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思い出しちゃいけない事


 ボクは、更衣室で、メルテさんが探してくれた、自分の服に着替える。傍にはイリスがいて、ボクの着替えをじっと見つめている。イリスも、そっちに目覚めちゃったのかな。だとすると、嫌だなと思いながらも、時間がないのでさっさと着替えてしまう。


「キレイな肌ですね。それに、凄く可愛い形です。あの子が惚れてしまった理由が、分かってしまいます」


 ボクの着替えを見ながら、イリスがそんな事を呟いた。やっぱり、目覚めてしまったらしい。ボクはさっさと着替え終わると、自分の身を守るために、部屋の隅で身構えた。


「え、あ……違いますよ?別に、貴方を好きになったとか、そういう意味じゃありません。本当に、今の貴方はただキレイだと、そう思っただけです。あの変態みたいな事はしないし、しようとも思わないので安心してください」

「そ、そうなんだ……よかったよ」


 ボクは安心して、胸を撫で下ろした。


「それより、ユウリの事なんですが、一つ思うところがあるのです」

「な、何?」

「今までの出来事を思い返すと、違和感を感じざるを得ません。特に、今回の竜の襲撃で、確信に近いものを感じました」

「……何の事?」


 ボクは、首を傾げて尋ねる。ボクは特に違和感とかは感じないので、全く分からない。


「ユウリは、私達に何か、隠し事をしています」

「……」

「ユウリの身に起こる出来事には、違和感がありすぎます。トラブルに巻き込まれ、強敵と対峙しようとした時、いつもそこにはユウリが絡んでいるのです。今回熱にかかった事、それ自体は不幸ですが、それにしたって、その病気を治すための竜が、偶然封印が解かれ、偶然ここに向かってくるなんて、そんな都合の良い話が、ある訳ないです。そして、そんな幸運な出来事を操れる人物がいるとすれば、それは天界の誰かしかいない」

「ボク達を、この世界に送った……なんとかっていう女神様の事?」

「アスラです。彼女が、私達を嵌めようと動いている可能性は、十分にあります。そこに、今回の件です。ユウリが利用され、熱にかかった可能性もあるし、逆にユウリが何かしらの干渉を受けて、私達を嵌めている可能性もある」


 ボクはその発言を聞いて、思わず眉を潜めた。ユウリちゃんが、ボク達を嵌めている?そんな事、ある訳がない。そう発言するイリスこそ、元女神様で、性格上もボク達を嵌める可能性が凄く高い。


「ユウリちゃんが、ボクを裏切る訳がないだろう!」


 激昂したボクは、イリスの肩を掴み、イリスに迫った。

 そんなボクを、イリスは無表情で、ボクを見返してくる。なんなんだよ、その目は。まるで、くだらない物を見るようなその目に、ボクは見覚えがある。


 昔、子供の頃、親戚の叔父さんが、一緒に暮らさないかと言ってくれた事がある。理由は、ボクのお父さんとお母さんは、ボクを虐待しているから。それを見かねて、そう提案してくれた。でも、そんな事はない。お父さんとお母さんは、ボクを可愛がってくれている。大切な人をバカにされた気がして、ボクは凄く怒った。その時、叔父さんの奥さんが、ボクの事を今のイリスのような目で見てきた。その人だけではない。それ以来、村中の人から、そんな目で見られるようになった。そういえば、ボクを猛獣使いだと揶揄した、教会の男の人……オルクルさんも、そんな目をしていたな。


 ボクはその目に、怯えた。イリスから離れ、フードを深く被り、そして更衣室を出る。

 思い出しちゃいけない物を、思い出してしまった。震えだす自分の身体を抱きしめて、ボクは廊下を走る。


「ネモ。レンが、ご飯を作り終わったってさ。悪いけど、食べてやってくれ。……ネモ?」


 ボクは、話しかけてきたメルテさんと、目も合わせずに、横を通り過ぎた。人の目を見るのは、やっぱり怖い。ボクはまた、あの頃のように戻ってしまった。人との関係を閉ざし、1人だったあの頃のように。

 駆け出したボクは、誰に話しかけられても、もう止まらない。視線を下げ、ひたすらに西を目指して走る。ボクの足は、馬よりも速い。朝早いので、人通りはまばらだけど、それでも人はいる。そんな人たちの注目は浴びてしまうけど、ボクはその視線を振り払うように、あっという間に町を後にした。

 今のボクは、ユウリちゃんの命を救うために、竜の血を手に入れることしか頭にない。それだけを考えて、西を目指す。ひたすらに、あの可愛いユウリちゃんを、守るために。

 ユウリちゃんが、ボクを嵌めてるだって?そんな事が、ある訳がないだろう。ユウリちゃんは、とても優しくて、とても可愛くて、ちょっと変態だけど、ボクの大切な人だぞ。そんなユウリちゃんが、ボクを嵌める訳がない。そんな事を言い出すなんて、イリスには、幻滅したよ。




 町が、小さくなった頃、大草原の小高い丘の上に差し掛かったところで、ボクは足を止めた。朝日を背に受けて、山の向こうから、真っ直ぐにこちらへと向かって飛んでくる物を、発見したから。

 巨大な、羽根の生えたトカゲ。羽根を羽ばたかせ、羽ばたいた羽根で雲を撒き散らしながら、やってくる。立派な赤い鱗は、朝日を反射し、輝いて見える。口からは、常に炎を僅かに吐いていて、その目は黄金色に輝き、ボクを見据えているのが分かった。

 アレが、竜……ボクが、勇者の時に見た竜とは、形が違う。あちらの竜は、もっと小さく、あのような威厳のある格好はしていなかったから。

 ボクは、こちらに飛んでくる、竜のステータス画面を開いてみる。


 名前:ドラゴン

 Lv :???


 レベルが、表示されていない。他の項目も全て隠されていて、名前だけしか分からないようになっている。明らかに、他とは違う。

 そんな竜が、風を巻き起こしながら、ボクの目の前へと降り立った。目の前で見るとよく分かるけど、彼はとにかく、大きい。長い尻尾まで合わせたら、全長は50メートルくらいあるんじゃないだろうか。高さもそれに比例して、凄く高い。ボクは丘のてっぺんにいるというのに、上から見下ろされる形となっている。前足と、後ろ足には、大きく長い爪が剥き出しとなっていて、それが着地した際に、地面を切り裂いた。

 ホント、恐ろしい見た目だよ。勇者の時に倒した、どんな敵よりも、強そうだ。


「……あの……血を、分けてもらえませんか?友達が、死んでしまいそうで……貴方の血が、必要なんです」


 言葉が通じるかは分からないけど、一応そうお願いしてみた。

 そんな、ボクのお願いに対し、竜のその大きな口からは、言葉ではなく、炎が吐かれた。ボクへ向かって放たれたその赤い炎は、火の玉となり、ボクへと襲い掛かる。

 ボクはそれを、拳で粉砕。炎は周辺に分散し、草原を燃やしていく。あたり一体は、あっという間に火の海だ。

 こんなのが、町に来たら、一瞬で壊滅だろう。あの結界とかいうのも、たぶんコイツには通用しない。


『……ほう。ただの人間の小娘風情が、あれを防ぐか』

「……!」


 竜が、喋った。それは、男の人の声で、とても低く、響いてくるような声だった。

 喋れるなら、最初から喋ってよと、ボクは心の中で文句を言いました。


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