深い深い闇
全員、お風呂から上がってサッパリとしたところで、ボク達は今一度、メイヤさんの前に集められた。その部屋は、とてもキレイな部屋で、赤いソファはふかふかでとてもすわり心地が良い。壁には訪れた人を歓迎するかのように、花瓶に添えられた花や、絵画が飾られている。寒い時期は暖炉も焚けるみたいで、冬でも暖かそう。
そんな集められたボク達の格好は、このギルドの受付の女性達が着ている服と、同じ物。白のシャツに、ネクタイリボンをつけて、青のスカートをはいている。代えの服がないボク達に、メイヤさんが用意してくれた。
ちなみにボクは、コレに加えてフードも用意してもらった。おかげで、顔が隠れて落ち着きます。
「突然のご訪問、申し訳ありません。その上、服までお貸しいただいて……」
「構わん。それより、さっさと本題に入ろう」
ボク達は全員、ソファに座っている。3人掛けのソファには、レンファエルさんと、メルテさんにネルエルさん。その3人が座っているソファの対面に、ボクとユウリちゃんとイリスが座り、上座の1人掛けのソファに、メイヤさんが腰掛けている。
イリスは、ボクと再会してから、やけに甘えん坊だ。ボクの腕に常に張り付いて、離そうとしてくれない。一体、何があったのだろうか……。
「まず、貴女はレンファエル・E・ヘンケル氏で、間違いないな?」
「はい」
レンファエルさんは、メイヤさんを真っ直ぐ見据え、答えた。
「我がギルドに所属する、冒険者……ネモとユウリが、貴方を助け、ここまで護衛をしたと言う事で、いいのだろうか」
「その通りです。お二人に助けていただき、ここまでやってきました」
「……分かった。それで、家には帰れないとは、どういう事なのか尋ねても?」
メイヤさんに出会い、レンファエルさんはまず最初に、そう伝えていた。家に連絡をされたら、レンファエルさんが無事に帰ってきた事が、バレちゃうからね。
「此度の、私達が行方不明になった原因を作ったのは、他でもない、私の父である、ブラッド・E・ヘンケルなのです」
「一体、何があったと言うのか、詳しく聞かせてくれ」
「はい……あの日、私達は、レジルの実を採りに、禁断の森を訪れました」
「レジルの実……?」
「禁断の森の、あの高い木々のてっぺんに生える、実の事だ。レジルの実は昔から、上質な魔法薬を生成するために、重宝されている。森の入り口付近の木々にも生えているので、直接採りにいく者は珍しくもない。市場に出回っているレジルの実は、少々値が張るからな」
ユウリちゃんの疑問に、メイヤさんが答えてくれた。ボクも知らない話なので、聞いてくれて理解する事ができた。
レジルの実……確かに、何かあの木のてっぺんに、青い実がなっていた。それの事だったのかな。高いのなら、取っておけば良かったなと思うけど、後のまつりだ。
「いつも通りであれば、お抱え冒険者である、ナレウスファミリー所属の、メルテと、ネルに同行してもらい、採りに行くのですが、その日は父の用意した、別の冒険者も同伴する事になりました。それが、ヘイベスト旅団の方で……正直、あまり乗り気ではなかったのですが、父の強い推しで同行する事になりました」
「ヘンケル氏が、ヘイベスト旅団の冒険者を……?」
「私も、違和感を覚える選択でした。他のギルドの冒険者ならまだしも、父が毛嫌いをしていたヘイベスト旅団の冒険者を、私に同行させるなど、普通なら考えられない事ですから」
「あの、クソ男、ホントに腹がたつ……!」
メルテさんが、思い出し、自分の拳同士をぶつけて大きな音をたてた。その背後には、怒りの炎が見えます。
「怒っても、しょうがない。今は忘れなさい。それよりも、話の続きを」
「ネルは悔しくないのかよ!あのクソ男におっぱい揉まれてんだぞ!?」
「……ただ、揉まれただけ。別に、なんて事はない。それよりも……私の身体が小さいとバカにしてきた事の方が、腹がたつ……」
ネルエルさんにまでスイッチが入ってしまい、ネルエルさんも怒りの炎を燃やし、その拳を強く握った。
「……揉まれた?男に?ネルエルさんの、おっぱいを?」
そんな中で、ユウリちゃんが低く、呻る様な声で呟いた。それは、メルテさんとネルエルさんの、怒りの炎をかき消すような、どこまでも冷たい声だった。
ユウリちゃんの様子に、その場にいた全員が、押し黙る。
「ゆ……ユウリちゃん、とりあえず、話の続きをして、いいかな……?」
「ええ、どうぞ?」
当たり前だという様子で、そう答えてくれたユウリちゃんだけど、その目が凄く怖い。黒く渦巻いて、どこまでも深い深い闇が、その目の中に広がっている。
ボクとしても、ネルエルさんの胸を揉んだ男の人の事は、許しがたい。もしも犯人と出会う機会があれば、ぶっ飛ばすとして、ユウリちゃんにはこの場は我慢してもらおう。
「……ごほん。同伴した冒険者と私達は、町を出ました。最初は特に変わった事はなかったのですが、ある程度町から離れ、人気がなくなった頃合を見て、毒を盛られました。毒によって、身体を麻痺させられた私達は、ろくな抵抗もできず、彼らにこう告げられます。オークへの、貢物になってもらう、と」
「貢物?やつら、オークと繋がっていたのか?」
「どうやら、そうではないようです。彼らは、聞いてもいない事をベラベラと話してくれましたが、オークと繋がっているのはどうやら、私の父のようです。父は、定期的に、町から女性を浚い、オークに捧げることで、魔力結晶鉱石の密輸をしているようなのです」
「なるほど。確かにアレには、密輸する程の価値がある。地下はほぼ、オークの支配地。採りに行くのはリスクが高すぎるからな。取引が一番手っ取り早い。だが何故、わざわざ自らの娘を差し出す必要がある。女なら、他に大勢いるはずだ」
「……どうやら私は、父にとって都合の悪い情報を得てしまったようで、それが原因のようです。それが何かは分かりませんが、ヘイベスト旅団の冒険者はそう言っていました」
「それで、消そうとした、という訳か。それも、自らの役にたつ形で。彼らしい、無駄遣いのない合理的な発想だ。だが、そのヘイベスト旅団の言う事を、鵜呑みにした訳ではあるまい。確信する、何かがあったのではないのか?」
メイヤさんの指摘に、レンファエルさんは、一瞬、驚いた表情を見せた。それは、メルテさんとネルエルさんも同じで、お互いの顔を見合わせる。
「その通りです。私も最初は信じられず、出鱈目だと言い張りました。でも、彼らに見せられたのは、父の文字と、父の印の押された依頼書でした。魔術的な依頼書でしたので、それが偽者である可能性は低く……」
「なるほど。それで、自らの父が信じられなくなった、という訳か。それで、身動きができなくなった貴女達は、どうなったのだ」
「三人とも、服を脱がされて、奴隷服に着替えさせられ、拘束されました。オークは処女を好むようで、幸いにも彼らに何かをされる事はなく、ズタ袋の中にいれられた私達は、気づけば禁断の森の中。そこへ訪れたオークに、洞窟の中へ運ばれました。その後は……」
レンファエルさんは、ボクを一旦見てきて、言葉を止めた。なんだろうと、首を傾げるボク。
「その後は、そこにいた女性達を連れて、どうにかオークから逃げ延びる事に成功するのですが、結局彼女達を救う事はできず、仕方なく洞窟内に篭城。助けを待ちました。まさか、本当に助けが来てくれるとは思いませんでしたが……ネモ様と、ユウリさんの姿を見たときは、本当に感動しました……」
「あの……一つ、質問があります……」
「なんだ、ネモ」
「魔力結晶鉱石って、その……持ち出したらダメなんですか?」
「あれは、大地に張るエネルギーのようなものだ。魔力結晶鉱石のない大地は枯れ果てて、死ぬ。使用すれば、強力な魔法が放てるという話だが、世界的に、採取は禁止されていて、一部の施設に使用する場合を除き、勝手に持ち出せば死罪となる。間違っても、持ち出さないように」
「……はい」
ボクは、フードを深く被り、冷や汗を流しながら頷き、答えました。
ボクのアイテムストレージには、魔力結晶鉱石がたくさんある。気づかない内に、犯罪者になっていました。こうなったら、存在を忘れようと思います。




