ただいま
交易都市、ディンガラン。その北区の、外れの通りに位置する、ごく普通のお家が、ボク達のお家です。最初はボロボロだった家だけど、今は掃除され、凄くキレイに見違えっています。
このお家に住んでいるのは、ボクと、ユウリちゃんと、イリスに、レンさんに、ネルさんと、メルテさん。6人も住んでいます。
レンさん達は、ボクの家で預かることになった。ただ、キャロットファミリーの庇護下に置かれているのは変わらないので、本当にただ、ボクの家に泊まっているだけ。
「ただいまー」
「おかえり、ネモ、イリス。早かったわね」
買い物帰りのボクを出迎えてくれたのは、ネルさんだ。ネルさんは、その大きな胸を寄せ、ボクに向かってアピールするように、揺らして出迎えてくれた。見ちゃいけないとは思うんだけど、どうしても見てしまう。女の子になってしまった今でも、その魅力には逆らえません。
「どこ見てるんですか、ネモ。貴方は、そんな身体になった今でもムッツリですね。当時の私の胸も凝視してましたし」
一緒に買い物に出かけていたイリスに、そう指摘されてしまった。確かに、ボクはイリスティリア様の胸も、凝視していた。だって、凄く魅力的だったんだもの。
「ゆ、ユウリちゃんと、レンさんは?」
ボクは、誤魔化すように、そう尋ねた。
いつもなら、真っ先にボクを出迎えてくれるはずの2人がいないのは、とても不自然だ。
「買い物中」
「だ、大丈夫かな?いつ、出て行ったの?迎えにいったほうが、いいかな?」
「落ち着きなさいって。モルモルガーダーもついてるから、平気よ。あと、前から言ってるけど、過保護になりすぎるのは、よしなさい。あんまりしつこいと、嫌われるわよ」
ボクは、ネルさんに言われて肩を落とし、沈んだ。
ユウリちゃんに、嫌われる……そう考えると、ショックを受けずにはいられない。でも、心配なのは、心配だ。ボクから離れたユウリちゃんが、酷い目に合っている事を想像したら、いてもたってもいられない。どうすればいいですか。
「あー、だから、落ち着きなさいって」
混乱するボクを、ネルさんが抱きしめて、落ち着かせてくれた。頭を、その大きな胸で包み込んでくるという必殺技に、ボクは一瞬にしてやられた。
「二人は、すぐに帰ってくるから。だから、心配しないの。いい?」
「は、はい……」
「よし。じゃあ、買ってきた食材、棚に移しちゃいましょう」
ボクはネルさんの胸から解放され、その柔らかな余韻を味わいながら、言われたとおり、買ってきた食材を棚につめていく。
「……ネモ。ユウリみたいに、顔が気持ち悪くニヤついてますよ」
「はっ!」
イリスに指摘されて、ボクは慌てて、手で顔をぐるぐると掻き混ぜて、顔をリセット。
ユウリちゃんみたいなニヤつき顔とか、本当に嫌だからね。しっかりと、リセットしとかないとね。
「ただいまー」
そこへ、家の扉を開く音と、女の子の声が聞こえてきた。
ボクは、急いで玄関へ駆けつけると、そこにはユウリちゃんと、レンさんの姿があった。ユウリちゃんの手には、紙袋が抱かれていて、ボクはそんなユウリちゃんの肩を掴み、ステータスを見る。HPは、マックスのまま。状態異常も、ない。安全確認完了。ボクは、胸を撫で下ろした。
「おかえり、ユウリちゃん。何もなかった?」
「はい。ぎゅーちゃんもついてくれているので、大丈夫ですよ」
「ぎゅう」
ユウリちゃんの懐から出てきたぎゅーちゃんが、飛び出して机の上に飛び乗った。
確かに、ぎゅーちゃんはボディガードとして最適だ。強いし、小さいし、目立たない。力を行使したら、たぶんすぐにボクが気づくので、駆けつける事も可能。でも、心配なのは心配で、それは変わらない。
「ありがとう、ぎゅーちゃん」
「ぎゅー」
「ネモ様、私の心配は……?」
そんなボクの様子を、レンさんが捨てられた猫のような目で、涙ぐんでみていた。
「わ……ご、ごめんなさい、レンファエルさん。おかえりなさい。大丈夫でしたか?」
「むぅ!ネモ様!私の事は、レンとお呼びくださいと、言っているはずですよ!」
「そうでした……」
一緒に暮らすにあたって、レンファエルさんとネルエルさんは、それぞれ略称で呼ぶことになった。レンさんと、ネルさん。2人は、親しい人にはそう呼ばれているみたいで、ボク達にも是非、そう呼んで欲しいと言ってくれた。
でも、まだ馴れてなくて、たまに出ちゃうんだよね。
「そんな事より、ネモお姉さまに、お土産を買ってきたんです!」
「そんな事!?」
「じゃーん!お姉さまの、お洋服ー!」
突っかかったレンさんなんて、全く気にもせずに、ユウリちゃんが手に持った紙袋から、服を取り出した。それは、女の子用の服だった。
確かにボクは、服が欲しいとは思っていた。家にあった他の服で誤魔化していたけど、服のサイズが合わなくてブカブカで、ズボンは色気を全く感じさせないと、ユウリちゃんとレンさんからは不評の嵐だった。
「レンさんと、選んで買ったんですよ。着てみてください!」
「私、全身全霊を篭めて、選ばせていただきました。是非、ご着用を!」
2人の気持ちは、素直に嬉しい。でも、ユウリちゃんが見せてきた服は、どう考えても、服と呼べるような代物ではない。だって、胸も脚もお尻も、全部隠し切れていない革の服なんだもん。悪いけど、着たくないです。
変態2人が選ぶ服って、どうしてもそうなっちゃうんだなと、思いました。
「どうしたんですか、お姉さま。早く着替えましょう?」
「……いや、いいです」
「一体何が……あ、ああ!違いました!コレは、ご褒美に着てもらう用でした。本題は、こっちです」
「なんだ、そうだったのか。ん?ご褒美……?」
「さぁ、ネモ様。お着替えしましょう。大丈夫。こっちは、普通のお洋服ですから」
「さぁさぁ」
ボクは、強引に背中を押してくるレンさんと、腕を引っ張ってくるユウリちゃんになすすべもなく、連行されていきます。
「あたしゃあねぇ!こうみえても、べてらん冒険者なんれい!ひっく」
聞いてもいない事を言い出したのは、一升瓶片手に、ベロベロに酔っ払っているメルテさん。昼間から飲み続けているメルテさんは、お腹丸出しのだらしのない格好で、リビングの床に寝そべり、顔は真っ赤。実を言うと飲兵衛のメルテさんは、休日は大体こうして飲んで過ごしているみたいで、ネルさんとレンさんにとっては、見慣れた光景らしい。
そんなメルテさんを尻目に、ボクは家の奥へと連れて行かれました。




