心配になる幼女
町には、外出禁止令が出ているし、今日はレンファエルさん達と同じく、ボク達もギルドに泊まらせてもらう事になりました。イリスは凄く帰りたがっていたけど、正直ボクももう疲れているので、休みたい。イリスには悪いけど、もう面倒ごとは遠慮したいので、おとなしくしておこうという、ボクの意思は固い。
「わ、分かりました……では!絶対に、私を!この変態から!守ってください!」
イリスは、メイヤさんに向かって指差しながら、ボクにそう訴えてきた。そんなメイヤさんの傍には、ようやく開放されたネルエルさんが、魂が抜けたように突っ立っている。
「おーい、ネル、大丈夫か?ここに、泊まって良いっていうから、部屋いこうな?」
「……ソソソウネ」
「ダメだ、こりゃ。ネルがダメそうだから、あたしはネルを部屋に連れて行くよ。レンも、来な」
「……はい。では、私は失礼します」
ボクに向かって、深く頭を下げて、挨拶をしてくるレンファエルさん。ボクは照れながら、おやすみなさいと答えるんだけど、不意に、そんなレンファエルさんが頭を上げると、ボクの顔に、自分の顔を近づけてきた。片手で、ボクのフードを取り払いながら接近したレンファエルさんの唇が、ボクの頬に軽く当たる。柔らかく、湿ったその唇の感触が、ボクの頬を支配した。
「……助けていただき、ありがとうございました。このご恩は、決して忘れません」
顔を赤く染め、目を細めてお礼を言ってくれたレンファエルさんは、キレイだと思った。
「……」
「ん……なに、をしているんですか、この痴女はぁ!」
突然の出来事に、激昂するユウリちゃん。そんなユウリちゃんから逃げるように、レンファエルさんは駆け足で去っていく。去り際に、ボクに向かって、ウィンクを飛ばしてきた。
「いいぞぉ!もっとやりなさい、レン様!そのまま、押し倒してぶっちゅーっと!」
「はいはい、あたしたちも行くよ」
鼻血を垂らしながら、ネルエルさんが煽ってくるけど、もうレンファエルさんはいない。彼女はメルテさんに手を引かれて、部屋を後にした。
ボクは、自分の頬を、手で触る。まだ、感触が残っているみたいで、それが段々と、ボクの奥の底から、恥ずかしいという気持ちを引き出していく。
頭がショートするんじゃないかという勢いで、顔が熱くなっていくの感じる。ボクは手で顔を覆い、その場に座り込んだ。
「お姉さま、大丈夫ですか!?」
「う、うん……ちょっと、恥ずかしくて……大丈夫だよ」
心配して、背中をさすってくれるユウリちゃんに、ボクはそう言った。背中をさすってもらうと、ちょっと心地良い。
「あの痴女は、私のお姉さまに、勝手にあんなことを……!私だってしたことないのに!」
「……それ以上の事はしてくるけどね」
「もう二度と、ヤツには勝手な事をさせません!お姉さまは、この私が守ります!だから、安心してください!」
ボクの言葉は、ユウリちゃんの耳には届かなかった。
「ぎゃー!」
そんな時、イリスの叫び声が響いた。
見ると、イリスがメイヤさんに抱きかかえられている。
「ふふ。良い匂いだな、イリス。やっぱりイリスが最高にして、頂点だ」
「ひいぃぃぃ」
イリスの後頭部に顔をうずめるメイヤさんは、心底幸せそう。そんなメイヤさんから逃れようと、イリスが暴れるけどその拘束は解けない。
「ね、ネモ……よく聞きなさい!この女が、私達を禁断の森に同伴させたのは、自らの陵辱される運命を捻じ曲げるための、弾除けにするためよ!」
イリスの言葉を聞いて、メイヤさんはその手を離した。解放されたイリスは、すぐにボクに駆け寄ってきて、ボクにくっついてくる。
「どういう事ですか、イリス?」
「そのままの意味です。この女、親切なフリをして私達を連れて行ったけど、それもこれも、全部自分の身のため。自分よりも弱い、自分と同じ運命にある者を連れて行けば、自分よりも弱い者の方が、運命に逆らえずに流されていく可能性が高い。それを利用して、自らに運命に流れが来ないように、仕向けたのです!」
「……ふ。よく分かったな、イリス。その通りだ」
メイヤさんは、不適に笑い、そしてソファに座りなおした。
「……よく分からないのですが、ようするに、私達を囮にするために、連れて行ったという事ですか」
「そうだ。私は、同じ運命にある転生者を蹴落とし、これまで身を守ってきたのだ」
何の悪びれる様子もなく、メイヤさんは肯定。自分は悪くないと訴えるように、真っ直ぐにユウリちゃんを見て答えた。
「こんの、悪女!こらしめるべきですよ、ネモ!」
「お前なら、できるのかもしれないな。先ほど、私の刀を受け止めたあの時、圧倒的な力の差を感じた。まさか、お前があんな力を持っていたとは、思いもしなかったぞ」
「うちのネモを、なめないでくさい!ネモは、魔王をも超える力を持つ、最強の勇者です!貴女のような悪女は、許しません!覚悟しやがれ!」
「い、いや……別に、いいんじゃないの、かな?」
格好つけて叫んだイリスだけど、ボクは別に、メイヤさんに対して怒る気持ちが湧いてこない。だって、別に人が人を利用するのは当たり前だし、その結果ボク達が何か酷い事をされた訳じゃないし、嵌められて危ない目にあった訳でもなく、仮に同伴していて襲ってきた人がいたとして、襲ってきた人が悪い訳で、それはメイヤさんの本意ではない。
なので、別にメイヤさんが悪いとは思えないので、怒る気にもなれない。
「な、何を言っているのですか!この女は、私達を嵌めてあの森に連れて行き、危険な目にあわせたのですよ!?」
「怒るような事ではないですよ、イリス。私達は、お金が必要で、メイヤさんはそれに手を貸してくれて、自らは運命から逃れられる。お互いの利害が一致した、素晴らしい構図です」
「ゆ、ユウリまで……では、この女によって嵌められた、他の女性達はどうなのですか!」
「それは、その人たちがただ弱く、運が悪かっただけです。それに、メイヤさんが手引きした訳でもないので、メイヤさんが責められる事ではないかと」
「~~~っ!」
イリスは、頭を抱えて地団太を踏んだ。思うように行かなかったので、憤慨しているみたいだけど、ユウリちゃんの言う事は正しい。ボク達と関係ない人を、メイヤさんが利用していても、気持ちが良い物ではないかもしれないけど、でも仕方ない事だと思う。人って、そういう物だと思います。
「……分かった。では、ほんの罪滅ぼしに、明日のランチを奢ろう。好きな物を、好きなだけ食べていい。勿論、三人共だ」
「な、何もしなくていいの……!?」
「うむ。今回は無条件だ。何かしてくれるというのなら、大歓迎だが」
「しない!やった!明日も、ステーキよ、ネモ!」
イリスの、メイヤさんに対する怒りは、吹き飛んだ。もう、イリスの目の中にはお肉の事しか見えていない。
本当に、心配になる幼女です。




