メイドさん
「と、いう訳で、特に変わった様子はないね。警備も、雰囲気も、全部いつも通りだよ」
「自分の目で見てみた感想は、どうだ?」
「胸糞悪いね。レンが行方不明だっていうのに、いつも通りとか、どうかしてる。まぁ、そうさせた本人なんだから、当然なんだろうけどね」
いつもの、メイヤさんの、ちょっと散らかった書斎で、2人はそんな会話を繰り広げていた。
どうやらメルテさんは、お屋敷の様子を見に行っていたみたい。危険な行為だと思うけど、どうしてもその目で確かめたかったらしい。
「そうだな。あの子煩悩のヘンケル氏が、何も取り乱しもせずに、普通に過ごしている。異常事態だよ」
「一体、何を考えてるんだかね」
「そちらには、見張りを立てている。何か動きがあれば、報せが入るはずだ」
「……すまないね。世話ばかりかけて」
「気にするな。これは、ギルドとしても、利益のある事だ。何せ、ヘンケル一族の跡継ぎに、大きな貸しを作っているのだからな。それなりの礼は、期待している」
「分かってるよ。レンは、恩には報いるタイプだからね。絶対に、損はさせないはずさ」
これ、ボクとユウリちゃんがいる必要あるのかな。二人の会話に口を挟む余地はないし、ボケっと突っ立って話を聞いているだけだ。眠くなってきちゃったよ。
そんな時、部屋がノックされて、お盆を手に、メイドさんが入って来た。そのメイドさんは、金髪のツインテールをなびかせ、優雅な足取りでメイヤさんの横に立ち、お茶を置く。
「……」
「きゃ」
そんなメイドさんのお尻を、メイヤさんが触った。小さく悲鳴をあげるメイドさんだけど、逃げたりはしない。恥ずかしそうに、顔を赤く染めて、お盆で顔を隠し、ただでさえ小さな身体を、更に縮めて恥辱に耐えている。
「い、いけません、ご主人様……お客人が、見ています」
「良いではないか。見せ付けてやれ。イヤらしい、お前の本当の姿を……」
「いけません……こんな、こんな……!」
なんだ、これ。ボクは一体、何を見せられているのだろうか。
メイドさん……正体は、イリスなんだけど、従順な様子でメルテさんに仕えるその姿は、様になっている。メイヤさんが、羨ましく感じるくらい。
でも、何でそんな事に?
「何だかよく分かりませんが、凄く美しい姿です。私も、お姉さまのお尻を触ってもいいですか」
「ダメです」
「では、お胸で」
「ダメです」
ボクは、即答した。
「ね、ねぇ、もういいでしょう?十分尽くしましたよね、私。ですから、約束の品を……」
「まだダメだ。お前には、もっと、存分に私に尽くしてもらう」
「くっ……いいでしょう……耐えてみせますとも……!」
二人の会話を聞いて、なんとなく、話は見えてきた。また、物で釣られたんだね、イリス。
ボクは、その事実に頭を抱えるしかない。どうして、学ばないのさ。ろくな目に合わない事は、目に見えているのに。
「それにしても、このお茶少し濃いな。薄めてもらえないか、イリス」
イリスのお尻を揉みながら、メイヤさんがお茶を啜り、そう言った。渋々と言った様子で、イリスは運んできたばかりのお茶をお盆にのせ、部屋を立ち去ろうとするんだけど、メイヤさんが呼び止める。
「どこへ行く」
「へ?お茶を薄めに……」
「ここでやれ」
「いや、だって、お水がないじゃないですか」
「あるじゃないか。お前の、おし──」
「もういやあああぁぁぁ!」
イリスは、叫びながら、部屋を飛び出していきました。正直、ボクも出て行きたくなりました。
「ふ。冗談だ。可愛い奴め」
いや、メイヤさんは絶対に、本気だった。この人、ヤバイよ。ボクは、過去1番で、メイヤさんに引いています。
「……何かあったの?」
そこへ、部屋を飛び出していったイリスと入れ違いに入って来たのは、ネルエルさんと、レンファエルさんだ。2人共、フードを被って顔を隠しているけど、すぐに分かる。よく考えたら、すぐに分かるのはそれはそれで、ちょっと困るよね。
「ネモ様ー」
レンファエルさんは、ボクの姿を見るとすぐに駆け寄ってきて、ボクの腕にくっついてくる。
「ちっ。何か用ですか、痴女」
「貴女に用事なんてありません。自意識過剰はよしてください。私がここに来たのは、メイヤさんに呼ばれたからです。あと、ネモ様に会いに来ました」
「ああ、確かに、私が呼んだのだ。約束の、飯を奢ろうと思ってな」
そういえば、奢ってくれるって話をしてたっけ。すっかり忘れていた。
メルテさんは、知っててボク達を連れてきたのかな。黙っていたのは、サプライズのつもりだろうか。
「でも、私達は別に、そんな約束してないわよ……?」
ネルエルさんは、恐る恐ると言った様子で、手を挙げて言った。
例の件以来、ネルエルさんはすっかり、メイヤさん恐怖症だ。メイヤさんと会うたびに、その身体を震わせ、身を潜める。
「食事は、大勢の方が楽しい物だ。それに、ネモとユウリの、快気祝いでもある。是非、参加してくれ。別室に、バイキング方式で食事を用意させている。皆で楽しもう」
メイヤさんが、そう言ってくれて案内してくれた部屋には、ところ狭しに料理が並べられていた。お肉や、野菜に、パンに、スープ。とてもじゃないけど、食べきれないような量の、美味しそうなご飯の数々。これが、無料で食べ放題なんだよ。凄い事だよ。
しかも、ここには誰も来ないようにしてくれたみたいで、レンファエルさん達はフードを外せる。それに、ぎゅーちゃんもその姿を出して、自由に動ける。
「では、ネモとユウリの回復を祝って、乾杯」
「「かんぱーい」」
ボク達は、各々好きな飲み物の入ったコップを高く挙げ、乾杯。メルテさんは、お酒を一気に飲み干し、ネルエルさんは同じくお酒だけど、上品に口を付ける。
ボクとユウリちゃんと、レンファエルさんは、オレンジジュースだ。果汁が濃くて、凄く美味しい。
ちなみに、乾杯の時に、いつのまにか参加していたイリスはお酒を飲もうとしたけど、今のイリスはあくまで子供。お酒は取り上げて、ぶどうジュースを飲んでいる。メイド服のままで。
こうして、メイヤさんが用意してくれた、ちょっとしたパーティが始まった。




