プレゼント
ビンにいれられた竜の赤い血は、輝いていた。何か特別な力を帯びているみたいで、ボクはそれを、アイテムストレージにしまい、保管した。
『この、メスのビッチがぁ。この超絶可愛いアタシを、お前みたいなビッチが傷つけるなんて、許される事じゃないわよぉ?』
「び、ビッチじゃないです……」
『ぬかしなさい!そんな、肌が露出した服なんて着て、ビッチ以外の何者でもないわ!男をたぶらそうったって、そうはいかわないわよぉ。世の中の男の子は、このアタシが守ってみせるんだから!』
竜が指摘してきたのは、ボクの服装だ。確かに、所々破れたり、燃えたりしてしまったせいで、肌は過剰露出になっている。胸なんて、下着が完全に露出してるからね。
でも、考えてみて欲しい。ボクをこんな格好にしたのは、果たして誰だろう。
『そんなビッチな貴女に、プレゼントよ』
怪しく笑った竜が、突然光をまとった。あまりの眩しさに、ボクは目を閉じて、光が収束するのを待つ。光は、すぐに収まった。一体、なんだったんだろう。ボクは、恐る恐る目を開き、そして心の底から、帰りたくなった。
そこにいたのは、人の姿をした、竜だった。竜に生えていた立派な2本の角と尻尾は、小さくなりながらもついている。ただ、尻尾は凄く短い。ボクが千切ったから、それが反映されているようだ。問題は、ここからだ。その、人の姿をした竜なんだけど、それは、男の人だ。男の人なんだけど、唇は赤く、口紅を塗られているし、頬はほんのり赤く、化粧が施されている。まつ毛は、不自然なくらい長く、髪の毛は何故かもじゃもじゃのアフロヘアー。目は、パッチリ二重まぶたなんだけど、その目力が凄く強くて、嫌になる。更に下へ目を向けると、筋肉質な身体が目に入る。全身、くまなくマッチョなその身体は、近づくのを躊躇うほどの威圧感。筋肉によって膨らんだその身体は、大きく、逞しく、そしてボディビルダーのように、ちょっとテカっている。そんな身体を隠す服は、女性物の赤色のビキニの水着だけ。胸は、まだ見ていられる。大胸筋が、凄いなぁと思う。でも、下は完全にアウトだ。物に対して、小さすぎるよ。はちきれんばかりに膨らんでいるよ。それに、すね毛が凄い。
「うぷ」
ちょっと、気持ち悪くなって吐き気をもよおしてしまった。
「一体、何がプレゼントなんですか……?」
『何がって……このアタシの、高貴な人型の姿を、目にする事ができる事よ。滅多にならないんだからね、この姿に。どう?キレイでしょ?んふっ』
竜は、そういってボクに向かって、前かがみになってポージング。唇をちゅっとならし、ウィンクのサービス付きだ。
こんなの、もしもユウリちゃんが見たら気絶しちゃうよ。それに、色々と教育によくないです。
「……元に戻ってください」
『遠慮しなくてもいいのよぉ。このアタシの美しい姿を見て、傷つけたくなくなっちゃんでしょう?気持ちは分かるわ。でも、アタシ達は敵同士だもの。心を鬼にして、かかってらっしゃいな』
そうだね。早く、視界から消えてもらうためににも、さっさと終わらせよう。
ボクは、地面を蹴り、人の姿になった竜に向かい、拳を繰り出した。
『む、うううぅぅぅぅん!』
竜は、驚く事に、ボクの拳を受け止めた。両手でそれを受け止めて、踏ん張った地面にヒビをいれ、滑りながらも受け止めきった。ただ、受け止めた竜の手は、砕けている。真っ赤に腫れあがり、腕の血管からは、あまりにも力を入れすぎたせいで、切れて血が溢れ出した。
『んふ。軽いパンチね、ビッチ。今度は、こっちの番』
竜は、ボクに向かい、お返しとばかりにパンチを繰り出して来た。その拳は、ボクの拳の5倍……いや、10倍くらいの大きさかな。いくら人の姿をしているとはいえ、その大きさは人間離れしすぎていて、その容姿と相まって、化物すぎる。
そんな大きな拳を、ボクは片手で受け止めた。その瞬間、ボクが立っている地面が凹んだ。そして、風が巻き起こる。それは、衝撃波となり、ボクを中心として辺りに広がっていった。
「……ききません」
ボクはそう言って、竜の懐に入り込むと、そのお腹に蹴りをお見舞いした。体格差がありすぎるので、地上からジャンプしての、空中回し蹴りだ。それが、見事にみぞおちの辺りにヒットするんだけど、蹴ったその感触は、まさに岩だった。いや、岩よりも硬い。鉄とか、戦車とかを蹴った気分。でも実際は、それよりも遥かに硬いと思う。
『ぬぅぅぅん!ご、はぁ!』
その蹴りを、耐え切って見せた竜だけど、直後に膝をつき、胃液を吐いた。それでも、僅かながらの抵抗に、ボクに向かって手を伸ばしてくるけど、ボクはその手の腕に向かい、肘打ち。腕がおかしな方向に折れ曲がり、追撃を振り切った。
『あ、あぁ……アタシの、美しい身体が、こんなに傷ついて……。こんなのって、ないわ。ただの人間が、こんな力を持って……ましてや、アタシよりも強いなんて事、あっていい訳がないもの。貴女、一体何者よ!』
「一応……元勇者です。異世界の」
『嘘おっしゃい、このクソビッチ!いくら勇者だからって、こんな力ある訳ないでしょう!クソビッチな上に嘘つきとか、どんだけ性悪なのよ!これだから、女は嫌いなの!でも……そうね。貴女の力は、認めざるを得ない』
そう呟くと、竜はボクに背を向けて、駆け出した。それは、逃亡だ。山の方へ向かい、飛び跳ねて逃げていく。その逃げ足はとても速く、追いかけようとも思えない。ボクとしては、もう用事は済んでいるし、帰ってくれるならそれはそれでいい。
『ここは、撤退させてもらうわね、元勇者のビッチさん!アタシ、まだ封印が解かれたばかりで、調子が悪いの!次会ったときに、決着をつけましょう!』
そんな捨て台詞を吐いて去っていく竜なんだけど、そんな竜に向かい、突然天から光が降ってきて、辺りは眩い光に包まれた。全てを飲み込むかのような光は、神々しい女神様の光。
その光の中に、ボクは人影を見つけた。ポニーテールに結んだ、燃えるような赤い髪。和服姿の、赤い女の人が、ボクをチラリと見て、忌々しげに睨み付けて来る。
彼女は、女神様だ。光が眩しくてよくは見えなかったけど、間違いない。ボクをこの世界に送り込んだ、偉そうなおばさん女神。露出狂の行き遅れ風ファッション眼鏡おばさんだ。




