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良くないと思います


 通りは、パニック状態だった。鐘の音を聞いた人達は、家に向かって一直線。我先にと駆けて行き、家の住人が全員揃った家は、厳重に戸締りされる。

 ボク達にとって、人通りが減るのは都合が良い。おかげで、誰の目にもとまらず、ギルドを目指せる。一方で、兵隊達が出張ってきている。彼らは、まだ外出している人たちに、早く家に帰るように促して回っている。


「想像以上の、騒ぎだねぇ……」

「そりゃあ、鐘が5回連続で鳴らされたことなんて、もう何十年も前の事だもの。パニックにもなるわ」

「はぁ、はぁ……」


 先行して走っていたメルテさんが立ち止まり、ボク達も立ち止まる。そして、周囲の様子を観察しながら、メルテさんは壁を背にしてその場に座り込んだ。メルテさんのその息は大して上がってもいないけど、レンファエルさんと、ユウリちゃんは違う。2人は、息を荒くしてちょっと苦しそう。それを見て、休憩時間をとってくれたのだ。

 場所は、裏路地の目立たない、暗い場所。大通りとは建物を挟んでいるので、駆けていく人達はこちらの存在にも気づかない。また、周囲の家は硬く閉ざされているので、出かけようとした住人と鉢合わせ、という事もないだろう。


「ぎ、ギルドまでは、あとどれくらいですか?」

「真っ直ぐいけば、走って30分。裏道を通っていくと、1時間くらいか」

「ボクが、二人を抱えて走ってもいいけど……」

「目立つね。確実に、人攫いと間違われて呼び止められるよ……」

「ですよね……」


 ボクの提案は却下されてしまい、落胆した。ダメだって事くらい、分かってはいたけどね。

 そんな、落胆したボクは、顔を伏せて地面とご対面。その対面した地面に、マンホールのような蓋がされている事に気がついた。

 マップを開いて、確認。すると、下にも道がある。どうやらそこは、下水道のようだ。


「し、下は、どうですか?下水道を、通っていくんです」

「無理よ。下水道の蓋は、魔法によって封じられていて、専門の魔術師じゃないと──」

「開きました」

「──問題なさそうね!」


 ネルエルさんの説明の最中だったけど、ボクは蓋を開けちゃった。確かに、何か魔法がかかっていたみたいだけど、大して強い魔法ではない。なので、簡単に開けられてしまった。

 そんな、蓋をあけたボクに、ネルエルさんは親指をたててそう言った。


「……下水道の封印を、こんなにあっさりとくとか、冗談だろ」

「いちいち、気にしてたらダメよ。ちょっと前に、ユウリにも言われたでしょ。私は、そうする事にしたわ」

「お前は順応が早いねぇ。あたしは、無理だわ」

「さすがは、ネモ様!凄いです!天才です!結婚しましょう!」

「ひゃ!」

「お姉さまに、触らないでください、この変態!痴女!」


 蓋を手にしたボクに、レンファエルさんが勢い良く抱きついてきた。危ないので、ボクは蓋を高くあげて、無防備状態。なので、抵抗ができない。

 そんなレンファエルさんを、ユウリちゃんが乱暴に引き剥がそうとするけど、無理そう。ボクの胸に顔を擦り付けてくるレンファエルさんは、ガッチリとボクにしがみついている。


「ネモの胸に、レン様が……イイ」

「ネル。鼻血」

「……ありがと」


 レンファエルさんを見ていたネルエルさんが、鼻血を垂らした。それをフォローするメルテさんも手馴れていて、すぐさま差し出したハンカチで、ネルエルさんの鼻にあてがってあげる。

 呑気にそんな事してないで、レンファエルさんを止めてくれませんか?段々と、ユウリちゃんのようになってますよ、お宅のレンファエルさん。


「外出は禁止だ!身分証を見せろ!」

「家から出るな!鐘が聞こえてるだろ!」


 そんな時、近くで大きな声が響いた。同時に、がちゃがちゃと、鎧の音がこすれる音がしてくる。その音は、どんどんこちらへと近づいているみたい。


「まずい……見つかったら、面倒だ。早く中へ!」

「私が先に行く!」


 最初に穴に入ったのは、ネルエルさん。梯子をつたい、慎重に降りていく。


「ユウリ!」


 それに続いて、ユウリちゃんが中に入る。そして残るは、ボクに抱きついているレンファエルさんと、蓋を持ち上げたボクに、メルテさん。

 鎧の音は、すぐそこに迫っている。


「レン、何してんだ、この緊急事態に……!」

「先に行ってください!」

「っ……!」


 ボクの言葉を聞いて、メルテさんは戸惑いながらも、穴の中に飛び込んだ。

 それに続いて、ボクも穴に飛び込む。レンファエルさんが抱きついていて、蓋をあげた状態で、だ。垂直に飛び込んだので、あげていた蓋は、自然と穴にひっかかり、そこに置いてボクは落下。底に着地して上を見ると、梯子にメルテさんが残っていて、ちょっとずれて隙間ができていた蓋を、キレイに直してくれている。直後に、その上を足音が通っていった。

 ボク達は、ほっと胸を撫で下ろす。


「ネモ様のお胸……可愛い」


 ただ1人、ボクの胸に顔をうずめている人を除いて。




「バカなのかい、あんたは!場をわきまえて、行動しな!」

「……ごめんなさい」


 レンファエルさんが、メルテさんにこっぴどくしかられている。レンファエルさんは、平謝りで、メルテさんに促されてボクにも謝罪をしてきた。


「も、もういいですよ、メルテさん……」

「はぁ……すまないね、ネモ」

「……」

「……ユウリさん?」


 縮こまっているレンファエルさんに、ユウリちゃんが無言で近づいた。また、何か嫌味っぽい事を言うのかなと思ったけど、違った。


「気持ちは、分かります。お姉さまの胸も、抱きついた時の香りも、最高です」

「そ、そうなんです……!分かってもらえますか!?」

「勿論です」


 ユウリちゃんが差し出した手を、レンファエルさんが握ろうと、手を伸ばす。


「──でも、お姉さまは私の物。気安く抱きつくのは、禁止です。ぺっ!」


 差し出した手を、ユウリちゃんが引っ込めて、ユウリちゃんは地面に唾を吐き出した。お行儀が悪いです。あと、凄く不良っぽいし、汚いし、良くないと思います。


「……よーく分かりました。貴女はやはり、私の敵。分かり合うことは不可能のようですねぇ?」


 ユウリちゃんの挑発に、レンファエルさんも、敵意剥き出しの目でユウリちゃんを睨む。

 よく見ると、レンファエルさんの手が、泥で汚れている。いつの間にか、その辺にあったヘドロを手に塗っていたみたい。その手で、ユウリちゃんの手を握ろうとしていたんだね。

 あと、よく触れたね、そんな汚いの。割と、そういうの平気な人なのかな。お嬢様なのに。

 それにしてもこの2人、ホントに、どうしてこんなに仲が悪いんだろう……。


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