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ドス黒い心


 ボクはまず、メルテさんを腕に抱いて、壁を飛び越えた。着地した先は、丁度廃墟が並ぶ区画。辺りに人気はなくて、都合が良さそう。周囲の警戒をメルテさんに任せ、戻ると、次はレンファエルさんの番だ。


「ね、ネモ様。よろしくお願いします」


 もじもじとして、手を差し出してくるレンファエルさんの手を取り、引き寄せる。しっかりと抱いて、密着する形となった。それに応えるように、レンファエルさんもボクの身体に手を巻きつけて、密着しすぎて逆に動きづらい。けど、どうにか飛び越えて、着地。


「あ、あのレンファエルさん?もう大丈夫なので、離して……」

「もうちょっとだけ……あと、ちょっとだけ……」

「そこまでだよ、レン。離しな」


 離してくれないレンファエルさんを、引き剥がしてくれたのはメルテさんだった。メルテさんは、レンファエルさんの首根っこを掴み、ちょっと乱暴にボクから離してくれた。


「ああー、ネモ様、ネモ様ぁ」


 名残惜しそうなレンファエルさんをよそに、壁を越えて戻ると、次はネルエルさんの番。


「よろしく」


 自然とボクに抱きついてきたネルエルさんの感触は、本当に色々と柔らかい。ボクは、押し寄せる煩悩を打ち消すように、強く抱きしめて地面を蹴り、壁を飛び越える。


「ひゃ……」


 その際に、ネルエルさんはちょっとだけ悲鳴を漏らしたけど、ボクは安心させるように、その頭に手をのせ、そのまま着地。


「……つきました。大丈夫ですか?」

「え、ええ、大丈夫よ。ありがとう」


 ぎゅっと目を瞑っていたネルエルさんだけど、ボクがそう教えてあげると、目を開いて、何事もなかったかのようにボクから離れた。

 残るは、ユウリちゃんだけ。ボクは、戻ろうとしたけど、そこへレンファエルさんがやってきて、にこやかにこう言った。


「コレで、全員揃いましたね!先を急ぎましょう!」

「……」

「……レン様。さすがにそれは、腹黒すぎて、引くわ」

「……ゆ、ユウリさんがまだでしたね!勘違いでした、てへっ!」


 そこは、軽く自分の頭を小突いたりしながら、舌を出してドジっ娘をアピールすべき場面でした。

 でも、レンファエルさんの行動は、自分の顔面を平手打ちして、口から血を流しながら舌を出すという、バイオレンスなドジっ娘アピールだった。

 そんなレンファエルさんの行動に引きつつ、ユウリちゃんの元へと戻る。


「お願いしますね、お姉さま」

「ぎゅ」


 ユウリちゃんの懐には、小さなぎゅーちゃんが潜んでいる。そのぎゅーちゃんと、ユウリちゃんにお願いされて、ボクはユウリちゃんを、お姫様抱っこをして抱えた。


「……あの時のようですね」

「うん。ボクも、そう思ってた」


 それは、ユウリちゃんと初めて会ったあの日。この壁を飛び越えて、ラメダさんの奴隷商館に向かったときと、同じ格好だ。だからあえて、ユウリちゃんだけお姫様抱っこにした訳なんだけど、ユウリちゃんも同じ事を思ってくれた事が、嬉しい。


「それじゃあ、いくね」

「はい」


 ユウリちゃんが、ボクの首に手を回してきて、そして地面を蹴った。

 壁を越えて地面に着地するまで、あっという間の時間だったけど、それは、ボクとユウリちゃんにとって、思い出の時間。ちょっと、楽しかった。


「ああ、ずるいです、ユウリさんだけお姫様抱っこなんて……!」


 着地して、ユウリちゃんを腕から降ろしたけど、レンファエルさんが駆け寄ってきて、抗議。両手で拳を作って、胸の前で小さく振るとという、可愛らしい行動だった。


「いちいち五月蝿い痴女──どうしたんですか、その頬」


 そんなレンファエルさんに、ユウリちゃんがいつもの調子で嫌味を言おうとしたんだろうけど、その言葉はレンファエルさんの真っ赤に腫れた頬をみて、飲み込まれた。代わりに出たのは、そんな疑問。


「……ドス黒い自分の心に対する、罰です」

「そうですか。大変そうですね、色々と。ところで、ネルエルさん。この後、どうするんですか?お家に帰るのは、ちょっと危ない気が……」


 レンファエルさんの事なんて、どうでもいいみたい。ユウリちゃんはすぐに切り替えて、ネルエルさんにそう尋ねた。


「それなんだけど、とりあえずキャロットファミリーに、保護を求めてみるつもりよ。メイヤさんなら、きっと力になってくれる」

「それじゃあ、目的地は同じですね!私達も、ギルドに報告に戻らないといけませんし、そこまでは一緒です」

「ええ、そうね」

「そうと決まれば、早く行こう」


 メルテさんは、そう言って、フードを被り、顔が見れないようにした。それを見て、ネルエルさんと、レンファエルさんも、フードを被る。3人は、ボクとお揃いの格好となった。それもこれも、レンファエルさんだと、バレないようにするため。ボクのように、恥ずかしくてフードを被った訳ではない。

 その時だった。辺りに、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。それは、5回連続でならされ、ややおいてまた、5回連続ならされる、という繰り返し。


「な、何なんですか、この鐘の音!」


 ユウリちゃんは、不安になってボクに抱きつきながら、レンファエルさんに尋ねた。


「5回連続の鐘の音は、モンスターの襲撃を意味しています。恐らく、ぎゅーちゃんさんが町に入った事が、バレてしまったのでしょう。あと、ネモ様にあまりくっつかないでください」

「迂闊だったわ……。まさか、町に入っただけでバレるだなんて、思いもしなかった」

「この場合、外出が制限されて、町中を軍が徘徊する事になる。急いだ方がいい。こっちだ」


 駆け出したメルテさんに続いて、ボク達も走る。


「ぎゅう……」


 そんな中で、ユウリちゃんの懐の中にいるぎゅーちゃんが、申し訳なさそうに何か言った。

 ぎゅーちゃんのせいじゃない。でも、責任を感じているみたい。


「大丈夫だよ、ぎゅーちゃん。ボクが、絶対に皆を守ってあげるから、安心して」

「そうですよ。お姉さまがいれば、安心です。ぎゅーちゃんは、心配する事ありません」

「ぎゅ、ぎゅう」


 ぎゅーちゃんは、戸惑いながらも返事をした。

 今のぎゅーちゃんの気配は、限りなくゼロに近い。いくら、モンスターに敏感な人がいたとしても、場所を探知するのは難しいはず。だから、おとなしくしている限り、大丈夫だ。たぶん。

 そんな心配をよそに、ボク達は裏道を通り、キャロットファミリーへと向かう。


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