女神
声に導かれるように、ボクの身体は突然、動くようになった。
そして、襲い来る剣を寸のところで回避。巻き起こった衝撃に吹き飛ばされながら、竜とは距離を取ることとなる。
ちなみに、今の竜の一撃で、大地が割れた。割れたなんて物じゃない。大地が、吹き飛んだ。あまりの威力に、空の雲は散り、大地と空気が震えている。
『……貴女は、何?』
ボクが、衝撃で飛ばされた先。そこに、先程の声の主が、いた。
そんな彼女に向かって、竜が尋ねる。
「通りすがりの、元女神です」
そこにいた、金髪ロリエルフのイリスが、胸を張ってそう言った。
「……イリス。ここにいたら、危ない。アイツ、凄く強いんだ。ボクじゃ、敵わない」
「ボロボロですね。こんな、ボロボロの貴方を見るのは、初めて貴方を見つけた日以来です。あの時の貴方は、親の言いなりとなり、嫌われ者の親の子供と言う事で、貴方まで嫌われるようになり、村中の子供から苛められていた」
「……うん。そうかも」
ボクは、認めた。あの時のボクは、お父さんとお母さんの、奴隷だった。普通よりちょっと頑丈なボクを、2人は働かせ、自分たちは何もせずに過ごしていた。そんな2人に、文句の1つも言わず、むしろ庇っていたんだから、変な目で見られるのも仕方なかったのかもしれない。
心の底では、分かっていた。でも、認めたくはなった。ボクは、お父さんもお母さんも大好きだったし、だから、自分の心を誤魔化すように、否定した。
そんなボクを、村の人達は迫害した。お父さんとお母さんも、ボクのせいだと言って、ボクを殴った。大して痛くはなかったけど、でもあの時のボクは、ボロボロだったと思う。
「あの時から、今も、何も変わっていませんね、貴方は。ちょっとは成長した所もありますが、まだまだです。……やはり、これからも、私が導く必要があると、判断しました。だから、立ちなさい、勇者。貴方にはこの、元女神のイリスがついているんです。アスラの力を授かった気持ちの悪い格好のオカマになんて、負ける訳がありません」
『言ってくれるわねぇ、お嬢ちゃん。元女神だかなんだか知らないけど、ただのエルフの子供じゃない。アタシ、子供をいたぶる趣味はないんだけど、生意気な事言ってると、楽に死なせてあげないわよぉ?』
「死なせる?バカな事は、言わないでください。貴方はこの、勇者ネモに負けるんです」
イリスはそう言って、両方の掌を上にして、構えた。すると、空中に金色の光が集まって、穴が開き、そこから1本の剣が、ゆったりとした動きで降ってきた。
それは、ボクが勇者の時に使っていた剣。名前はないけど、イリスティリア様がボクに授けてくれた、唯一無二の名剣だ。
鞘は、白のシンプルな物。ただ、コレ自体も凄く頑丈で、簡単には壊れたりはしない。腰にかけるための金具以外は、特に目立つもののない、本当に剣を収めるための物だ。剣自体も、同じような物。イリスから受け取った剣を、ボクが鞘から抜くと、銀色の刀身が露になる。柄も鍔も、特に変わった装飾はない。でも、見る人が見れば、コレがどれだけの名品か、すぐに分かるはず。
「ずっと、隠し持っていたんです。コレしかないんですけどね……」
「ありがとう、イリス……」
その剣を手に持った瞬間、いつもの力が戻ってきた気がした。いや……本当は、イリスがボクを、勇者と呼んだときから、その力は戻ってきていた。やっぱり、姿かたちは変わろうと、イリスは女神様で、ボクに力と、勇気をくれる、なくてはならない存在だ。
ボクは、イリスにお礼を言って、その頭を撫でた。本当は、強く抱きしめたいくらい嬉しかったんだけど、そうする暇は、今はない。
『今更、武器を持ったからって、なんだっていうの?この、最強になったアタシの力の前に、全ての力は無意味なのよぉ?まだ、それが分からないの?』
「いける?ネモ」
「うん。さっさと片付けてくるね」
ボクは、イリスを庇うように立つと、剣を構える。本当は下がっていてもらいたいけど、下手に離れたら逆に危険だからね。
『さっきまで死に掛けだったのに、イキるじゃない。頑丈そうだから、やっぱり殺さずにサンドバッグにしてあげる。そっちのエルフの子供も一緒にね』
「……うるさい」
『何……?』
「いいから、さっさとかかってきてください。ハッキリ言って、気持ち悪いんです、貴方の格好は。早く視界から消したいので、お話は──」
最後まで聞きもせず、怒った竜が、ボクとの間合いを一気につめて、その大剣を振り下ろしてきた。
ボクは、先ほどイリスから受け取った剣で、それを受け止める。やっぱり、力が戻ってきている。おかげで、竜の一撃が凄く軽く感じる。大地はひび割れ、衝撃も凄いけど、勇者の力を取り戻したボクにとって、それはあまりにも非力な攻撃だ。
『な、何!?』
「ボクは、貴方が嫌いです。強い力を手に入れて、世界を物にするとか、あまりにもバカげてる。それに、気持ちが悪いです」
『ぬかしてなさい、ビッチがぁ!』
ボクが受け止めている竜の剣に、力が入る。怒りによって、ちょっとはパワーアップしたみたいだけど、ちょっとだけだ。
「すぅ……」
ボクは、軽く息を吸って、気合を入れる。久々に放つ技なので、ちょっと緊張しています。
ボクが手にした剣が、光り輝き始める。それから、受け止めた剣を押し返しつつ、この技の名前を口にした。
「ラストイェレーター」
振りぬいた剣と共に、強力な光が放たれて、竜を飲み込んだ。その際に、竜が手にしていた剣は砕け散り、光は遥かかなたの空へ向かって飛んでいく。
この技、強力なのはいいとして、下手に地上に向けて放ったら、遥か彼方まで全部吹っ飛んじゃうんだよね。それが難点で、ボクは今回、やや上方に向けて放ったのだ。
『……』
本来であれば、これをまともに食らったら、塵1つ残らない。でも、竜はそこにいた。体中が真っ黒こげで、服だけ吹き飛んで、真っ裸の状態だ。そんな状態で、力なく膝をつき、項垂れている。
ボクは、とどめを刺そうと、剣を構えるんだけど、そんなボクの前に、イリスが立ちはだかった。
「少し、聞きたい事があります」
『……』
竜は、力なくイリスを睨みつけ、それを肯定と捉えたのか、イリスが話を続ける。
「貴方を封印から解いたのは、アスラですね?」
『……分からない。でも、そうね……力をくれたのは、間違いなく、女神アスラ様……』
「そう。ありがとう。もう、眠りなさい。破壊竜、ディレアト」
『そ、その名前で呼ばれたのは……千年振りかしら……』
竜は最後に、安らかな笑顔を見せ、そして、身体が光の塵となり、風と共に消え去っていった。




