ぎゅっぷ
料理に早速手をつけのは、イリスだ。お皿にお肉だけ、盛りに盛って、イスに座って食べている。その量は、イリスの体格に見合わない、凄い量だ。イリスは、決して凄く食べる方ではない。普通よりは食べる方だとは思うけど、あんな量を食べきれる訳がない。
絶対に、残すな、アレ……。
「ネモ様。こちらのお肉、凄く美味しいですよ。一口、どうですか?」
「やめなさい。バイキングなんだから、食べたければ自分で取ります。余計な事をして、お姉さまのお手を煩わせないでください」
「貴女には、言っていません。ネモ様に、言ったんです」
「お姉さまの心を、代弁したまでです」
「まぁ、お食事中に大便だなんて、はしたない。せっかくのお食事が、台無しです」
「大便じゃない!代弁ですよ、代弁!」
ボクは、火花を散らす、レンファエルさんと、ユウリちゃんに挟まれています。
「食事中くらい、争いはやめなさい!」
そんな2人を咎めてくれたのは、ネルエルさんだった。
ネルエルさんは、2人の頭に拳を繰り出し、2人をボクから引き離し、別の場所へと運んでいった。てっきり、いつもみたいに喜んで鼻血を出して鑑賞でもしてくるのかと思ったけど、そうはならなかった。
そんな2人が立ち去って、ボクの隣にはメルテさんが座ってきた。メルテさんのお皿には、イリスを遥かに超える量のお肉が盛られていて、それを食べるつもりらしい。
「がはは!ネルは、食事には五月蝿いからね!」
「そ、それ、全部食べるんですか……?」
「勿論。久々のご馳走だから、張り切って食べるよ」
そう言って、次々と食事を口の中へと放り込んでいくメルテさん。この分なら、本当に食べ切れてしまうんじゃないかと思う。
ボクはというと、普通の量だからね。お皿には、本当に一人分のご飯の、お肉や野菜やらが、バランスよく盛られている。
そんなお肉を切り、それを口の中へと運び、よく噛んで食べる。柔らかく、ソースのかかったお肉は、最高だ。一回噛むごとに、甘い肉汁が飛び出し、ソースと混ざり合って化学反応をおこしている。
ボクがお肉を一切れ飲み込むまでの間に、隣に座るメルテさんは、お肉を1枚食べ終わっている。もっと味わって食べないと、もったいないよ。でも、食べ方は人それぞれだし、イリスも同じような物なので余計な事は言わない。
「どうだ、ネモ。美味いか?」
そこへ、このバイキングを開いてくれたメイヤさんが、骨付き肉を豪快に頬張りながら、ボクの正面のイスに座った。
「は、はい。とても、美味しいです……ありがとうございます」
「そうか。それはよかった。この料理は、下の食堂の職人が、腕によりをかけて作った料理だ。その感想を聞けば、彼らも喜ぶだろう」
「さすがは、天下のキャロットファミリーのギルドマスター様だ。こんな美味い料理、レンの家でも出されたことないよ」
そう褒め称えるメルテさんの手は、止まらない。ついさっきまであったお肉の山は、もう半分程減っている。そんな光景を見ていると、なんだか食欲がなくなってくるので、なるべく見ないようにしよう。
「ああ、それにしても、イリスは可愛いなぁ……」
ボク達とは離れた所で、1人で食事をしているイリスに、メイヤさんは愛おしげな視線を送った。ボクもそちらを見ると、イリスはやっぱり、ほとんどの食事を残し、顔を青くして、それでも一生懸命に口の中にお肉を詰め込んでいた。
「う、うぷっ!」
今にも吐きそうで、ボクは慌てて席を立ち上がり、未だにお肉を口の中に詰め込む手を止めさせた。
「もうよしなよ、これ以上食べたら、絶対に吐くよ!」
「と、とめないで下さい……このお肉は、私の物……美味しいお肉は、私の物……次食べられるのはいつになるのか分からないんだから、もっと、もっと、食べる……」
その執念、ちょっと怖いよ。どんだけお肉が好きなのさ。
「……これからも、たまに食べさせてあげるから、今日はもうよしなよ」
ボクは、呆れてそう言った。今のイリスは、たぶんそう言わなきゃ、お腹が破裂するまでお肉を食べ続けるよ。そんな気がしたから、仕方なく、だ。
「ほ……本当に?」
「本当に」
「うぷ……じゃあ……今は、これでやめておきます……」
いいけど、吐かないでね。ボクは、イリスが残した食べ物を手に、席に戻った。
「食べれるのか?その量を」
「……メルテさん」
「まかせな!こんなの、ペロリさ!」
ボクも協力して食べるけど、ボクの手伝いなんていらないくらい、ほとんどメルテさんが食べてしまった。一体その細い身体の、どこに入るんですか。段々と、怖くなってきました。
それでも、料理は残りそう。量が半端なくて、とてもじゃないけど、最初からこの人数で食べれる量ではなかった。
なので、残りはぎゅーちゃんが美味しくいただきました。
「ぎゅっぷ!」
ぎゅーちゃんは、食べ終わると、げっぷのような物をして、とても満足げだ。でも、ぎゅーちゃんはご飯を、決して自分から食べようとしない。どうやら、ぎゅーちゃんは魔力をごはんにしているらしくて、物理的なご飯はいらないみたい。でも、この通り食べようと思えば食べられる。
「残ると思ったのだが、やるな、モルモルガーダー」
「ぎゅ!」
メイヤさんに褒められて、ぎゅーちゃんはその触手で、親指をたてるような仕草を見せて、返した。
「ところで、食事も終わりそうだが、お前達はこの後、どうする?まだ病み上がりだし、ギルドに泊まっていても構わないが」
「……いえ。ユウリちゃんとも話したんですけど、お家に帰ります。これ以上留守にするのも、心配なので」
「そうか。まぁ、それがいいかもしれないな」
「ええ!?ネモ様、帰ってしまうんですか!?」
ネルエルさんからお説教をくらい、ネルエルさん監視の下で、おとなしく食事をとらされていたレンファエルさんが、叫んだ。
「落ち着きなさい、レン様。仕方ない事でしょう。彼女達だって、自分の家のこととか、事情があるのよ。私達が我侭を言える立場じゃないし、それに、もう会えなくなる訳じゃないでしょう」
「そ、そうですが、ネル……」
「そういう訳です。私はこれから、お姉さまと愛の巣に帰って、愛を育むんです。いいでしょう?羨ましいでしょう?」
「ぐぐ……」
嫌味っぽく言うユウリちゃんに、レンファエルさんはとても悔しげに、歯を食いしばっている。今にも襲い掛かりそうで、冷や冷やします。
「もしよかったら、レンファエルさん達も、家に泊まりますか?あんまり広くはないですけど……」
「……」
ボクの何気ない提案に、その場にいた全員の視線が、ボクに集まった。
え、何?恥ずかしいんだけど。あんまり、見ないで欲しいんだけど。ボクは、頭を抱えて隠し、その視線から逃れようと抵抗しました。




