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秘密です


 ボクとイリスは、メイヤさんの馬に乗せられて、メイヤさんには馬を引っ張ってもらい、ゆっくりと町へ向かって歩き出している。

 辺りは道が吹き飛び、荒れた大地だ。時間がかかりそうなのは、仕方がない。


「……ネモ?」

「……」


 ボクは、ちょっと疲れて、後ろから抱き包むように座っているイリスの頭に、顔をうずめて体重をかけた。


「はぁ……まぁいいです。少し、眠っていなさい」


 イリスはそう言って、ボクの腕を抱きしめて、落ちないように押さえてくれた。

 お言葉に甘えて、少し眠ろうかな。ボクは、ゆっくりと目を閉じた。


「ネモ様!」


 気づけば、目の前にレンファエルさんの顔がある。その瞳からは、涙が流れていて、その心配そうな顔が、ボクの顔を覗き込んでいた。

 ボクは、布団の上に寝かされていた。それも、1晩泊めてもらった、ギルドの簡素なベッドではなく、もっと大きなキングサイズのベッドにだ。あまりにも大きく、あまりにもふかふかなベッドに、ボクは埋もれるように包み込まれている。

 そんなボクの腕や身体は、包帯だらけだ。腕や、身体や足に、頭にまで包帯が巻かれている。中でも、左腕はギプスで固定されていて、自由がきかない。

 服は、脱ぎやすそうな、白の病人服。誰が着替えさせてくれたのかは分からないけど、ボロボロになり、肌が大きく露出した服装ではなくなっている。


「れ、レンファエルさん……ユウリちゃん!ユウリちゃんは、どうしていますか!?」


 ちょっとだけのつもりが、相当眠ってしまった気がする。ボクは、覗き込んでいたレンファエルさんの肩を掴み、慌ててそう迫った。


「大丈夫。大丈夫ですよ、ネモ様。ギルドに戻って来てから、まだ、2時間程しか時間は経っていません。ユウリさんも、無事です」


 レンファエルさんは、レンファエルさんの肩を掴むボクの手に優しく手を乗せて、諭すようにそう言った。

 ボクは、その言葉に安心して、力が抜ける。

 それから、すぐにアイテムストレージから、竜の血の入った瓶を取り出した。


「い、今、どこから……!?」


 あ、そういえば、アイテムストレージの事は、秘密だった。

 ……まぁ、レンファエルさんになら、知られてもいいか。


「ボクは、色々な物を、なんというか……隠し持つ?というか、持ってるけど、持っていない、みたいな感じで……する事ができるんです……」

「全くよく分かりませんが、好きです。結婚してください」

「ふぇ!?」

「私もよく分からなかったけど、とにかく竜の血は、ちゃんと確保してたようね」


 レンファエルさんの告白に、ボクは顔を赤く染めた。不意の告白は、心臓に悪いです。

 そんなレンファエルさんの頭を軽く叩き、後ろにいたネルエルさんが、ボクが差し出した竜の血を受け取った。


「メルテが裸にして、全身くまなく探したのに、どうりで見つからない訳よ。もしかしたら、取るのを忘れたのかと思ったわ」

「私も探したかったのに……メルテったら、酷いんですよ。私を部屋から追い出して、一人でネモ様の身体を好き放題にしたんです。ずるいです!」

「そうね……ネモの身体を好き放題にするレン様……凄く、イイ」


 ボクは、メルテさんに心の底から感謝した。


「そ、それで、ユウリちゃんは……」

「大丈夫。隣の部屋で、今は眠っているわ。私はこの竜の血を、お医者さんに渡してくる。すぐに戻ってくるから、待ってて」


 ネルエルさんは、そう言い残して、部屋を出て行った。ボクも、ユウリちゃんが心配だ。ベッドから起き上がり、立ち上がろうとするけど、そんなボクを、レンファエルさんが止めた。


「ダメですよ、ネモ様!ちゃんと、寝ていないと。貴女も、全身ボロボロなんです。しっかりと、休んでいてください」

「で、でも……」


 早く、ユウリちゃんの顔を見て、安心したいという気持ちが強い。ユウリちゃん成分が、今のボクには決定的に不足しているのだ。早く補充しないと、死んじゃうよ。怪我なんかより、もっと大切な物なんだ。


「落ち着きなさい。こうなると思って、見張りをつけといて正解でしたね」


 そこへ、部屋にイリスが訪れた。その手にはご飯が乗ったお盆を持っていて、部屋に入ってくるとそれを、ボクの枕もとに置いた。

 お盆の上には、おにぎりや、ウィンナーがのせられていて、とても美味しそう。


「そ、それは……」

「この、変態が作ったご飯です。今朝、食べずに飛び出していったでしょう?」

「あ、あの、もう冷えてしまっていますし、それは私が後で食べるので、ネモ様には、別の物を……」


 正直に言うと、お腹は、減っている。それをみて、お腹がなるくらい。

 レンファエルさんは、今朝、ボクのためにご飯を作ってくれると言ってくれて、ボクはそれを無視して飛び出してしまった。

 ボクのためにご飯を用意してくれるなんて、そんなに嬉しい事ないのに、ボクはなんてバカだったんだろう。


「どうする、ネモ?それでも、無視してユウリの所に行く?」


 イリスは、いじわるそうな笑顔を浮かべ、ボクに聞いてきた。

 行ける訳がないので、ボクはおにぎりに手を伸ばし、それを口に運ぶ。ほんのりとした塩気と、おかずは鮭かな。冷えてても、凄く美味しい。


「医者によると、貴方は体中の骨が、合わせて数十本折れていたようです。しばらくは、絶対安静なので、勝手に動かないようにしてください。ま、すぐに治るでしょうから、それまでの辛抱です」

「そ、そうなの?よく分からないけど……」


 イリスにそう言われるけど、痛みは大したことがないし、骨が折れたこともないので、よく分からない。


「まぁとにかく、おとなしくしていなさい。そうすれば、すぐにユウリに会えます」

「……」


 ボクは、おにぎりを飲み込みながら聞くけど、イリスに明確な返事はしなかった。食べ終わったら、すぐに会いに行こう。そう心に決めているので、おにぎりを口に詰め込み、飲み込むようにして食べる。

 そんなボクの様子を、レンファエルさんが、涎をたらし、緩んだ表情をして見つめていた。


「ネモ様が、私のアレが入ったご飯を……うふふ」


 それを聞いて、思い出す。よく考えたら、なんか凄く不気味な事を言ってたっけ。何か……液体をいれるとかなんとか。


「あ、アレって、何ですか……?」

「秘密です」


 口を止めて尋ねたけど、凄くいい笑顔でそう言われてしまった。

 こうなれば、もうヤケだ。食べちゃってるんだから、気にした所で、今更だよ。

 心の中に、もやもやを感じながら、ボクはレンファエルさんが作ってくれたご飯を、平らげました。


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