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下水道


 ボク達がおりたった下水道は、この町の地下にはりめぐっている。ここを通り、町中の様々な生活排水が、水路をつたってどこかに流れていっている。そんな下水道の中の臭いは、当然臭い。鼻が曲がるんじゃないかというような臭いが、辺りを包み込んでいる。

 そんな中で、先に降りていたネルエルさんが、魔法を発動させ、辺りを照らしてくれていた。おかげで、真っ暗闇の中に降り立たずに済み、安全に着地する事ができた。


「それにしても、下水道なんて初めて入ったわ。こんな作りになってたのね」


 ネルエルさんは、そんな臭い下水道に、興味津々。辺りを見渡すその姿は、なんだかちょっと楽しそう。


「うう……臭いです」


 ユウリちゃんは、そんな中で、ちょっと気分が悪そうだ。

 無理もない。酷い臭いだもの。ボクは、ちょっとでも緩和できるようにと、ハンカチを取り出してその鼻にあてがってあげる。


「ありがとうございます、お姉さま」


 すると、それを自分で押さえて、ちょっとだけ顔色が良くなった。


「早く抜けよう。あたしも、冗談抜きに、こんな所にずっといたら、臭いにやられちまう」

「……私も、賛成です。ところで、ネモ様。私も、臭くてちょっと気分が……」

「ホレ」

「むが」


 メルテさんが、そんなレンファエルさんの顔に、ハンカチを押し付けた。


「もう。ネモ様のがいいのに……できれば、パンツとか……」

「あんた、どんどん壊れてくね」


 ボクは、その発言を聞いて青ざめました。段々と、レンファエルさんが怖くなっていくよ。

 ところで、今レンファエルさんにメルテさんが渡したハンカチって、先ほどネルエルさんの鼻血を拭いたハンカチじゃないかな。血がついてるよ。でもレンファエルさんは気づかずに鼻に宛てているので、放っておこう。代わりにパンツを要求されたら、嫌だしね。


「レン様。さすがに、今の発言は、私でも引きます。せめて、ブラにしておきましょう」

「そ、そうですか。ごめんなさい、そうしますね。ネモ様、ブラをください」

「あげません」

「……ごめんね、ネモ。いつもは、こんなんじゃないんだ。でも、よっぽどあんたに、惚れてるらしい。嫌いには、ならないでやってくれ」


 メルテさんが、とても申し訳なさそうな、遠い目をしてボクに謝ってきた。

 もしかして、この中でまともなのって、メルテさんだけなんじゃないかと思う。ユウリちゃんとレンファエルさんは変態だし、ネルエルさんは、いらない事をレンファエルさんに吹き込んだり、ボクにセクハラをしてくるレンファエルさんを見て、鼻血を垂らして興奮するし。

 メルテさんがいなかったら、もう大変だよ。変態しかいなくなる所だったよ。


「はい、メルテさん。ユウリちゃんで、少しは馴れているので、平気です」

「ネモお姉さま!?私とこの痴女が、同じだとでも言うのですか!?心外です!」

「それ以上だからね!?」


 ボクは、声を大にして反論しました。




 下水道の中を、ひたすら歩いていく。ここには誰もいないので、気を使う必要はなく、悠々自適に歩いていける。人ごみを気にせず、誰とも会わなくてもいいし、誰にも見られない、凄くイイ道を発見してしまったのかもしれない。


「いや、それにしても、コレが町中の地下に張り巡らされてると思うと、壮大だねぇ」

「ええ。町の清潔は、この下水のおかげで、保たれている。それに、大雨の洪水対策にもなっている。凄い発想力よ」

「……ところで、二人とも大丈夫かい?」


 最後尾を歩くボクの前を、ユウリちゃんとレンファエルさんが、ふらふらとした足取りで、歩いている。この場所の臭いにやられて、2人はグロッキー。今にも吐きそうな、青い顔をしている。

 鼻にはマスク代わりのハンカチを宛がっている2人だけど、そんなに効果はない。


「ダメだと言ったら、どうしてくれるんですか……?ネモ様の、パンツ、くれるんですか……?」

「バカな事を言わないでください……お姉さまのパンツは、私の物です……」


 おかしな言い合いをする2人だけど、その言葉には全く覇気がない。大分、臭いにやられている。このままでは、本当に吐いてしまうかもしれない。

 そんな時だった。ボク達が歩いてきた方向から、異様な気配を感じ取り、ボクは振り返る。


「なんだ……!?」


 ボクと同じように、気配に気がついたメルテさんも、振り返った。

 やがて、姿を現したのは、ふわふわと空を飛ぶ、白いツボのような物体だった。大きさは、人2人分くらい。ツボを中心として、青色の光の輪っかを纏い、その光が周囲を照らしている。

 それは、ゲームで見たことがある。確か、迷宮とかに放たれている魔法生物で、人工的に作り出される、警護用のモンスターだったかな。


「ディセンター!」


 ステータスを確認すると、メルテさんが言ったとおり、ディセンターというモンスターだった。レベルは、50。けっこう高い。


「警護用で、下水に放たれてたのね……!」

「不味いんじゃないの?あたしたち、完全に不法し──」


 突然、ディンセターの輪っかから、赤色のビームのような光が、メルテさんに向かって放たれた。ボクは、その光を掌で防ぎつつ、ディセンターに向かって突進。蹴りを、繰り出そうとした。


「壊しちゃダメ!」


 しかし、それを止めたのはネルメルさん。ボクはその叫びを聞き、急遽、攻撃を中止。その隙に、ディセンターがビームを放ってくるけど、ボクは回避しつつ、距離を取った。


「壊したら、術者にバレる。それに、警護用の魔法生物を破壊するという事は、それこそこの町を敵に回すような事になる」

「じゃあ、どうしろってんだ!」

「逃げるしかないでしょ!」


 ボク達は、駆け出した。

 先頭は、メルテさん。それに続いて、ネルメルさんで、最後尾にボク。ボクの両手には、それぞれグロッキーな、ユウリちゃんと、レンファエルさんを抱えている。

 背後から、次々と赤いビームが放たれて来るけど、ボクはそれを回避しつつ、右へ、左へ、上へ、下へと、激しく動く事になる。


「うっ、うぷ。私、もう無理──おげええぇぇぇ!」

「私も──おえええぇぇぇ!」

「ひゃああぁぁ!?」


 ボクが腕に抱いている2人が、吐き出した。ただでさえ、臭いで気持ち悪かったところに、この激しい動きが災いしてしまった。2人がゲロを吐くけど、動きを止めるわけにはいかない。ボクは、ちょっと服にかかりつつも、我慢。そのまま、駆け抜ける。


「メルテさん!そこです!その梯子の上です!」


 やがて、ボク達はキャロットファミリーの、ギルドの近くにまでやってきた。そこの穴が、ギルドに1番近い。

 ボクがそう声を掛けて、メルテさんとネルエルさんは立ち止まる。でも、その上には魔法で封印された、蓋がしてある。


「2人をお願いします!」


 ボクは、レンファエルさんを、メルテさんに。ユウリちゃんを、ネルエルさんに預けると、地面を蹴って、梯子も使わずに穴の蓋を突き破り、地上へと出た。

 そこは、ギルドの裏だ。人目はないし、大丈夫そう。


「う、うぷ……」


 そこへ、梯子を伝ってとても気分の悪そうなレンファエルさんが上がってきたので、その手を引っ張り上げて、地上に出してあげる。続いて、ユウリちゃんも来て、同じように引っ張り上げる。


「ぎゅ!」


 ユウリちゃんを引っ張り上げたところで、ユウリちゃんの懐の中から出てきたぎゅーちゃんが、小さい身体のまま、触手を穴の下に伸ばした。


「おわあぁ!?」

「きゃあ!?」


 その触手が地上に出てくると、その先端には、メルテさんとネルエルさんが、触手に巻きつかれていて、2人を一本釣り。そっと、地面に下ろしたところで、ボクは穴に蓋をした。


「ぎゅーちゃん、ナイス!」

「ぎゅう!」

「た、助かったよ、モルモルガーダー……」

「ええ、危なかったわ。ありがとう」


 ぎゅーちゃんに助けられた2人も、ぎゅーちゃんにお礼を言う。ぎゅーちゃんは、凄く嬉しそうだ。


「う、おぇ」

「うぷ」


 一方で、ユウリちゃんとレンファエルさんは、地面に突っ伏してまだ気持ち悪そう。仲良くまたちょっと吐いて、せっかく外へ出て美味しい空気が吸えると言うのに、辺りは酸っぱい臭いにつつまれました。


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