはずでございます」
「……申し訳ありません」
「あの、貴女は?」
「この方を知らないのか!?」
何気なく尋ねたユウリちゃんに、おじさん騎士がもう凄い勢いでユウリちゃんを睨みつけて言った。殴りかかるような勢いだったので、ボクは思わずユウリちゃんとおじさん騎士の間に立ち、その行く手を阻む。
「申し遅れました。私は、ラクランシュ・セフィールドと申します。この町の、聖女と呼ばれる存在でございます。どうぞ、以後お見知りおきを」
聖女……聖女!?ということは、この町の結界を作ってる、凄い人!?どうして、そんな人がここに!?
と思ったりするけど、思い当たる節があるので、冷や汗があふれ出してきた。
ボクは、何日か前に、ぎゅーちゃんをこの町にいれるため、ぎゅーちゃんを手で包んで結界から守り、結界を越えさせた。その際に、気づかれたみたいで、町中にモンスター進入の鐘がならされて、ちょっとしたパニックを巻き起こしてしまったのだ。
「ぼぼ、ぼぼぼ、ボクは、知りません。何も、知りません。ぎゅーちゃんはいませんし、そもそもそれが何なのかも知りませんから!」
「ぎゅーちゃん……?」
「お姉さま、落ち着いてください。深呼吸です」
「貴方はちょっと、黙ってなさい!」
どうやらボクは、余計な事を言ってしまったようだ。イリスが慌ててボクに駆け寄ってきて、ボクの口を押さえつけてきた。
「っ……!?」
そんなイリスを見て、聖女様が突然、膝から崩れ落ち、大きな音を立てた。
「聖女様!?」
おじさん騎士が、慌てて聖女様に駆け寄り、手を貸すも、聖女様はそんなの意に介さない。じっと、その閉じられたままの目でイリスを見つめ、口を軽く開いて驚愕の表情を見せている。
もしかして、イリスに一目ぼれでもした、とか……?だとすると、メイヤさんと同じですね。




