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侵入


 町へ付いた頃になると、辺りはすっかり日が落ちて、薄暗くなっていた。この時間帯になると、町に戻ってくる人が多いのか、町へ入るための城門の前には、列ができている。

 そこまできて、いくつかの問題点に気がついた。よく考えたら、ボクとユウリちゃんは、町に不法侵入をしている。もう1つは、ぎゅーちゃんの事。何も考えずに連れて来てしまったけど、対策が思いつかない。さて、どうしたものか……。

 と、いう訳で作戦会議。ボクは、レンファエルさん達を連れて、列には並ばず、町を守る壁の傍にたむろった。


「──不法侵入!?」


 ボクは、レンファエルさん達に、打ち明けた。町へは、壁を飛び越えて、不法侵入した事を。

 そんな、レンファエルさん達3人の服装は、ボロい布キレから、ちゃんとした服に着替えている。3名とも、男物でちょっとサイズが合っていないけど、着れなくはない。特に、ネルエルさんなんて、ブカブカ。手も足も、丈が合わずに折りまくり。けど、あんな布キレよりも、100倍はマシのはず。動きにくそうだけど、ここはそれで、我慢しておいてもらうしかない。


「まぁ、アレだけのジャンプ力があれば、できるよね」

「笑い事じゃない」


 笑い飛ばすメルテさんを、ネルエルさんは咎めた。でも、罪を告白するみたいな気分で緊張していたので、メルテさんの笑い声は、おかげで少し、緊張が和らいだきがする。釣られて、ボクも笑ってしまったけど、そんなボクの頭に、ネルエルさんが手を置いて、少しだけ衝撃。


「ネモまで、笑い事じゃないから。どうして、そんな事をしたの。ディンガランは、交易都市なだけあって、不当な物資の持込を管理するために、不法侵入には厳しいの」

「そ、それはー……色々あって……」

「色々で、犯罪を犯さないで。もうちょっと、深刻になりなさい。メルテも!」

「いはははは……!」


 ネルエルさんは、そう言ってメルテさんの頬をつねった。


「ネルエルさん。お姉さまを、しからないであげてください。お姉さまは、私を救うため、必死だったんです」

「それは……」


 そう言いながら、ユウリちゃんは、ネルエルさんにお腹の奴隷紋を見せた。ハートに翼の生えたデザインのその紋章は、ユウリちゃんが、ボクの奴隷だという証。


「私は、主を失い、奴隷決壊をおこして死に掛けました。それを救ってくれたのが、お姉さまなんです。私を救うため、無我夢中でこの町に辿り着き、自らを主に置きかえる事で、奴隷決壊から救ってくれました。しかるのなら、私にしてください!痛い目に合わせるのも、全て私にどうぞ!はぁはぁ」


 ユウリちゃんの、悪いところが最後に出ている。ネルエルさんのような可愛らしい女性にしかられるのなら、ユウリちゃんにとってそれは、ご褒美だ。それを見越して、わざと自分が悪者になり、ご褒美を期待して興奮している。


「……そうだったの。ごめんなさい、私は何も知らずに」


 ネルエルさんは、ユウリちゃんの言葉を聞いて、ユウリちゃんの肩に、優しく手を置いた。それから、ユウリちゃんを慈しむような目で見て、そっと抱きしめる。


「あ、あれ……?つねらないんですか?で、でもこれはこれで……」


 ネルエルさんに抱きしめられて、ユウリちゃんの顔は酷い物になる。鼻の下は伸びきり、頬を赤く染め、恍惚に満ちている。2人の背は、ネルエルさんのほうがギリギリ高いので、その豊かな胸が、ユウリちゃんの顎下に押し付けられている格好だ。

 正直言うと、凄く羨ましい。でも、そんな抱き合う2人を見ているのも、何だか尊い気分。


「分かった。この件については、私はもう何も言わない。こうなったら、ネモ。また、私達も城壁を越えて運んでくれる?」

「あたしたちは、正面から入っても、身分さえ証明できればなんともないと思うんだけど。どうして、わざわざ?」

「念のため、ね。もしも私達が正面から町に入れば、レン様の父親にその事が伝わる。そうなった時に、あちらがどう出てくるのか分からない。だから、なるべく隠れて行動したいの。丁度良く、私達は禁断の森で行方不明の、一団なんだから。その立場を最大限に利用しましょう。そして、レン様の父親の本性を暴く」

「……」


 レンファエルさんは、心苦しそうに、胸に手を当てて、視線を落とした。自分の父親に、裏切られたという事実が、彼女を傷つけているのかもしれない。


「私はまだ、父が本当に、私を売ったのか、信じきれません。また、オークと通じて、浚った女性をあのような形で、酷い目に合わせていた事も……」

「分かってるよ、レン。レンの父親は、確かに良い人だ。あたしも、ネルも、知っている。だけど、事実は事実として受け止めて、今は慎重に動くべきって事だ。そんで、全てが分かったときに、良い方に転がっても、悪いほうに転がっても、受け止める覚悟だけはしときな。いいね」

「……はい。お二人には、いつもご迷惑をおかけします」

「何言ってんだい。あんたはあたしらの、妹みたいなもんだ。迷惑だなんて、思っちゃいないよ」

「その通りよ。レン様は、私達に甘えて良い。その権利が、ある」


 そちらの話はまとまったけど、ぎゅーちゃんの問題が、まだ残っている。この町にモンスターが入るには、結界を抜けなければいけない。その結界とは、目には見えないけど、確かに壁のすぐ外側に張られていて、モンスターの進入を拒んでいる。これがある限り、禁断の森の中にいたような、オシュポットやオーク達は、この町に侵入できないだろう。

 小さなぎゅーちゃんが、恐る恐る伸ばした触手は、その結界に触れた瞬間、消滅。ぎゅーちゃんのような高レベルモンスターですら、この結界を通ることは、不可能。

 壊す事は簡単だけど、ネルエルさんの話によると、結界を解いて、また張りなおすのは大変みたい。だから、壊すこともできない。


「ぎゅーちゃん。触手を一本、くれる?」

「ぎゅー?」


 ぎゅーちゃんは、不思議に思いながらも、触手を1本伸ばすと、それを別の触手で切り落とし、ボクに差し出してくれた。

 ボクは、その触手を手に包み、結界を通ってみる。すると、触手を包んでいる手に、熱した針で指されているかのような痛みが走ったけど、特になんともない。通ってから手を開いてみると、触手は無事だった。ボクの手が、結界を遮って、大丈夫だったようだ。


「ちょ、ちょっとネモ。なんともないの?」

「はい。大丈夫です。ぎゅーちゃん」


 ボクは、結界を出て、ぎゅーちゃんを手で優しく包み込む。それから、結界を通って、ちょっと手が痛かったけど、中に入る事ができた。手を開くと、ぎゅーちゃんもちゃんと無事だ。

 こうしてボクは、ぎゅーちゃんを結界の中にいれることに、成功した。


「あたしたちって、もしかして凄くいけない事をしてんじゃないの?」

「それを言ったら、ダメよ。モルモルガーダーは、恩人なんだし、それに悪い子じゃない。と思う。だから、いいの」

「ぎゅーちゃんさんなら、私も大丈夫だと思います。ネモ様もいるので、問題はありません!」


 しかし、そんなボクの行動に気づいた人が、この町の中に、1人だけいた事が予想外だった。


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